北極圏に暮らす兄弟と家族たちのお話
極北極寒の地の色彩あふれる生き生きとした暮らし。
オーロラの国の子どもたち | ||||
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読み聞かせ目安 高学年 20分 ひとり読み向け
あらすじ
北のラップランド。ゆらゆらと美しいオーロラが帯のように広がり、クマは冬ごもり。小さなテントの周りには、たくさんのトナカイが、駆け回っています。
ラッセとリーセは、テントで暮らす仲良しの兄弟。
クマの皮を着て、クマ踊り。スキーを履いて、トナカイを追い、雪の中で元気に遊びます。
ラッセとリーセのお父さんは、トナカイを千頭も飼っていて、雪の大平原で、放牧をして暮らしています。トナカイが食べるコケを求めて、キャンプをしていくのです。
テントの中は、とても暖か。
お父さんは料理番。大鍋の中では、いつも肉がグツグツ煮えています。
お母さんとリーセは、毛皮を縫い、ラッセは、木のカップを彫っています。
北極の冬は長く、暗い夜が続きます。
でも、少しずつ日は長くなり、ラッセとリーセは、学校へ行くようになります。
校長先生の、大きな馬ぞりに乗って。馬ぞりは、子どもたちで満員です。
子どもたちは、村に入る前、毛皮を脱いで、サウナに入ります。
学校では、読み方や書き方、世界は丸いことなどを学び、自分たちは地球儀のいちばん上に住んでいること教わります。
春が終わると、子どもたちは、親といっしょに家に帰ります。
でも、ラッセもリーセも、自分の家が今、どこにあるのかわかりません。二人が学校にいるあいだ、テントが何回も、場所を変えたからです。
1日じゅう、太陽が沈まない夏のあいだ、ラッセたちは海岸で暮らします。トナカイたちに、新鮮な海辺の緑のコケを食べさせるのです。
そして秋になると、幸せな気持ちで、また自分たちの山に戻っていくのです。
読んでみて・・・
北極圏で暮らす、兄弟と家族のお話です。
作者のドーレア夫妻は、妻イングリの祖国ノルウェーを愛し、ノルウェーの美しい自然や人々の暮らし、そこに伝わる物語を、多くの子どもたちに伝えたいと思い、数々の絵本を作ったのだそうです。このブログで以前ご紹介した、『オーラのたび』(吉田新一訳 1983.3.31 福音館書店)や『トロールものがたり』(辺見まさなお訳 2001.9.10 童話館出版)などは、その代表作。
そして、この『オーロラの国の子どもたち』は、夫妻が、ヨーロッパの北端、ハンメルフェストからボセコップまで小さな船で行き、馬に乗り換えラップランドのガルジアへ、そこから夫妻自らトナカイが引くソリを操っていった旅を、もとにしてなったものなのだそうです。
夫妻は出会ったどのラップ人とも、山越えの競争ができるほど、ソリを巧みに操れるまでに、現地の生活に親しみ、文化を深く味わったのだそうです。この絵本には、そんな夫妻の現地への愛情が溢れています。
絵は、夫妻お得意の石板刷り。カラーとモノクロのページが、交互に出てくる構成です。
カラーのページは、どのページも、はっと目が覚めるような鮮やかさ。柔らかく暖かいテントの中のお鍋の火のような、ぬくもりを感じます。男の子が被る青い星形の帽子。女の子の赤い頭巾。北欧独特の文様の衣装の数々も、目の覚めるような色鮮やかさ。辺り一面、雪と氷で真っ白な世界に、明るい陽だまりのような色が、転々と輝いています。
それに対して、モノクロのページは、夜が長く、雪と氷に閉ざされた風土をよく表しているよう。それでも、石板刷りの独特の風合いが、黒を墨の擦れやにじみのように演出し、モノクロで冷たい景色を表現していいながら、とても暖かみを感じさせます。
冷たい氷の上でも、元気いっぱいに遊ぶ子どもたち。トナカイのそりを操り、犬とじゃれあい、スキーを滑り・・・。学校へ入る前のサウナは、本当に暖かそう!画面いっぱいに、湯気が濛々と立ち込め、裸ん坊の子どもたちを包み込みます。蒸気の音まで聞こえてきそうです。
子どもたちの行く学校は、遊牧学校と呼ばれる学校。春になると、子どもたちは親元を離れ、寄宿生活をし、勉強するのだそうです。それで夏、学校が終わると家に帰るのですが、家がどこだかわからない!そうです‼子どもたちが、学校へ行っているあいだも、大人たちは遊牧を続け、キャンプを転々としているので、お家が動き続けているのです。なんだかとってもユーモラスな感じがしますが、これは遊牧民独特の暮らし方。私たちとは、まるっきり違う文化、生活を、この絵本を通して見ることができます。
大空に、ゆらゆらと光たなびく、美しいオーロラ。荒れ狂う雪嵐。
テントのてっぺんの穴から、差し込む北極星の光。
10何人以上もの子どもが乗れるほど、大きな馬ゾリ。
洗礼式のため、コケと毛皮でしっかりくるまれた赤ちゃんを抱いて、教会へ進む人々の行列・・・。
美しく珍しく興味深い光景の数々に、目を見張ります。
夏が近づき、太陽の光が、日に日に強くなるという場面の、地平線から現れた、大きな太陽が、長い舌を出して、ペロペロと大地の雪を舐め溶かしていくさまも、とてもユーモラス!暖かくなって、太陽とともに人々の心も上がり、楽しい気分になっていくのが、よく伝わってきます。
ノルウェーを愛し親しんだドーレア夫妻の、誠実で精緻な現地調査、肌で感じ取った文化が、愛情をこめて、暖かく描かれた、楽しく美しい絵本です。
極北極寒の地でも、生命力と色彩あふれる暮らしを営む人々の、素朴で豊かな暮らしが、生き生きと描かれた、素晴らしい絵本だなと思いました。
なお、この絵本に登場する人々は「ラップ」と表現されていますが、現在では「ラップ」という名称は、ふさわしくない表現とされ、使われなくなっているようです。しかし、翻刻にあたって、当時の著者の言葉と内容を忠実に伝えるため、あえて名称は、「ラップ」のままにしてあるのだそうです。この絵本で描かれた人々は、現在では「サーミ」と呼ばれています。
今回ご紹介した絵本は『オーロラの国の子どもたち』
イングリとエドガー・パーリン・ドーレア作 かみじょうゆみこ訳
2018.11.15 福音館書店 でした。
オーロラの国の子どもたち | ||||
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