絵本とむかしばなし

小学校で絵本の読み聞かせや昔話のストーリーテリングをしています。楽しいお話、心温まるお話をいろいろご紹介していこうと思います。

『トロールものがたり』

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トロールたちのお話

 北欧に伝承される数々のトロールたちのお話です。

トロールものがたり

イングリ・モルテンソン・ドーレア/エドガー・パーリン・ドーレア 童話館出版 2001年09月
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 読み聞かせ目安  高学年  ひとり読み向け

あらすじ

 むかしむかし、ノルウェーの山々には、いろいろなトロールが住んでいました。

 

山のトロール、森のトロール、水のトロール、1つ頭のトロール、3つ頭、12頭のトロール・・・。

トロールには、魂がなく、醜い姿をしていましたが、ハルダー族の娘だけは、とても美しくて魅力的でした。

トロールのなかで、いちばん小さいのは、地の精のノーム族で、山にうずもれている金を掘っていました。

いちばん大きいのは、山の洞窟に住む巨人族で、50人力の力持ち。人間に魔法をかけることもできました。大食らいのトロールは、人間の肉のシチューが大好きで、人びとは、トロールが出てくる音を聞くと、固く扉を閉めるのでした。

 

12頭のトロールの、食事は大変!手は2本しかないのに、どの頭も大食らい。2本の手は大忙し。夢を見る時も、それぞれの頭が、それぞれ別の夢をみました。

頭がかゆいときも大変で、ある12頭のトロールは、頭ひとつひとつ掻けるように、12人

のお姫様をさらっていきました。王様は、嘆き悲しみましたが、勇敢なひとりの若者が、トロール退治に出かけ、魔法の水と大きな剣でトロールを退治!若者は、褒美に国の半分と、いちばん美しい末のお姫様を、お嫁にもらいました。

 

森のトロールは、大きな頭を持っていましたが、たいていその中身はお粗末で、人間から簡単に、騙されてしまうこともしばしば。3人で、たったひとつの目玉しか持っていないトロールもおりました。

 

トロールの目玉には、”トロールとげ”があります。”トロールとげ”は、あらゆるものを、ゆがんで見せるので、醜い自分の姿も、不格好な女房も、トロールにはたいそう美しく見えました。

 

トロールの女房たちは、ときに隙を見て、人間の赤ちゃんと自分の赤ちゃんを、取り換えることがありました。運悪く、自分の赤ちゃんを取り返せなかったお母さんは、一生トロールの赤ちゃんと暮らさなければなりません。

 

ハルダー族の娘は、人間の若者を誘惑します。

娘の美しさに、心惑わされた若者は、地下の国へと連れていかれ、人間の魂を失ってしまいます。でも、冷静な若者は、ハルダーの娘を、自分の家に連れて帰って結婚し、娘はトロールのしっぽが取れて、人間になります。若者が娘を十分に愛しているあいだ、若者はハルダーの祝福を受け、富み栄えることができました。

 

ハルダーの娘と人間の若者の間に生まれたハルダーっ子は、話し上手。

あるとき、トロールたちに氷の巨人の話をしていると・・・、夢中になったトロールたちは、太陽が昇る時間をすっかり忘れ、朝日をまともに見てしまいました。暗闇の生き物であるトロールは、身を滅ぼし、山や石になりました。

他にもこんなふうに、山や石になったトロールが、たくさんいたのでしょう。もう100年も前から、トロールの姿を見た人はいなくなりました。

 

でも、トロールが石になるとき、目の中の”トロールとげ”が、あたりにまき散らされました。それで、今の世の中にも、物をゆがんで見る人がいるのだそうです。

 

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読んでみて・・・

 北欧に古くから語り継がれている、トロールという怪物たちのお話です。

 

このお話は、ひとつの物語ではなく、複数のトロールのお話が、ひとりの語り手によって、次々と語りつなげられていくもの。それぞれ別個にして、1冊の絵本にでもできそうな、お話のボリュームがあり、読み応えがあります。とても長いので、学校での読み聞かせには向きませんが、お話も絵も、冬の寒い日、おうちにこもってじっくり読み込むのには、ぴったりな1冊です。

 

トロール。日本に住んでいる私たちには、なじみのないものですが、北欧の人々にとっては、昔からとても身近なものだったのでしょう。

山、石、森、水・・・。ありとあらゆるものに宿っている、精霊みたいなものでしょうか。冬は日が昇る時間も少なく、寒く厳しい北欧の自然は、人間の暮らしにとって苛酷なもの。ただ美しいばかりではない自然が、きっと醜いトロールとして、形象化されていったのだろうと感じます。

でも、醜くて人を食ってしまうトロールも、怖く醜いばかりではなく、まぬけで人にすぐだまされたり、どこか憎めないユーモラスなところがあったり。

ハルダー族の娘のように、うっとりするほど美しいトロールもいたり・・・。

トロールたちは、美と醜と、脅威と愛しさと、自然のいろいろな面を、自然とともに暮らしてきた北欧の人々の、生活に根差した感覚から生まれたきたものなのだなと、しみじみ感じます。

 

また、トロールたちのありようや、人間とのかかわりは、人間社会の隠喩のようでもあります。

ハルダーの乙女の美しさに惑わされ、働くことも悩むこともせず、地下の世界で暮らす若者が魂を失い、乙女の美しさに魅せられても、我を失わず、誠実な道を歩む若者が、ハルダーの祝福を受けて栄えることは、享楽的な人生を送る者と、実直な人生を送る者の対比そのもの。

トロールの目には、”トロールとげ”があって、世界をゆがんで見せること。このとげが刺さった人間も、良いことが悪く見え、悪いことが良く見えるようになる。そして自分に”トロールとげ”が、刺さっていることに気づかない。

トロールとげ”というと、アンデルセンの『雪の女王』。

トロールとげ”が目に刺さったために、雪の女王の魔力に縛られる男の子カイと、純粋無垢な心でカイを救うゼルダの物語が、思い出されます。(『雪の女王』のお話を絵本にしたものにも、とても素敵な1冊があるので、今度ぜひまたご紹介しようと思っています。)

 

人間の心のありようや、自然への思い、かかわり、そういったものがいろいろなトロールとそのお話として、北欧の人々の生活の中から生まれ、長い長い時を経て、語り継がれてきたんだなと感じます。

この絵本では、こういった途切れることなく語り継がれてきたお話の数々が、途切れることなく次々と現れ、子どもたちを飽かず楽しませてくれます。

 

絵は、多色の石板刷り。

素朴でダイナミックな、力強さを感じる絵になっています。

気味の悪い12頭のトロール。24の大きな鼻の穴からは、荒い鼻息がこちらまで聞こえてきそう。

長く曲がった赤い鼻でスープをかき混ぜる、おばあさんトロール

地響きが聞こえてきそうな、酔っぱらった山のトロールたちの足踏み。

12人のお姫様を救った若者がまたがるトロール馬の荒々しい鼻息は、何もかも吹っ飛ばしてしまいそうな勢いが伝わってきます。

トロールのお話として有名な、あの『がらがらどん』も、こっそり描かれています。

険しい自然と、それが生み出してきたトロールの世界が、十分に感じられる見応えのある楽しい絵の数々です。

 

もう100年このかた、トロールを見たものはいなくなってしまった、とお話の終わりにありますが、きっと今でも、山や森の奥にはトロールがいる。北欧の人びとは、今でも心のどこかに、そんな思いを持って、トロールを身近に感じながら暮らしているのではないかなと感じられる絵本です。

お話の最後のページには、”トロールとげ”が刺さった人が、今でもいること。あなたもきっと、知っているでしょ、という感じで終わっています。トロールを身近感じさせる、心憎い演出です。

 

冬。 雪や氷に閉ざされた厳しい自然が生み出した、興味深いお話の数々を、おうちにこもってじっくり読み味わうのも、いいものだなと思いました。

 

 

 今回ご紹介した絵本は『トロールものがたり』

イングリ・ドーレア エドガー・ドーレア作・絵 辺見まさなお訳

2001.9.10  童話館出版  でした。

トロールものがたり

イングリ・モルテンソン・ドーレア/エドガー・パーリン・ドーレア 童話館出版 2001年09月
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