アンデルセンの名作
魂の奥深くに響く絵本です。
雪の女王?七つの話からできている物語 (世界傑作童話シリーズ) 中古価格 |
読み聞かせ目安 高学年 ひとり読み向け
あらすじ
ある日、悪いトロル《悪魔》が、鏡をひとつ作りました。その鏡は、良いものや美しいものが小さく見え、役に立たないものや醜いものが、のさばって見える鏡。世界を歪んで見せる鏡でした。
ある時、トロルたちがこの鏡を、高いところから落っことし、その時、何千万、何億もの鏡のかけらが、広い世の中に飛んでいきました。そして、この鏡のかけらが、目に入った人は、何もかもをあべこべに見たり、悪いようにばかり見ることになってしまったのでした。
あるところに、カイという名の男の子と、ゲルダという名の女の子がいました。二人は隣り合う家に住み、とても仲良しでした。
ある日のこと、ふたりが仲良く絵本を読んでいると・・・、
「あ、いたい!胸がちくっとした!おや、こんどは、なにかが目にはいったぞ!」
カイの目と心臓に、あの悪魔の鏡の粒が、入ってしまったのです!
その時からカイは、ひどくいじわるな男の子になってしまいました。人をからかったり、意地悪なことばかりして、ゲルダを悩ませます。
そしてある日のこと。大きなソリに乗った雪の女王が現れ、カイを連れていってしまったのです‼
カイは、冷たい雪の女王に魅せられ、大好きなゲルダのことも、おばあさんのことも、うちのことも、すっかりすべて忘れてしまいました。
ゲルダは、カイを探しました。
たったひとりで、ボートに乗って川を下っていくと、魔法使いのおばあさんの家に着きました。
ゲルダは、魔法使いのおばあさんに気に入られ、いっしょに暮らすことになりました。おばあさんは、ゲルダが外のことを思いださないよう、魔法をかけます。
それでもゲルダは、花々を見てカイのことを思い出し、おばあさんの家を出ていきました。
ゲルダは、道中出会ったカラスに案内され、ある王女様のお城へいきます。王女と結婚することになった男の子が、どうやらカイらしいと聞きつけたのです。
ですが、その王子は、カイではありませんでした。
ゲルダは、王女様から馬車や暖かい衣服、食料をもらい、お供まで付けてもらって、またカイを探しに出ました。
でも・・・、しばらく行くと、王女様からもらった立派な馬車の一行は、山賊たちに襲われてしまいます。先乗りも、御者も、召使もみな殺され、ゲルダも殺されそうになりますが・・・、
「この子は、あたしとあそぶんだよ!」
小さな山賊娘が止めました。山賊娘は、自分の飼っているハトやトナカイを、乱暴に扱っては喜ぶ、残忍な性格でしたが、なぜかゲルダに魅かれ、ゲルダには優しくしてくれました。
その後ゲルダは、ハトたちから、カイが雪の女王のところにいると聞きます。
山賊娘は、自分のトナカイにゲルダを乗せ、雪と氷の世界ラップランドへと、旅立たせてくれました。
ラップランドに着いたゲルダは、ラップ人のおばさんの家を訪ねました。
おばさんは、雪の女王はもっと先の、フィンマルケンにいるから、フィン人のおばさんのところへ行くようにいい、干ダラに手紙を書いてくれました。
フィン人のおばさんは、カイが確かに、今、雪の女王のところにいること、目と心臓にガラスのかけらが刺さっていて、雪の女王のところがいちばんだと思い込んでいる、ということを教えてくれました。そしておばさんは、ゲルダの心のなかには、女王に打ち勝つ力があることを教えてくれます。
ゲルダは走り、《主の祈り》を唱えました。すると・・・、天使の軍勢がゲルダを加勢してくれました。
雪の女王の城へ着くと、カイは女王のもとで、真っ青になって「知恵の氷あそび」をしていました。氷のかけらを並べて「永遠」という文字が作れたら、カイは自由の身になれるのですが、カイにはそれができません。
そこへゲルダがやってきて、カイのために讃美歌を歌いました。
すると・・・、カイはわっと泣き出して、あんまり泣いたので、鏡の粒が、目から転げだしました。カイは。ゲルダを思い出し、カイもゲルダも大喜び!!氷の粒まで喜んで踊り、「永遠」という文字ができました。
それから、ゲルダとカイは、雪の女王の城を出て、トナカイに乗り、フィン人のおばさん、ラップ人のおばさん、山賊娘のところを通って、家に帰っていきました。
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読んでみて・・・
有名なアンデルセンの『雪の女王』を、絵本に仕立てたものです。
ここ数年、『雪の女王』といえば、すっかり『アナ雪』にもっていかれてしまっていますが、やっぱり、本家本元アンデルセンの『雪の女王』を、今の子どもたちにもたっぷり味わってもらいたいなと思います。
この絵本は、一見すると、とても地味です。もう長らく絶版になってしまっていて、中古でしか、もはや手に入らないのではないかと思います。パラパラとページをめくってみると、絵は沈んだ色調、文章は長く、文字数が多いので、ちょっと取りつきにくいかもしれません。ぱっと心が浮き上がるような、楽しそうな絵本には見えません。
でも、じっくり読み込んでみると、とてもとても深い味わいがあります。
墨を流したような、グレーがかった色彩。
北欧の冷たく厳しい気候、カイを探すゲルダの旅路の険しさが、染み入るように伝わってきます。
漆黒の夜空に瞬く大きな月を背景に、真っ白なソリに乗って空を飛ぶ雪の女王は、威厳に満ちて美しく、瞳は氷のように冷ややかに澄んでいます。雪と氷のきらめきを、身にまとった女王の気品高い美しさは、出会ったカイを魅了し虜にしてしまう、ぞっとする魔力を持っているものだということが見て取れます。
不気味なカラスの群れ。
寒風に吹きさらばえながら、さまよう小さなゲルダ。
夢のなかを走りすぎる、馬に乗った狩人や紳士淑女の影の数々も、あてどなくさまよう不安なゲルダの心の投影のようです。
北の果てにある、凍てつく大きな氷山のような、雪の女王の氷の城。
真っ暗な中にそびえる氷の城は、黒く、そして氷のように冷たくなったカイの心を、固く閉ざし、堅牢に取り囲んでいるようです。
そう。この絵本の絵は、まさに心象風景の表象。
歪んだ心、醜い心を解きほぐし、清らかな心の世界へ導いていくことの、困難、厳しい道のりを、カイを救うゲルダの険しい旅路を描くことで、表現しているのだと思います。 具象と抽象が織り交ざったような、高度に研ぎ澄まされた、美しい表現です。
ゲルダを乗せた山賊娘のトナカイは、フィン人のおばさんに、ゲルダに雪の女王に打ち勝つ力を付けてくれるよう頼みます。でも、フィン人のおばさんは言います。
「わたしには、ゲルダが今もっているより大きな力を、あの子につけてやることはできないよ!あの子の力がどんなに大きいか、おまえにはわからないかい?ほら、人間でも動物でも、あの子になにかしてやらずにはいられないだろ?そこで、あの子は、はだしのまんまで、この世界の果てまで、ぶじにやってきている、・・・・・・それが、わからないかい?あの子は、力なんてものを、わたしから教えてもらうことはない。その力は、あの子の心中にちゃんとある。あの子が愛らしくて罪のない子だというのが、りっぱな力なのさ。」
無償の愛。穢れない清らかな心。それこそが、歪んだ心、醜い心を打ち破り、悪に囲まれ閉ざされた氷のような冷たい心を、「永遠」という自由へ解き放つ、唯一最大の力なのだと教えてくれます。
野蛮な山賊娘も、犯しようのない清らかさを持つゲルダには、手出しをせず、惜しみなく手を貸します。無意識裏に、ゲルダの清らかさに憧れ、感化されているのでしょう。
魂の奥深くに響くものを、非常に敬虔な気持ちを、読む者に与えてくれる、とても精神性の高い絵本だなと思いました。
浮足立った面白さ、ワクワク胸躍らせるような楽しさとは、無縁の絵本ですが、これから本格的な読書に入っていく、大きな子どもたちに、ぜひじっくり読み味わってもらいたい絵本です。
絵と物語を、しっかり心に響かせて、読んでもらえたらいいなと思いました。
今回ご紹介した絵本は『雪の女王』
ハンス・クリスチャン・アンデルセン作 ラース・ボー絵 大塚勇三訳
1979.10.31 福音館書店 でした。
雪の女王 | ||||
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