愛される幸せ
存在を認められる喜び。生きていく力の基本になる愛が感じられる絵本です。
読み聞かせ目安 中学年 10分
あらすじ
あるところに、小さいお人形がいました。
お人形は、持主の女の子のポケットに入れられていましたが、ある日、女の子が買い物に行ったとき、ポケットから滑り落ち、スーパーの冷凍庫の中に、置き去りにされてしまいました。
冷凍庫のなかは、寒くて凍えそう!
お人形は、冷凍イチゴやアイスクリームを食べながら、冷凍食品の箱の間で、何日も過ごしました。
そんなある日のこと、お母さんと買い物に来た、小さな女の子が、お人形を見つけます。
女の子は、寒そうなお人形を見て、家に連れて帰りたくなりましたが、お店の物を勝手に持って行ってはいけないと思い、そのまま家に帰ります。
家に帰った女の子は、お人形のために、暖かい帽子とオーバーを縫いました。
マッチ箱に入れ、ハトロン紙で包み、翌日、スーパーへ持って行きました。
包みをもらったお人形は、嬉しくてたまりません!
オーバーを着て、帽子を被り、マッチ箱をベッドに、ハトロン紙をお布団にして、幸せな気持ちで眠りました。
それから毎日、女の子は、お人形にプレゼントを届けます。
スカーフにセーター。ペチコートにパンティ、タイツ。
お人形の身なりは、すっかり立派に整いました。
でも、女の子の他は、誰も、お人形に気がつきません。
女の子は、ある日、お母さんにいって、レジの人に、お人形のことを聞いてもらいました。
ツンとすましたレジの女の人は、お人形を見つけると、つまみ出し、女の子に持っていっていいといいました。
お人形は、女の子の家の人形の家で、楽しく暮らすようになりました。
読んでみて・・・
自分の存在を認めてくれる人、自分のことを考えてくれる人がいる幸せ。愛されるということの幸せを見せてくれる、暖かい絵本です。
お話はさりげなく、淡々と進んで行きます。見捨てられたお人形が、女の子に見つけられ、衣服をもらい、最後は家に連れていってもらえる。ただ、それだけの事が描いてあるのですが、ひとつひとつの事が、具体的に描いてあるので、子どもたちは、お人形に起こった出来事、女の子が行ったこと、その時のお人形の気持ち、女の子の気持ちを、お話の進行にそって、順にひとつひとつ積み重ねて認識し、心に刻んでいくことができます。
見捨てられ、冷たい冷凍庫の中をさまようお人形の、寂しく心細い気持ち。
お人形を見つけ、連れ帰りたいと思ったけれど、日頃、お店の物を勝手にいじってはいけないと言われているため、そのままにして帰る女の子の気持ち。
寒そうで寂しそうなお人形を思い、服を作る女の子の、優しくいじらしい気持ち。
細やかな心のひだが、決してセンチメンタルに浸り込むのではなく、淡々とたたみ重ねるように語られるので、相手を思うということ、相手に優しくするということが、どういうことなのかがよくわかり、自然と優しい気持ちになっていきます。
自分の事を考えてくれる人のことを思って、幸せな気持ちになる。
自分の存在を認められる幸せ。
思い思われる幸せ。
愛の基本、生きていく力となるものを、とてもさりげなく、わかりやすく描いてあるので、大人も、その根本的なことにはっとさせられ、しみじみと暖かく、優しい気持ちになっていきます。
繊細で柔らかなエドワード・アーディゾーニの絵も、地味ではありますが、とても丁寧で落ち着いた、暖かみのある絵です。テクストを書いたのは、アインゲルダ・アーディゾーニ。エドワードの息子さんのお嫁さんだそうで、この絵本は嫁舅による、共作ということになります。
女の子に家に連れていってもらえたお人形は、女の子の家の人形の家で、他のお人形たちと一緒に、楽しく暮らします。お人形たちは、小さいお人形の、冷蔵庫での冒険の話を、とても楽しんで聞いてくれます。仲間に認められる安心感と満足。お人形の心に寄り添って、お話を読んできた子どもたちも、きっと安心感と満足をもって、この絵本を読み終えることができるでしょう。
一見地味ですが、生きる力の基本になる、愛されるということが、暖かく描かれた、穏やかで安らかな、素敵な絵本だなと思いました。
今回ご紹介した絵本は『まいごになったおにんぎょう』
A.アーディゾーニ文 E.アーディゾーニ絵 石井桃子訳
1983.11.15 岩波書店 でした。
まいごになったおにんぎょう | ||||
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