絵本とむかしばなし

小学校で絵本の読み聞かせや昔話のストーリーテリングをしています。楽しいお話、心温まるお話をいろいろご紹介していこうと思います。

『マイク・マリガンとスチーム・ショベル』

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文明と社会

 本当の文明の在り方とは何かを問いかけてくれる絵本です。

 

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読み聞かせ目安  中学年  15分

あらすじ

 マイク・マリガンは、きれいな赤いスチーム・ショベルを持っていました。

マイクは、スチーム・ショベルをメアリ・アンと名付け、大切にしていました。

 

マイクは、メアリが自慢です。

マイクはメアリが、100人の人間が1週間かかる仕事を1日でできる、といばっていました。でも、メアリはやってみたことはないので、本当のことはわかりませんでした。

 

マイクとメアリは、たくさんの仕事をしました。

大きな船が通れる運河を掘ったり、汽車が通れるように山を切り開いたり、丘を削ってハイウエイを作ったり、飛行場の地面を平らにしたりしました。

 

大きな街のビルの地下室を掘ったときは、大勢の人たちが、マイクとメアリの仕事を見に来たので、やるき満々!とても速く仕事ができました。

 

でも・・・、そのうち、新式のガソリン・ショベルや電気・ショベル、デイーゼル・ショベルが発明され、メアリの仕事はなくなっていきました。

 

そんなある日。マイクは新聞で、ホッパビルという町に新しい役所を建てることを知ります。マイクはメアリにいいました。

 

「おれたちで そのやくしょの ちかしつを ほりにいこう」

 

マイクは、ホッパビルのヘンリ・スワップというお役人に、メアリが100人の人間が1週間かかる穴を、1日で掘れるといい、掘れなかったらお金は貰わないという約束で、仕事を受けました。スワップさんは、少しでもただで穴が掘れるのは、儲けものだと思ったのです。

 

次の日、マイクとメアリは、穴を掘り始めます。

 

小さな男の子が見に来ました。

マギリカディおばさんとスワップさんと巡査さんが来ました。

 

見物人が多くなると、マイクとメアリの仕事は、速く上手になります。

それを知った男の子は、町の人を大勢呼んでできました。

 

郵便屋さんに牛乳屋さん、お医者さんにお百姓さん。消防士さんに学校の先生、生徒たち。たくさんの人に見守られ、マイクとメアリの仕事はぐんぐん進んでいきました。

 

時間は刻々と進んでいきましたが、時間とともに見物人も増え、マイクとメアリの仕事もますます上手に速くなっていきます。

 

そしてとうとう、日が丘の向こうに沈んでいくころ、地下室の穴は掘りあげられたのです!!

 

「マイク・マリガンとメアリ・アン、ばんざあい!ふたりは、ちかしつの あなを 1にちで ほってしまったぞ」

 

ところが・・・。あんまり急いで掘ったので、マイクは自分たち出口を掘り残すのを忘れていました!ふたりはどうやって穴から出るのでしょう?!

 

その時です!はじめからふたりの応援をしていた男の子がいいました。

 

「メアリ・アンを ちかしつに いれたままに しておいて、そのうえに、しやくしょを たてれば いいよ。メアリを あたらしい しやくしょの ボイラーにして、マイク・マリガンを かんりにんに すればいいんだ。」

 

このひとことで一件落着!

マイクとメアリの頭の上に、新しい役所が建てられました。

 

男の子は、毎日マイクとメアリに会いに来ます。

マギリカディおばさんは、焼き立てパイを持って。

スワップさんはマイクとおしゃべりに来ます。(もうずるそうではなく、にこにこして)

マイクはパイプを吸いながら揺り椅子に腰かけ、メアリは蒸気を送って、役所を暖めています。 

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 読んでみて…

 

  『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』(1961.8.1 福音館書店)や『はたらきもののじょせつしゃけいてぃー』(1978.3.20 福音館書店)の、バージニア・リー・バートンの絵本です。

 

masapn.hatenablog.com

 

 

masapn.hatenablog.com

 

ちゅうちゅうやけいてぃーと同じく働く乗り物で、今回はスチーム・ショベルです。

 

マイク・マリガンのスチーム・ショベルにはメアリ・アンという名前が付けてあり、ちゅうちゅうやけいてぃー同様、見た目は鉄のいかつい機械ですが、一つの愛すべき人格として登場します。

 

真っ赤な表紙には、画面を突き破って出てきそうなメアリ!

マイクによってピカピカに手入れさた、元気に力いっぱい生き生きと働く車であることが一目で伝わってきます。ショベル部分には、ぱっちりと大きな目も描かれていて、無機質な機械ではなく、まさに生き物として描かれています。

乗ったマイクもニコニコと手を挙げ、メアリと一緒にいるのが嬉しくてたまらないといった感じです。

 

表紙を開くと、見返しにはメアリの図解。

部品や動き方の説明が、具体的に細かく示され、つかみから一気に、子どもたちにメアリに対する理解と親しみを与えるようになっています。

 

100人の人間が、1週間かかる仕事を1日でできるメアリ。

メアリとマイクは、何年も一緒に穴を掘り、たくさんの仕事をします。

運河にハイウェイ、飛行場etc・・・。

仲良く仕事をしますが、この絵本の優れたところは、主人公マイク・マリガンとメアリ・アンだけが、優れた仕事をしてきたというだけでなく、毎回、~したのは

 

「マイクと メアリと、それから そのとき、いっしょに はたらいた ひとたちでした。」

 

と、いろいろな仕事例をあげるたび、そのつどいって、マイクとメアリの優れた仕事には、いつも多くの人々が共に関わり、成し遂げていったことを示しているところです。

 

社会というものが、一部の優れたものによって作られるのではなく、多くの人々の協力で出来ることを、丁寧に積み重ねるようにして、読んでいる子どもたちに教えてくれます。

 

でも、マイクをはじめ、みんなから愛され頼りにされてきたメアリですが、時代と共にもっと性能の良いショベルカーが開発され、スチーム・ショベルは廃品扱いとなっていきます。

 

進化、進歩、開発。近代社会の中で、一直線に進んで行く文明化、機械化の波は、その中から生まれてきた機械をも、ちょっと古くなれば、次々に押し流していきます。

人びとは次々に、より新しいもの、より性能の良いものを追い求め、古いものには見向きもしなくなっていきます。

 

でも、マイクは違いました!

移りゆく時代の中でも、メアリとそして自分が、再び生きる場所を獲得したのです!!

 

マイクとメアリが、再生を果たすホッパビルという町に向かう道程は、高層ビルの建ち並ぶ都会、鉄道、運河、道路というふうに、まさにふたりが作ってきた文明の産物を遡行する道のり。到着したホッパビルは、まだ馬車の通る、時代に取り残されたようなのどかな街です。一見するとふたりは、文明の波に追いやられ、都落ちしていくようにも見えますが、ここには、近代のリニア―に進んで行く、進歩史観に対するアンチテーゼを見ることができるような気がします。

 

 

進化すること、進歩することこそが、良いとされた近代。本当にそれは良いことなのか。そこで取りこぼされたものはなかったか・・・。リニア―な、不可逆な進化の過程を、あえて逆行することによって、見つけられることもあるのではないかと、私たちに示してくれているように思えるのです。

 

また、マイクとメアリの再生は、高齢化社会において、リタイアしたもののその後の生き方、働き方にも示唆的です。本来の形で、第一線で働くことはできなくても、新しい働き方を見つける、新たに生き生きと豊かに生きる姿を見せてくれています。

 

そしてそんな、新たな活躍の場を切り開いていく過程を、町中の人々が応援する。

役所の人、巡査さん、郵便屋さん、お医者さん、お百姓さん、学校の先生、生徒たち・・・町中のありとあらゆる人々が、大人も子どももみんなで見守り、応援しています。コミュニティを構成する人々が、一体となって、マイクとメアリの再出発を支えているのです。

 

ここでもやはり、社会というものが、たとえ表面に現れている仕事や事柄が、ごく一部のものの成したものであっても、そこには多くの人々の目や手、力があることを示しています。

 

近代における文明、進歩、進化に対する批判。労働や社会の在り方の本質を、子どもたちに、楽しみに包みながら、投げかけ、見せてくれている絵本なのだと思います。

そしてそれはまた、私たち大人にも向けられています。

 

同じくバートンの『ちいさいおうち』(1965.12.10 岩波書店)もそうでしたが、アメリカでの初版から70年以上もたった今なお、私たちに指し示してくれているものの多さに感じ入ります。

 

 

masapn.hatenablog.com

 

色彩豊かに、細部までよく 描き込まれた絵は、見れば見るほど新しい発見があり、飽きることがありません。それぞれのページに、それぞれの小さなドラマがあり、細部も全体も、とても楽しい絵本です。

そしてその楽しさの中に、進化すること、進歩することとは何なのか。本当の文明のあり方とはどういうものなのかを問う、本当に力のある優れた絵本だと思います。

 

 

 今回ご紹介した絵本は『マイク・マリガンとスチーム・ショベル』

バージニア・リー・バートン文・絵  石井桃子

1995.2.1 童話館出版  でした。

マイク・マリガンとスチーム・ショベル

ヴァージニア・リー・バートン/石井桃子 童話館出版 1995年02月
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