躍動する絵の迫力!
機関車のスピード感が、生き生きと描かれた絵本です。
読み聞かせ目安 低学年 12分
あらすじ
あるところにちゅうちゅうという名前の、黒くてきれいな可愛い機関車がいました。
ちゅうちゅうは毎日、貨車や客車に荷物やお客さんをいっぱい乗せて、小さな町から大きな町へ、大きな町から小さな町へ、畑やトンネル、丘を抜けて運んでいました。
ある日ちゅうちゅは考えます。
「わたしは、もう、あの おもい きゃくしゃなんか ひくのは ごめんだ。わたしひとりなら、もっと もっと はやく はしれるんだ。そうしたら、きっと みんなが たちどまって、わたしを ながめてーーわたしだけを ながめて、いうでしょう。『なんて きのきいた かわいい きかんしゃだろう!なんて はやい しゃれた きかんしゃだろう!なんて きれいな すてきな きかんしゃだ!あれ、ごらん。ひとつだけで はしっているよ』って」
そして、機関士のジムと機関助士のオーリー、車掌のアーチボールドが休憩しているすきに、一人だけで走り出してしまいました。
ちゅうちゅう、しゅっしゅ!
ちゅうちゅう、しゅっしゅ!
あまりに勢いよく走ったので、線路沿いの人も牛も馬もびっくり!!
踏切も勝手に通り抜けたので、自動車やトラックはガチャガチャぶつかり合うしまつ。
ちゅうちゅうのおかげで、町は大混乱!!
ぐんぐんスピードを上げるちゅうちゅうは、もう止まろうと思っても止まれないほど加速し、上がる跳ね橋を飛び越え、はずみで炭水車を橋下に落とし、大きな駅の操車場に突っ込み、どんどん町を抜け、田舎道へ・・・。
だんだん辺りは暗くなり、炭水車がないので、石炭も水も少なくなり・・・。とうとう暗い森の古い線路の上で止まってしまいました。
ちゅうちゅうが逃げ出したのを知った、ジムとオーリーとアーチボールドは、大慌て!3人は最新式の汽車に乗り、ちゅうちゅうを追いかけます。
ちゅうちゅうに脅かされた町の人や動物たちが、ちゅうちゅうの行方を教えてくれます。
そうしてジムたちは、やっとのことでちゅうちゅうを見つけ、機関庫に連れ帰りました。
ちゅうちゅうは、二度と逃げたりなんかしないと心に決めるのでした。
読んでみて…
表紙を開くと、見開きいっぱいに大きな町と小さな町、海に山に丘、畑。そして線路にトンネル、駅。真っ黒な機関車ちゅうちゅうが走る風景が、色鮮やかに、そして静かに広がります。
その後は、白地に黒いコンテのみ。
まず、お話のはじめは、ちゅうちゅうの説明です。
踏切に来ると、「ぴいいいいいー」と鳴るちいさな汽笛。
駅に来ると、「かんかん!」と鳴る鐘。
「すうすすす しゅう しゅっしゅ!!」とすごい音をたてるブレーキ。
可愛いちゅうちゅうの部品が、愛おしいげに語られます。
ジムやオーリー、アーチボールドといった、ちゅうちゅうのお世話をする人々も、誇り高く紹介され、ちゅうちゅうの可愛さ、普段人々から愛される機関車であることが読む人に伝わってきます。子どもたちも、読み進めていくうちに、どんどんちゅうちゅうを身近なお友達として、愛おしむようになることと思います。
さて、その愛されちゅうちゅですが、ある日、とんでもないことをしでかします。
勝手に一人で逃げ出して、町をかき乱し、森の中へ突っ込んでしまうわけですが、この絵本は、絵の迫力が素晴らしい!!
どのページも、画面いっぱいに黒コンテで力強く描かれた絵は、猛スピードで走るちゅうちゅうの勢いが、スリルいっぱいに伝わってきます。コンテの粉っぽさが、石炭の煙をはく機関車の迫力を、ダイナミックに伝えているのです。
文字のレイアウトも秀逸で、ちゅうちゅうの走る線路と同じカーブを描いて配置され、勢いよくまっすぐだったり、くねくねカーブしていたり、読み進めながら読んでいる方も、ちゅうちゅうと一緒に走っているような気分になります。
そして、ちゅうちゅうが森で力尽き、ついに止まってしまうとき
「ちゅうう ちゅう ちゅう ちゅう ち ち ちゅううう・・・・・・ちゅう・・・・・・ちゅう・・・・・・ちゅうう・・・・・・ちゅう・・・・・・ち・・・・・・ち・・・・・・ち・・・・・・ち・・・・・・ち・・・・・・あ あ あ あ あ ああ ちゅう!」
あれほど勢い盛んに走っていたちゅうちゅうが、なんとも情けなく寂しくしょんぼりになってしまう様子が、文字によっても見事に表現されているのです。
この場面では、黒のコンテもまたきいていて、森の木々がうねうねとお化けのように枝をうねらせ不気味に描かれていて、ちゅうちゅうの不安で寂しい心を表現しています。
白黒だけで描かれた画面に、機関車の迫力、スピード感、登場する人物や動物の表情、風景、すべてがとても生き生きとドラマチックに描かれていて、読むものを惹きつけてやみません。
お話は、ちいさい子ども向けにしては、やや長いのですが、なにしろこのスピード感。ちいさい子も飽きずに読めると思います。
最後のページは、夜。ここでも黒コンテがきいています。
緩やかに曲がる線路の上を、ジムの運転で車庫に帰るちゅうちゅうを、黒コンテで描かれた夜空が、暖かく包み込むように広がっているのです。
そして、お話が終わったあと。裏表紙の見開きで、また、表表紙と同じ風景が、色鮮やかに繰り返されます。
ちゅうちゅうが暴走してきた線路、町、跳ね橋、トンネル、丘、畑。ここが舞台だったんだな、ここで繰り広げられた物語だったんだなと、最後に確認できるようになっているのです。
最初の表紙見開きで提示された同じ風景も、振り返ってみると、ここがお話の舞台なんですよ、ここでどんな物語が始まるのでしょうねと、絵が語っていたんだなということがわかります。
最初と最後の静かな舞台風景画がカラーで、スピード感あふれる動きがある物語内容がモノクロという対比も、メリハリがあり、また、前後のカラーの風景画の落ち着きが、躍動する物語を静かに収めていて、本としてのまとまりもとても良いものになっていると思います。
本当によく作られた素晴らしい絵本です。
この絵本は、以前ご紹介した『ちいさいおうち』と同じ、バージニア・リーバートンによるものです。このような素晴らしい絵本を、子どもたちにもっともっとたくさん伝えていきたいなと思います。
今回ご紹介した絵本は『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』
1961.8.1 福音館書店 でした。
いたずら きかんしゃ ちゅう ちゅう |
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