絵本とむかしばなし

小学校で絵本の読み聞かせや昔話のストーリーテリングをしています。楽しいお話、心温まるお話をいろいろご紹介していこうと思います。

『歯いしゃのチュー先生』

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腕利き歯いしゃのチュー先生のお話

ユーモアとスリルと仕事人としてあるべき姿をみせてくれる絵本です。

            

読み聞かせ目安  中学年  13分

あらすじ

ネズミのチュー先生は歯いしゃさん。

とても腕利きなのでいつも患者さんが絶えません。

小さな動物からとても大きな動物まで、誰でも上手に治療します。

牛や馬など大きな動物を治療するときは、奥さんに手伝ってもらって、宙吊りになる特別な装置を使って治療します。

 

けれどチュー先生はネズミですから、自分を食べるような危険な動物の治療はしません。だからどんなに大人しくても、猫は中には入れてもらえません。

 

ある日のこと。立派な服装のキツネがやってきました。

もちろんチュー先生はお断りしましたが、キツネがあまりにも痛そうにしているので、とうとう中へ入れてやりました。

 

チュー先生はキツネの口の中に入って治療します。

キツネははじめのうちは、しおらしくしていましたが・・・おいしそうなネズミが口の中にはいっていると気がつくと・・・口がひくひく。

 

「口をあけたままままで!」

「大きくあけて!」

 

チュー先生と奥さんは叫びます。

虫歯を抜いてようやく治療が終わり、あとは翌日新しい歯を入れるだけ。

 

その夜、チュー先生と奥さんは相談しました。

本当にキツネの治療を続けていいものかと。

 

あくる日、キツネは治療が終わったら、チュー先生を食べるき満々でやってきました。

ところが・・・治療の仕上げにチュー先生の発明した「永久に歯が痛まなくなる薬」を塗ると・・・

びっくりぎょうてん!

キツネの口は開かなくなってしまいました。

                      

読んでみて・・・

愉快痛快な絵本です。

食べる食べられるという立場が逆転し、ネズミがキツネを助けてやり、おまけにお仕置きをしてやるというお話。

冒頭からしっかり場面設定が細かく説明してあり、ネズミのチュー先生と患者の動物たちの関係性がていねいに描かれているので、すんなりとお話の展開を受け入れられる物語構成になっています。

 

子どもたちにとっても、本当は行きたくない歯医者さん。表紙にも診察台や治療器具が描かれていて、一目見たら逃げ出したくなってしまう歯医者さんです。

でも、表紙を開けチュー先生んちの待合室を見ると、患者さんは安心しきった様子でくつろいで待っています。チュー先生はとても器用で、痛みなど誰も感じないほど上手な歯医者さんなのです。

 

先生と同じくらいの大きさの患者は歯医者の椅子に座り、それより大きい患者は床に座り、先生ははしごに登ります。もっと大きな患者のときは、奥さんが手伝って宙吊りになって治療します。口の中では濡れないよう、長靴を履いて治療するチュー先生。子どもたちも歯医者嫌いなど忘れてしまうような楽しいお話の設定です。

 

さてそんなチュー先生のところに、危ない患者がやってきます。

ひどい虫歯を抱えたキツネです。

普段は自分を食べるような、危険な患者はお断りのチュー先生ですが、キツネがあまりにいたそうで哀れなので治療してやることになりました。

 

ここから、絵がとても多くのことを語りはじめます。

ステッキをついて、どこから見ても立派な身なりをしたキツネが、大粒の涙を流して痛がっている様子。

神妙な面持ちで、キツネを受け入れるか相談するチュー先生夫妻。

治療すると決心したチュー先生の、きりりとした覚悟の顔。

それに比べて、腐って異臭を放つ虫歯のキツネの顔の情けないこと。

おいしそうなネズミが、口の中にいるのに気づいたキツネのだらしない顔。

登場人物(動物?)の感情が、憎いほど生き生きと描かれていきます。

 

キツネが帰ったあとの晩、これからの相談をするチュー先生夫妻の葛藤の場面も見事です。

夫婦揃ってもはや眠るどころではなく、ベッドに入って天井をみつめ、難しい顔のチュー先生。奥さんの心配そうな気弱顔。

そうして、

 

「いったんしごとをはじめたら」

「わたしはなしとげる。おとうさんもそうだった」

 

とキツネの治療を決意するチュー先生の、医師としての強い責任感には心打たれるものがあります。

それに引き換え、キツネのずるいこと、恩知らずなこと!

チュー先生に治してもらった歯で、チュー先生を食べようというのですから。

こんなキツネのずる賢くて、でもまんまと騙される間抜け顔も、実に上手くユーモラスに描けています。

 

絵が雄弁に語るだけ、テクストはシンプル。必要最小限の簡潔さで、お話はトントン進むので、チュー先生に危険が迫る事態も、読んでいる子どもの身に迫るように感じられてきます。

 

最後にキツネは騙されて、1日2日口が開かなくなる薬を塗られ、チュー先生を食べることもできずトボトボと退散します。

キツネを逆にばかしてやったチュー先生夫妻は、その後大喜びするでもなく、抱き合ってキスすると、その日はお休みに。怖さを乗り越え歯科医師としての務めを果たしたチュー先生。夫の志をしっかり汲み取ってサポートした奥さん。大人な二人は、騒ぎ立てることなく静かに満足して休養する。医師として、仕事人として、大人として、理想のご夫婦です。

 

起伏に富んだ楽しいお話と、ユーモラスで感情豊かな絵、そして仕事人として、大人としてあるべき素敵な姿勢を見せてくれる、いい絵本だなと思いました。

 

今回ご紹介した絵本は『歯いしゃのチュー先生』

イリアム・スタイグ作 うつみまお訳

1991.5.20  評論社  でした。

歯いしゃのチュー先生

ウィリアム・スタイグ/内海まお 評論社 1991年05月
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