トムテが人形に紛れておもちゃ屋へ!
エルサ・べスコフの素朴でかわいらしい物語。

読み聞かせ目安 中・高学年 ひとり読み向け
あらすじ
田舎で人形を作って暮らしを立てている二人の娘さんの家には、床下にトムテの一家が住んでいます。とうさんとかあさん、二人息子のニッセとヌッセ、四人家族のトムテ一家です。娘さんたちが眠りにつくと、ニッセとヌッセは人形たちと遊びます。
ある夜のこと、ヌッセが出来立ての人形の服を着て、すっかり悦に入っていると、お姉さん娘が思いがけず早く起きて来て、人形たちの箱詰めをはじめてしまいました。
ニッセはすぐに逃げましたが、人形の服を着たヌッセは人形に紛れて箱詰めされ、町へ送られてしまいます。
届いた先はおもちゃ屋さん。ヌッセはショーウインドウに並べられてしまいました。
はじめは人形のふりをして、じっとしていたヌッセでしたが、しだいに子どもの前でだけ動きはじめます。動く人形に子どもたちは大喜び。おかげで娘さんたちの作ったトムテ人形は飛ぶように売れました。
おもちゃ屋の屋根裏に住むスバンテという男の子は、ヌッセが特に気に入って、毎日毎日何時間も、寒空の下ショーウインドウの前でヌッセを見て過ごし、とうとう風邪をひいてしまいました。うわごとで「クリスマス・プレゼントにトムテ人形がほしい、ほしい」といっていす。お母さんが人形を買いに来ると、ヌッセは機転をきかせ、上手いことスバンテのプレゼントになり、喜びでスバンテはすっかり元気になりました。
けれど田舎の家に帰りたくなってきたヌッセ。とうさんトムテにたのまれた田舎のとううさんカラスが探しに来てくれました。
でも、せっかく仲良しになったスバンテと別れる気にもなれません。スバンテに寂しい思いをさせたくないのです。ヌッセは考え、自分の代わりにスバンテに良い友達をみつけてやりました。
ヌッセはカラスの背にのって田舎の家に帰ることができました。

読んでみて・・・
『ブルーベリーもりでのプッテのぼうけん』(エルサ・べスコフ作・絵 小野寺百合子訳
1977.5.25 福音館書店)や『どんくりぼうやのぼうけん』(エルサ・べスコフ作・絵 石井登志子訳 1997.10.13 童話館出版)の、エルサ・べスコフの絵本です。
とはいっても、この絵本は絵が残念ながらべスコフではなく、違う人による絵本になっています。でも、お話はべスコフらしく、かわいくゆったりと伸びやかで、すがすがしいべスコフらしい愛らしさに満ちた物語になっています。
北欧の家に守り神のように住んでいるトムテ。田舎の小さな家で、人形を作ってささやかに暮らしをたてている姉妹の元にも、トムテの一家が住んでいます。
娘さんたちを小さい頃から見守っているとうさんトムテは、いつまでも娘さんたちを子ども扱いして、早く寝かそうと仕事部屋のろうそくの芯を濡らしたり、いつもこっそり何かと世話を焼いています。トムテという架空の妖精?たちが、いかにも本当にいるかのように、性格がくっきりと描かれていて、物語の世界に何の疑いもなく引き込まれていきます。
遊び盛りのトムテの子ニッセとヌッセ。うっかり人形といっしょに町に送られてしまったヌッセは、おもちゃ屋のショーウインドウに並べられても、常に明るく前向き。ショーウインドウの中でも、お茶目に楽しく過ごしていき子どもたちの人気者になります。
ヌッセのおかげで、娘さんたちの人形は飛ぶように売れ、ヌッセ自身は上手いこと、ショーウインドウで仲良くなった男の子スバンテの元に売られ、別れ際もスバンテが寂しくないように良い友達を作ってやり・・・というふうに、すべてが上手くいくお話。都合がよすぎ⁈な感もありますが、それら全てが自然に受け入れられるのは、出てくる人々がみな、気持ちがいいほど素直で善良だからでしょうか。子どもたちの中で「こうなったらいいなあ」という夢が、自然に叶っていくおおらかで前向きな物語運びです。
お気に入りのおもちゃが、単なるおもちゃではなく、本当に生きて動いて、気持ちが通じ合える友達になること。子どもなら一度は夢見たことがあるでしょう。
登場人物がみな根っから善良で、信頼し合える人間関係が築かれていく安心して過ごせる居心地のいい世界。子どもたちが無意識のうちに望んでいる、素朴で美しい心の通い合い。そんな世界が、エルサ・べスコフの素朴な語り口で繰り広げられていきます。
そんな物語だからこそ、あの透明感があって、どこを取っても明るくかわいらしい夢のあるべスコフの絵で、このお話を楽しみたいなあと思ってしまいます。
なぜこの本はべスコフの絵本なのに、べスコフの絵じゃないのでしょうか。
謎で、とっても残念です。
そしてもうひとつ残念なのは、とってもかわいらしいお話なのですが、長いので、教室での読み聞かせには向きません。でも逆に、読み聞かせからひとり読みに移行していく時期の子どもにとっては、とってもいい分量のテクストです。
商業主義にさらされて、派手な刺激の多いクリスマス絵本が多い中、素朴な心の通い合いの美しさにホッとできる、数少ないクリスマス絵本のひとつでもあるともいえます。
ヌッセとスバンテの秘密の心のやり取りのように、ひとり時間に大切に、静かに心をあたためながら、読んでもらいたい絵本だなと思いました。
今回ご紹介した絵本は『おもちゃ屋へいったトムテ』
エルサ・べスコフ作 菱木晃子訳 ささめやゆき絵
1998.10.20 福音館書店 でした。
| おもちゃ屋へいったトムテ |
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