絵本とむかしばなし

小学校で絵本の読み聞かせや昔話のストーリーテリングをしています。楽しいお話、心温まるお話をいろいろご紹介していこうと思います。

『神の道化師』

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芸と人生

  真摯に生きることの崇高さを教えてくれる絵本です。

神の道化師

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 読み聞かせ目安  高学年  15分

 

 あらすじ

 

昔々、イタリアのソレントに、ジョバンニというみなしごがいました。

 

ジョバンニは孤児でも幸せ。なぜならジョバンニは、何でも空中に投げ上げて、くるくる回す芸をすることができたからです。

 

ジョバンニは、八百屋のバプチスタさんの店で、芸をしてお客を集め、おかみさんから食事をもらって暮らしていました。

 

そんなある日、町に旅芝居の一行がやってきました。

ジョバンニは、親方に芸を見せ、一座に加えてもらいます。

 

道化の衣装を着て、化粧をしたジョバンニは、何本もの棒や輪、皿、松明などをくるくると空中で回します。最後に色とりどりの玉を回すと、それはまるで虹の輪を回しているように見え、仕上げに、

 

「さあて おつぎは "空にかがやくお日さま”と ござい」

 

と叫んで、金色に輝く玉を空高く投げ上げると、お客は大喜び!!

ジョバンニの人気は次第に上がり、王侯貴族の前で芸をするほどの、名高い道化師になりました。

 

ある日、ジョバンニは旅の途中で、2人の修道士に出会います。

ジョバンニから食べ物を恵んでもらった修道士は、ジョバンニにいいました。

 

「わたしたちの教会をつくりたもうた 聖フランシスさまは、あらゆるものは 

神さまの栄光を ほめたたえていると おしゃっています。あなたの芸だって、そうなのですよ」

 

ジョバンニは答えます。

 

「そりゃ、あんたがたのようなおかたにとっちゃ そのとおりでしょうが、わたしは ただ、お客さんがたに わらって はくしゅしていただくために、やってるだけでさ」

 

修道士たちは、

 

「おなじことなのですよ、それは」

「あなたが 人々にしあわせを あたえるなら、それは 神さまをほめたたえているのと おなじことです」

 

とジョバンニにいいました。

 

ジョバンニは、それからも各地で、人々をその芸で喜ばせました。

 

しかし、年月は流れ、ジョバンニはだんだん年を取り、人々は次第にジョバンニの芸に飽き、見向きもしなくなっていきました。

 

ジョバンニは、人々からあざわらわれ、お金もなくなり、故郷のソレントへと帰っていきます。

 

寒い冬の夜。聖フランシスコ教会の修道院にたどりついたジョバンニは、聖母子像の前で、道化の化粧をし、衣装を着替え、イエス様の誕生日に捧げる芸をはじめました。

 

「さあて」と、幼いイエス様に微笑みかけたジョバンニは、色とりどりの玉を空中で回します。

 

「いよいよ さいごは、"空にかがやくお日さま”とござーい」

 

ジョバンニが叫ぶと、金色の玉は、高く高く回り、その芸はこれまでにないほどのすてきな出来栄えになりました。

 

ジョバンニの胸は、ドキドキと高まりました。

と、その時。ジョバンニの心臓はハタと止まり、ジョバンニは死んでしまったのです。

 

駆けつけた修道士は、驚きました。

マリア様に抱かれたイエス様が、にっこり微笑み、その手には、金色の玉が抱かれていたのです。

 

 

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読んでみて…

 

フランスに古くから伝わる民話を、トミー・デ・パオラが絵本に仕立てたものです。 

 

デ・パオラの絵本は、このブログでも数冊ご紹介していますが、今回ご紹介する『神の道化師』は、デ・パオラが子どものころから聞いていて、大好きだったお話を、細部まで注意深く、じっくりと、国の内外問わず、丹念に調査研究して描き上げたものなのだそうです。

 

フランスに伝わるお話ということですが、デ・パオラはこの絵本の舞台を、お話そのものが成立したといわれるイタリア・ルネサンス期のものと設定して描いています。

 

 人が、与えられた才能や能力を誠実に用い、他の人々に幸せを与えるなら、たとえその者が、神や信仰というものとは無縁であっても、それがすなわち神を讃えることになるということ。人が、生涯精いっぱい、自分のやれることをやって、他者を裨益することのすばらしさを讃えた絵本になっています。

 

 

ジョバンニは、神や信仰などとは無縁で生きてきました。

旅の途中、2人の修道士に出会ったとき、修道士から自分の芸が神を讃えているのだと知らされても、

 

「そりゃ、あんたがたのようなおかたにとっちゃ そのとおりでしょうが、わたしは ただ、お客さんがたに わらって はくしゅしていただくために、やってるだけでさ」

 

と答えるだけです。ただ、自分の芸が好きで、それが出来ることを喜び、それで人を喜ばせていることに満足する。ジョバンニは、ただそれだけで、何の他意もなく生きてきました。

 

ジョバンニは、小さいころから孤児であっても、すばらしい技があったから幸せ。何も卑屈になることなく、町の人々に芸を見せ楽しんでもらい、それを喜びにしていました。

 

旅芸人として有名になっても、子どものころからの心は変わらず、王侯貴族の前でも、名もなき市井の人々の前でも変わらず、目の前にいる人を喜ばせようと、純粋に芸を披露していました。

 

ただひたすらに芸の道に生きる。真摯で純粋な芸人の人生です。

 

 ジョバンニは、知識や信仰などとは無縁です。

修道士にいわれた言葉の意味することも、晩年最後に訪れた教会で、人々がクリスマスを祝っていることの意味さえも知りません。

それでも、目にしたイエス像の表情が、ひどく悲しそうっだったから、心を込めて芸を捧げました。その時の芸は、ジョバンニの人生の中で1番のできで、ジョバンニも芸をすることに陶酔しきっています。

そして、その結果、ジョバンニは芸への陶酔の極致で天に召され、神に祝福されるのです。

 

純粋に己の能力を発揮し、他者を裨益する。それが信仰と等価となり、また信仰の最も基本となるものとなる。

生き方そのものが、神への捧げものとなる人生にこそ、真の喜びと平安が訪れるということが、ジョバンニの人生を通して描かれています。

 

この絵本を読むと、謙虚で誠実で真摯な生き方を、自分はできているだろうかと自らに問い、そうでないことを反省させられてしまいます。

ですが一方で、何であっても自分のできることを精いっぱいやれば、この絵本の示す「神の御心」=「他者への裨益」がかなうということも知らされ、励まされるような気持にもなります。

 

芸の道、人生、信仰などというと、とても大きく重いテーマなので、子どもたちには難しすぎると感じられるかもしれませんが、子どもは子どもなりにこの絵本に惹きつけられ、しーんと聞き入ります。

 

古くから伝わる民話の持つ力でしょうか。

お話の筋の運び、展開は、見る者を惹きつけ飽きさせません。

 

デ・パオラの絵は、デ・パオラ特有の様式化された丸味のあるフォルムに、ブルーグレーがかった明るい色彩が、美しくイタリア・ルネサンス期の風俗を描き出しています。

 

各ページは、それぞれ芝居の舞台のようで、ジョバンニの芸をする姿が生き生きと焦点化され、心に残ります。

 

そして、年老い、落ちぶれたジョバンニが、激しく寒い冬の風に吹きさらされながら、教会へ向かう姿は、人生の厳しさを知らしめさせますが、その後に訪れる至福の救いを見て、厳しくとも立ち向かっていく勇気を与えてくれます。

 

大人にも子どもにも、生き方というものを深く考えさせる、すぐれた絵本だと思います。真摯に生きるということを、子どもにもわかりやすく、誠実に語りかけてくれる絵本です。

 

ただ、学校の教室で読み聞かせをするときは、この絵本を宗教色が濃いと感じる人もいるかもしれません。

 

公立校では宗教色のないもの、私立校ではその学校の教育方針にあったものを、読み聞かせに求められることも多いかと思います。

ですので、この絵本を読むときは、事前に図書担当の先生や、担任の先生に確認をとって読んだほうがいいと思います。

 

ちょっと重いテーマの絵本ですが、時にはじっくりと人生を考え、励みをもらえるこんな絵本もいいのではないかなと思いました。

 

 

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今回ご紹介した絵本は『神の道化師』

トミー・デ・パオラ作  ゆあさふみえ訳

1980.11.15  ほるぷ出版  でした。

 

 

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