「行って帰る」お話
子どもの身体感覚を満足させる楽しい絵本です。
読み聞かせ目安 低学年 4分
あらすじ
アンガスはスコッチテリアの子犬です。
知りたがり屋で、見るもの嗅ぐもの何でも知りたがります。
ソファの下、鏡に映った子犬、持ってこられる物と持ってこられない物の違い・・・。
お家の外も気になりますが、アンガスの首輪には革ひもが付いていて、よく調べられません。
一番アンガスが知りたいのは、庭の生け垣の向こうから聞こえてくる音の正体!
「ガー、ガ―、ゲーック、ガー!」
「ゲーック、ゲーック、ゲーック、ガー!」
何の音でしょう?
ある日、玄関の戸が開いていて、革ひもも付いていなかったので、アンガスは表へ飛び出しました。生け垣をくぐり、向こう側へ・・・。
するとそこには2羽のあひるが!!
音の正体はこのあひるたちの声だったのです!
アンガスは吠えました。
「ウーウーウーウーウー、ワン!」
あひるたちは大騒ぎしながら逃げました。
アンガスは追いかけます。
疲れたあひるたちは、柳の木陰で水を飲み、アンガスも飲みました。
するとそのあと・・・、あひるたちは何か話し合い・・・、
「シーシーシーシーシーシーシュ!!!」
アンガスのしっぽをつつきながら、アンガスを追い立てはじめました!!
アンガスは必死で逃げて、家へ入り、ソファの下に潜り込み・・・、1、2,3分間、もう何も知りたいとは思いませんでした。
読んでみて…
好奇心旺盛な子どもそのものといった感じのアンガス。
自分の見るもの、聞くもの、何にでも興味を示し、自ら確かめずにはいられません。
確かめにいって、思いがけないものに出くわし、びっくりして帰る。子どもたちにも、日常よくあることだと思います。
興味を持ったものを確かめにいって、びっくりして帰るという構造は、以前ご紹介した『いたずらこねこ』にも似ています。
この絵本の訳者瀬田貞二は、その著書『幼い子の文学』(1980.1.25 中公新書)の中の「行きて帰りし物語」の章で、この『アンガスとあひる』を例にあげ、一つの仮説を立てています。
幼い子の文学 | ||||
|
その仮説とは、幼い子どもに喜ばれるお話には、ごく単純な構造上のパターンがあり、それは「行って帰る」につきるのではないか、ということ。
人間はたいてい行って帰るものであり、特に小さい子どもには「行って帰る」という動作が多い。「花いちもんめ」などの遊びはそのよい例で、子どもたちは始終体を動かし、「行って帰る」を繰り返している。そのためお話も、ただ一点にじっとしているのではなく、「行って帰る」という構造を持ったものが、子どもたちの発達しようとする頭脳や感情の働きに即していて喜ばれるのではないか、というのです。
瀬田は、副題に「行きて帰りし物語」とある、トル―キン(1892~1973)の『ホビットの冒険』(1937)や、イギリスの昔話「おばあさんとぶた」なども例にあげながら、「行って帰る」お話が、いかに子どもたちを満足させるさせるものであるかを述べています。
「行って帰る」という単純な振り子のような運動を、日頃身をもって行っている子どもたちだからこそ、お話の登場人物の動きに、まるで呼吸するかのようにすんなり同調し、楽しむことができるらしいのです。
まさにこの『アンガスとあひる』は、その「行って帰る」お話!
お話を聞いている子どもたちを見ていると、確かに振り子のように好奇心を振り動かし、飛び出していっては戻ってくるアンガスの動きに、子どもたちの心も同調し、振り動いているよう!
びっくりして帰ってきたときは、やれやれと、ちょっとアンガスを傍観しながらも、自身もアンガスと一緒になってほっとしている様子がみえます。
この絵本の主人公アンガスは、黒いスコッチテリアの子犬。
絵では、小さな体をいっぱい使って、走り回る様子が生き生きと描かれています。
小さな丸い目もキラキラさせながら、興味の対象を追いかけています。
体中から好奇心がほとばしっている感じです。
語り手も、
「あるうちに、アンガスという こいぬが すんでいました。」
と、アンガスの紹介から語り始め、
「アンガスは、みるもの かぐもの なんでもしりたがりました。--ソファの したには なにが いるだろう とか、かがみの こいぬは だれだろう とか。」
といった具合に、終始アンガスの心中に寄り添って語っていきます。
この絵本は、絵で生き生きと好奇心あふれるアンガスを描き、語りでその心中に寄り添い、「行って帰る」という子どもが身体的に受け入れやすい構造を取ることで子どもたちに、自分とアンガスを十分に重ね合わせ、感情を共有することを可能にさせているのだなと思います。
色遣いも黄色を基調として、水色と緑、オレンジを効果的に配して、色数は少なめながら、明るく、子犬の無邪気な好奇心のほとばしるお話の雰囲気を伝えています。
カラーとモノクロが交互に出てくる絵の構成も、躍動感を与えています。
バタバタと走り回るアンガスやあひるたちも、画面いっぱいにダイナミックに描かれ、躍動感満点!最後の、アンガスがソファの下に隠れてじっとしているページの静けさも、この躍動感と対比的で、効果的に演出されています。
「行って帰る」だけの単純なお話ですが、明るく暖かい色調の生き生きとした絵、アンガスに寄り添う語りに、「行って帰る」の構造。この三拍子がそろっているからこそ、子どもたちの好奇心と、身体感覚の喜びを満足させてくれる絵本になっているのだなと思いました。
単純だけれども子どもの感覚にフィットする楽しい絵本です。
今回ご紹介した絵本は『アンガスとあひる』
1974.7.15 福音館書店 でした。
アンガスとあひる | ||||
|
ランキングに参加していますポチっとしていただけると嬉しいです。
いつもありがとうございます。