『かあさんのいす』の続きのお話。
あのかあさんのいすが今は空っぽに・・・いったい何が?
読み聞かせ目安 高学年 10分
あらすじ
かあさんのいすは、このごろ空っぽです。
なぜなら、おばあちゃんが病気になってしまったからです。
おばあちゃんは、アイダおばさんとサンディおじさんの家の、大きなベッドで寝ています。
かあさんとアイダおばさんとサンディおじさんとわたしが、かわりばんこにおばあちゃんの世話をしています。
おばあちゃんは、音楽が大好き。
わたしは友達と、音楽クラブで習ったダンス音楽をおばあちゃんに聞かせてあげます。
レオラは太鼓を、ジェニーはバイオリンを、メイはフルートを、そしてわたしはアコーディオンを弾きます。
おばあちゃんが病気になってから、あの瓶はずっと空っぽです。
おばあちゃんの病気に、お金がかかるからです。
わたしは、どうやったら前みたいに、瓶にお金をいっぱい入れられるか考えました。
どうやったら前みたいに、おばあちゃんが元気になるか考えました。
考えながらアコーディオンを弾いていると・・・いいことを思いつきました!
おばあちゃんに相談すると、大賛成してくれました。
善は急げと、私は早速、友達に電話をかけました。
オーク・ストリート・バンドのはじまりです!
わたしたちは、バンドを組むことにしたのです。
音楽の先生も、アコーディオンの先生も、ギターの上手なアイダおばさんも、協力してくれました。
「音楽は病気にきくよ」
おばあちゃんが、とても喜んでくれます。
そして・・・はじめて仕事がきました!
レオラのひいおじいちゃんとひいおばあちゃんのお店の、50周年記念パーティーで演奏するのです‼
大勢のお客さんの前で、わたしたちは演奏しました。
みんなが笑顔で、踊りだしました!
「ありがとう、きょうのことは、一生わすれないよ」
と、レオらのひいおじいちゃんとひいおばあちゃんが何度もいってくれました。
貰ったお金はみんなで等分し、わたしは瓶に入れました。
読んでみて・・・
『かあさんのいす』、『ほんとにほんとにほしいもの』の続きのお話です。
ページをめくると、まず最初に目に飛び込んでくるのは、『かあさんのいす』で、ガラス瓶にお金をいっぱい貯めて買った、あの「かあさんのいす」です。
ゆったりとしていて、赤いビロードのバラの花模様がいっぱいついた、家族みんなが大好きな椅子。
かあさんとわたしとおばあちゃん3人で、ぎゅうぎゅう詰めになって座るあのかあさんの椅子です。
でも、今は空っぽになっていることが多くなってしまいました。
あのお馴染みのガラス瓶も、空っぽです。
おや?どうしたのだろうかと、読み進めていくと・・・訳はすぐにわかります。
おばあちゃんが、病気になってしまったのです。
前のようにおばあちゃんが、かあさんの椅子に座って、手仕事をしたり、おしゃべりをすることはありません。わたしもかあさんも、おばあちゃんの看病で、ゆっくり座っていられる時間が減ってしまいました。
お話最初に、あの幸せの象徴のような椅子が、ぽつんと寂しそうに描かれているので、読む者は、家族の変化に容易に気づきます。
多くを語らずとも、わたしの寂しさや、心配な気持ちも伝わってきます。
でも、このお話の主人公である「わたし」は、賢くていつも真剣に物事を考える女の子です。じっと寂しがってばかりはいません。なんとかして、おばあちゃんを元気づけること、そして空っぽなままの瓶をお金でいっぱいにする方法を、一生懸命考えます。
そうして思いついたのが、あの『ほんとにほんとにほしいもの』で手に入れたアコーディオンを使うことでした!
『かあさんのいす』から、ずっとお話がつながっているので、読み継いできた子にはとても納得がいき、満足のいく読書体験を積むことができます。
わたしはあのアコーディオンを弾き、単にその場でおばあちゃんを喜ばせるだけでなくて、音楽好きな友達とバンドを組み、お金を稼いでいきます。
一脚の椅子を買うのにも、アコーディオン1台を買うのにも、せっせと小銭を貯めて、やっと買えた女所帯。おばあちゃんが病気になってからは、お金がかかるので、もう小銭さえ貯めることができない暮らしのなか、懸命な少女が、卑屈になることなく、明るく前向きに自分のできることを考え、行動する様子が、とてもいじらしく、ほほえましく、こんな女の子が側にいたら、誰だって応援してあげたくなるでしょう。
子どもたちのオーク・ストリート・バンドは、周囲の優しい大人たちの協力を得て、メキメキと腕をあげ、はじめての仕事をとりつけます。
はじめて人前で演奏する子どもたち。
わたしは緊張で、パーティーのご馳走も喉を通らず、出番がきてもどうしていいかわからず、ただボーっとしていますが、
「さあ子ねこちゃん、やっておくれ。なにかひいてごらん。いつものようにね」
というおばあちゃんのひとことをきっかけに、演奏をはじめます。
子どもたちが演奏をはじめるや、パーティー会場に集まった人々は、みんな楽しそうに躍りだします。このページは、見開き一面テクストはなく、画面いっぱいに老若男女が手に手をとって、ウキウキ楽しそうに躍っている絵が描かれています。
子どもたちの音楽に合わせて、自然に体が動き出し、踊らずにはいられないという雰囲気が、溢れ出るように伝わってくる画面です。
本当に美しく、キラキラと光り輝き、みんな心から楽しんでいます。
優しく美しい水彩の絵は、『かあさんのいす』『ほんとにほんとにほしいもの』から引き続き、瑞々しくお話を描いています。
お話はじめの、病気のおばあちゃんを思う、わたしの心細い顔。
病床のおばあちゃんの髪をとかしてあげているとき、おばあちゃんと話をしているときの、ふたりの穏やかな顔。
バンドの練習をする子どもたちの、真剣な顔。
パーティーの出番待ちのときの、不安な顔。
演奏しているときの、真剣で賢そうな顔。
子どもの内面を、生き生きと、繊細に瑞々しく描き切っています。
各場面に合った縁取りの絵の美しさも健在です。
パーティーの演奏が終わったあとのページは、縁取りの四隅に、おばあちゃんに抱きしめられるわたし、両親に肩を抱かれるジョニー、お父さんに高く抱きあげられるメイ、ひいおじいちゃんひいおばあちゃんに見つめられるレオラと、四人の子どもたちがそれぞれの家族から褒められ、暖かく迎えられているようすが描かれていて、本当に充実した、幸せな気持ちになります。
細やかな愛情に満ちた、すてきな絵本です。
子どもたちを取り巻く経済的環境は、決して富裕に恵まれてはいないけれど、卑屈にならず、センチメンタルに陥ることなく、本当の愛に包まれて育っていることが、とてもよく伝わってくる、とても素晴らしいシリーズ絵本です。
真っすぐな心で、本当の愛情や知性が育っていく絵本だなと思いました。
今回ご紹介した絵本は『うたいましょうおどりましょう』
1990.12 あかね書房 でした。
うたいましょうおどりましょう | ||||
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