バラ色の人生
暖かい家族とご近所愛が伝わってくるすてきな絵本です。
読み聞かせ目安 高学年 10分
あらすじ
かあさんとおばあちゃんと、アパートで暮らすわたし。
かあさんは、ブルータイル食堂で働いています。
家には、とても大きなガラスの瓶があって、かあさんは毎日仕事帰りに、おばあちゃんは、特売で得したときに、瓶に小銭を入れます。
わたしも、ブルータイル食堂を手伝って、お金を貰うと入れます。
瓶がお金でいっぱいになったら、椅子を買うのです。
すごくふわふわで、きれいで、大きくて、バラ模様のビロードのすてきな椅子!
家には椅子がありません。
火事で燃えてしまったのです。
火事のあったのは去年のこと。かあさんもおばあちゃんも、わたしも、ねこも助かりました。
でも、他のものは全部焼けてしまいました。
それから、アパートに引っ越しましたが、家の中には何もありません。
親戚や近所の人達が、いろんなものを持ってきてくれました。ピザとかケーキとか、アイスクリーム、きれいな絨毯、お鍋にスプーンにお皿・・・etc。
シャーリーおばさんは、カーテンを作ってくれました。
でも、ソファーや大きな椅子はありません。
かあさんが、仕事から帰って休んだり、おばあちゃんが、座ってジャガイモの皮をむいたりするところがないのです。
瓶はすごく大きいので、いつになったらいっぱいになるのかわかりませんでした。
でも、だんだん瓶は小銭で重くなり、テーブルから下ろせないほどになり・・・とうとう、いっぱいになりました!!
かあさんの休みの日、瓶のお金を銀行でお札に替え、みんなでバスに乗って街へ行きました。
4軒の家具屋さんを見てまわり、いろんな椅子に座って試しました。
そしてとうとう・・・、私たちは、夢にまで見た椅子を見つけたのです!!
すごくふわふわで、きれいで、大きくて、赤いビロードのバラ模様の椅子!!
椅子は、シャーリーおばさんのカーテンのそばに置かれました。
おばあちゃんは、昼間中椅子に座って、ご近所の人とおしゃべり。
かあさんは、仕事から帰ってきて、椅子に座ってテレビを見ます。
わたしは、晩御飯のあと、かあさんといっしょにその椅子に座り、そして寝てしまいます。
かあさんは、そーっと電気を消してくれます。
読んでみて…
明るくはっきりとした色合いの水彩で、丁寧にかつおおらかに描かれた、暖かい雰囲気に満ちた絵本です。
表紙から各ページ、それぞれの絵に、ぐるりと額のように、場面にあった模様の縁取りが施されています。
ブルータイル食堂の場面は、ブルーのタイル。アパートのキッチンでは、ティ―ポットやカップ、おでかけは青空、そして火事では炎。燃え尽きた家では、黒く焦げ枯れた花。銀行ではドルマークなどなど・・・。
それぞれの場面で、縁取りが意味を添え、支えています。
その中でも、いちばん印象的なのは、バラの花の縁取り!
バラの花の縁取りは、全部で5場面(表紙や題字ページを含めると7場面)あります。
大きなガラスの瓶だけが描かれたふたつのページと、椅子を探している場面、そして思い通りの椅子に出会った場面と、最後の、かあさんとわたしが、お気に入りの椅子にゆったりと座っている場面です。
同じような花模様の縁取りなのですが、それぞれ違っていて、場面に込められた私や家族の思い、夢の実現度合いが微妙に描き分けられています。
ガラス瓶だけのページでは、花模様だけれども、背景はオレンジ。まだまだ、すてきな真っ赤な椅子には手が及んでいない様子が出ています。
家具屋さんをめぐっていろいろ試している場面では、背景は赤くバラ模様ですが、いまひとつはっきりとしない、ぼやけた感じ。まだ、すてきな椅子にはたどり着けていない感じです。
それが・・・とうとう理想の椅子に出会えたとき。その椅子と同じ鮮やかな赤い地のあでやかなバラ模様になり、ぱあっと場面が明るくなるのです!
まさにバラ色!!
うっとりと夢見心地の景色になります。
ただ、小銭をためて椅子を買ったというお話ですが、そこに至るまでのわたしの思い。かあさんの思い。おばあちゃんの思い。彼女たちを支える親戚や近所の人々の思い。それぞれの、苦労を乗り越えて得た喜びや、人情の暖かさが伝わってきます。
わたしの家族は女所帯。かあさんが、レストランのウエイトレスをして生計を立てている暮らしは、苦しいことでしょう。
でも、この絵本には、苦しいとかつらいとか、悲しいといった表現はまったく使われていません。火事にあった場面でも、淡々と火事にあった、ということだけが記されています。
へんにセンチメンタルに陥ることなく、事実だけを語る。
それでも、火事の時、ひとり家に残っていたおばあちゃんを心配する気持ち、無事がわかり安堵する気持ち、また、すべての家財がなくなってしまった悲しみは、十分に伝わってくるものになっています。
多くの心情を言葉にして語らなくても、絵と淡々とした事実の客観描写で、淡々としているからこそ伝わってくるものがあるんだなと気づかされます。
そして、家族間の愛情、ご近所の人情の暖かさも、言葉では表されていませんが、しっかり伝わってくるものになっています。
家族が火事で焼け出されたとき、近所の人たちが、いろいろなものを持ってきてくれますが、その様子は、見開き一面にたくさんの物資を運ぶ人々。まるでバザーの準備でもしているかのような感じで、みんな手に手にいろいろなものを持って、アパートに運び込んでいます。
ピザにケーキに、絨毯、電気スタンドにハンガー、ベッド、ぬいぐるみ。
運ばれたもの、運んだ人々がひとつひとつ丁寧に、暖かい雰囲気で描かれていることによって、愛情が伝わってきます。
嬉しい気持ちも、絵でよく伝わってきます。
銀行で両替をする家族の後ろ姿、家具屋さんでいろいろな椅子に座って試すおばあちゃんやかあさんの表情。椅子を運ぶトラックを、囲んで見守る人々の充実した嬉しそうな顔。そして・・・最後の、真っ赤なビロードのバラ模様の椅子に、ゆったりと座るかあさんとわたしの顔。ぐっすり眠り込んだわたしの満たされた寝顔。
絵自体は、とてもラフな感じの絵なのですが、単にラフに描いているのではなく、おおらかな中に繊細さがあって、実に表情が豊かなのです。そして暖かい。
多くを語らず淡々と。でも愛情深く。暖かく。
決して裕福ではないけれど、幸福感に満ちた家族とご近所づきあいが、豊かに伝わってくる絵本になっています。
バラ色の人生というと、華やかな脚光をあびた人生というイメージがありますが、こういう、市井の、なんでもない人々の暮らしにも、それぞれのバラ色の人生があるんだなと気づかされるとても素敵な絵本です。
暖かい気持ちに包まれたいときにぜひどうぞ♡
今回ご紹介した絵本は『かあさんのいす』
ベラ・B・ウィリアムズ作・絵 佐野洋子訳
かあさんのいす | ||||
|
ランキングに参加しています。ポチっとしていただけると嬉しいです。
いつもありがとうございます。