季節の移ろいを感じる絵本
ほのぼのとした暖かさに包まれながら、季節を感じられる絵本です。
読み聞かせ目安 低学年 3分
あらすじ
ある雪の日。庭が一面真っ白になったのをみたマルチンは、お母さんに
「だれが こんなに おさとう まいたの?」
と聞きます。お母さんは
「あれは ゆきよ」
と教えてくれます。
「あっ あそこに おもしろい ぼうが たってるよ」
マルチンの指さした先には、葉を付けていないりんごの木がありました。
「おーい りんごのき、りんごは いつ なるの?」
外に出たマルチンは、りんごに尋ねます。
やがて春が来て、雪が融け、花がいっぱい咲きました。りんごの花にミツバチがぶんぶん集まってきます。
お父さんは、薬まきポンプで、りんごや梨や、すももの木に虫よけの薬をかけます。
夏。お日様がかっかと照り付ける中、りんごの実がふたつ大きくなりました。マルチンはりんごの木に、じょうろで水をかけます。
嵐の日。強い風が、りんごをひとつもぎ取って、地面に投げつけてしまいました。ヒナギクたちも、悲鳴をあげています。マルチンは、
「ひどいや!ひどいや!」
と怒りました。
秋のある日。マルチンは、すっかり赤くなったりんごを、ジャンプして取って
「ら、ら、ら、ら、!」
歌いながら、お家へ入りました。
読んでみて…
ほのぼのとした暖かみのある絵本です。
ちいさなマルチンには、おそらく初めての雪なのでしょう。お母さんに
「だれが こんなに おさとう まいたの?」
と聞いています。
まだ冬で、丸裸のリンゴの木を「おもしろい ぼう」といい、春にはミツバチが、りんごの木に悪さしないか心配し、夏には強い日差しで水分不足になったりんごの木を、病気かと思い、りんごの実を落とした強風に「ひどいや!ひどいや!」と、本気で怒っています。
ちいさなマルチンにとっては、見るもの聞くもの触るもの、すべてが初めてで新鮮です。そしてマルチンは、その初めての物事すべてに本気で、真正面から向き合って、心から楽しんでいます。
自分自身、家族、家の中という身の回りから、外の世界へと関心を広げていく過程の子どもの姿が、マルチンを通してりんごの木を中心に、新鮮に、生き生きと、可愛らしく描かれています。
雪の日に出会った「おもしろい ぼう」のりんごの木は、春になり、葉を付け、花を咲かせ、夏になり、実を付けますが、マルチンはその過程で、お父さんやお母さん、犬や猫、身近な動物たちと触れ合いながら、りんごの木の世話をし、りんごに親しんでいきます。
そうしてやっと真っ赤に色づいたりんごの実を、大事そうに手に持って家に入るマルチンの顔は、りんごのような頬をして、充実した嬉しさにあふれています。
まだ自分の身の回りのことしか知らなかった子どもが、関心を外に向け、りんごを通して、季節の移り変わりを感じ、その中で作物の実っていく過程を実感する。この絵本では、りんごの実のりとともに、マルチンの成長も描かれているのだと思います。
マルチンは小さな男の子(2歳くらいでしょうか)なので、この本はそのくらいの小さな子ども向け、と思われるかもしれませんが、まだまだ小学生にも十分、ほのぼのとしながら楽しめるものだと思います。
小学校では、朝顔やひまわり、へちま、お芋、お米などなど、いろいろな植物を栽培し、収穫を楽しみます。
季節が一過性のものでなく、移り変わる四季がつながりつつ繰り返しめぐってくる時間意識や、自然のめぐりを身近に感じるということは、ある程度の経験を経てからのほうが、実感を伴った理解ができるように思います。
小さい本ですが、色遣いがはっきりしているので、遠目も利くと思います。
他の本と組み合わせたりしながら、小学校の読み聞かせでも、まだまだぜひ読んでもらいたい一冊です。
今回ご紹介した絵本は『りんごのき』
エドアルド・ぺチシカ作 ヘレナ・ズマトリーコバー絵 内田莉莎子訳
1972.3 福音館書店 でした。
りんごのき | ||||
|
ランキングに参加しています。ポチっとしていただけると嬉しいです。
いつもありがとうございます。