絵本とむかしばなし

小学校で絵本の読み聞かせや昔話のストーリーテリングをしています。楽しいお話、心温まるお話をいろいろご紹介していこうと思います。

『月おとこ』

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無邪気と狂気とナンセンス

ちょっとシュールでウイットの利いた絵本です。

            

読み聞かせ目安  中・高学年  8分

あらすじ

高い空の上から地球を見下ろしている月おとこは、地球の人たちが楽しそうに躍っているのを羨ましく見ていました。

 

ある夜のこと。

とうとう月男は、お月さまのそばをビューンと流れる流れ星のしっぽをつかみ、地球へ降り立ちます。

ものすごい音に、森の動物も、人間たちもびっくり仰天!

兵隊さんや消防士さんが、次々と出動し、お役人さんは警戒命令。

宇宙からやってきたインベーダーに、政治家や科学者や将軍たちは大慌てです。

 

月おとこは、捕らえられ牢屋に入れられます。

楽しくダンスがしたいだけだったのに・・・。

月おとこはしょんぼりです。

 

けれど日が経つうちに、月おとこの体は、半分消えていきます。

「お月さまが欠けかけはじめたんだな」

月おとこはわくわく。

どんどん痩せていって、牢屋の格子から抜け出すことができました!

将軍たちは、半狂乱になって怒りました。

 

自由の身になった月おとこは、美しい鳥や蝶や花にうっとり。

仮装パーティーで、ダンスすることもできました。

 

けれどもまたもや警察に追われ、逃げた森の奥には、古いお城。

そこには、300年も前から(‼)月へ行く宇宙船の研究をしている、科学者ドクトル・ブンゼン・バン・デル・ダンケルが、住んでいました。

月おとこは、博士の作った宇宙船で、無事月へ帰ることができました。

博士は世界で認められ、重要な科学委員会の委員長になりました。

                     

読んでみて・・・

何とも奇妙でいながら、独特なかわいらしさ?のある絵本です。

月おとこ。お月さまそのものなのか、月の住人なのか、月の妖精なのか。

何とも不思議な青白い生物が、この絵本の主人公です。

 

でも、この月男。見た目の奇妙さに反して、性格はすこぶる純粋無垢。

月から地球を見下ろして、ダンスしている人たちがあまりに楽しそうなので、流れ星につかまって、地球へとやってきます。

ところが、突然宇宙からやってきたインベーダーに、地球の大人たちは大慌て!

政治家も科学者も、役人も将軍たちも、半狂乱の大騒ぎで、月おとこの捕獲に乗り出します。

 

奇妙だけれども、まん丸で透明感があって、おっとりとしたかわいらしい月おとこに対して、過剰反応する地球の大人たちの異様なこと!

未確認生物の来襲と、警戒命令を出して、パトカーに消防車、戦車にカメラマン、総動員で躍起になって、月おとこを捕まえます。

テクストはごく簡潔で多くを語ってはいませんが、絵が雄弁にそれぞれの性格を描き分け、きりきり舞いの人間たちと、のんびりした月おとこの対比が見事で、幼い子どもにも事態がすぐに理解できます。

大騒ぎのどさくさに紛れて、異様な野次馬や、商魂たくましく見物人をあてこんで、急ぎ店を出すアイスクリーム屋さんなんかも描き込まれていて、ウイットにも富んでいます。

 

月おとこが牢屋に放り込まれる場面も、自由な心を持つ月おとこと、堅い牢屋の対比がナンセンスなおかし味を出しています。

そしてナンセンスといえば、この牢屋で月おとこの体が、欠けていくところ!

「月」なので、満ち欠けするのは当たり前ですが、人の形をした月おとこの体が、どんどん欠けていくというのは、奇抜でとても奇想天外な印象を与えます。

でも奇抜ながらも、月なので欠けていくということは、ごく自然に受け入れられる。

当たり前のように描いていますが、卓抜した表現だなと思います

 

そしてなにより秀逸なのが、この自由自在に姿を変えられる月おとこと、不自由な大人たちの対比です。

月おとこが牢屋から脱走したと知るや、将軍たちは半狂乱になりますが、自由になった月おとこは、甘い香りの花々にうっとりしたり、美しい蝶々にうきうきしたり。地球の美しさを存分に楽しみます。念願のダンスもできました。2週間経っているので、体もまた丸くなっているのが、月おとこの満足感を象徴しているようです。

常識や決まり事、得体の知れないものへの恐怖心に、がんじがらめになっている大人たちと、無邪気で純粋な子どものような月おとこの対比が、ユーモラスに生き生きと描かれています。

 

追っ手から逃れた月おとこが、行き着いた先のお城に住んでいる科学者も奇抜です。

なんと300年も前から、月へ行くための宇宙船の研究をしているというのですから‼

禿げ頭に双眼鏡のような大きな眼鏡。長い髭に長い鼻。

見るからにただ者ではない異彩を放っていますが、このドクトル・バン・デル・ダンケル博士の、研究への一途さにも、狂気と無邪気が紙一重になっているさまがみえます。

 

博士の勧めで宇宙船に乗り、月おとこは月へ帰ります。

涙涙の別れも、2人の純な心が溢れていてかわいらしく、そしてまたここで、月おとこの姿が欠けていくことが、効果的に使われていて愉快です。

 

月へ帰った月おとこの顔は、まん丸で福福として満足そう。

月おとこを月へ返した博士が、月おとこを追っていた大人社会から認められ、重要な科学委員会の委員長というポストを与えられるというもの、ウイットが効いています。

大人社会の狂っているところを、薄めるのでなく隠さず、子どもにわかりやすく、楽しく描き出すのは、絵本として相当の力量です。

 

ほとんどのページが、黒や濃い藍色がベースで、月おとこはじめ登場人物たちの姿は、決してかわいい♡というより、どちらかというと不気味な絵ですが、そこに散りばめられたたくさんの鮮やかな色の数々が、絵本に生き生きとした楽しさを与えています。

テクストでは表されてなく、お話の筋に直接は関係ない人々も、こっそり描き込まれていて、そこにもまた風刺や遊びがあって楽しく、この絵本をさらに豊かにしていると思います。

 

なんだ人を喰ったような絵とお話の本ですが、無邪気と狂気、辛辣な風刺がふんだんに描かれているのに、楽しく暖かく、読み終わるとふっくらとした満足感のある(満月のような?)不思議な魅力のある絵本です。

絵と言葉のバランスがとてもよくとれた、素晴らしい絵本だなと思いました。

                     

今回ご紹介した絵本は『月おとこ』

トミー・ウンゲラー作 田村隆一・麻生九実訳

1978.7.10  評論社  でした。

月おとこ

トミー・ウンゲラー/田村隆一 評論社 1978年07月
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