お月さまが欲しいお姫様のお話
夢を見ているようなふんわりした絵本です。
読み聞かせ目安 中・高学年 ひとり読み向け
あらすじ
海辺の王国に、レノア姫といちいさなお姫様がいました。
ある日のこと。
レノア姫は、木苺のタルトを食べ過ぎて、病気になってしまいます。
心配した王様は、レノア姫の望む物を何でも持ってこようと、姫にいいました。
するとレノア姫は、
「お月さまがほしいな。お月さまをもらったら、きっとげんきになるとおもうの」
といいます。
王様は、お城にいるかしこい家来たちを呼び、月を取ってくるよう命じます。
まず最初に、大臣が呼ばれました。
けれども大臣は、月が三万五千マイルも遠いところにあって、溶けた銅でできているので、取ることはできないといいました。
次は魔法使いが呼ばれましたが、魔法使いも、月が十五万マイル離れていて、みどり色のチーズでできているから、取ることはできないといいます。
次は数学の大先生。
大先生も、月は三十万マイル離れていて、石綿でできていて、丸く平べったく、空にべったり張り付いているから、取れないといいます。
がっかりした王さまは、せめてもの慰みに道化師を呼びました。
すると道化師は、レノア姫が考えているお月さまがどんなものか、聞いてみてはと進言し、早速聞いてみるとお姫様は、お月さまは自分の親指の爪よりちょっとちいさいくらいだといいました。
そこで道化師は、金細工士に金の月を作らせ、お姫様に差し上げると、お姫様はすぐに元気になりました。
けれども本物の月は取っていないので、夜になるとまた空に昇ってきます。
王様はレノア姫に、お月さまを見せない方法を、大臣や魔法使い、数学の大先生を呼んで尋ねますが、名案は浮かびません。
もう月が昇ってきます。
また慰みに道化師を呼ぶと、道化師はお姫様に、取ったはずの月がなぜ空にあるのか尋ねにいきます。
すると・・・お姫様は、空にお月さまがあるのは当たり前。花を摘んだらまた次の花が咲くように、新しいお月さまが昇ったのだといいました。
お姫様は、すやすやと眠りにつきました。
読んでみて・・・
夢を見ているかのような、ふんわりとしたかわいらしい絵本です。
お月さまを取ってほしいと願うちいさなお姫様。
その願いに、右往左往させられる大人たち。
欲しい物は何でも手に入れてきた王様。
あらゆる知識と方法を尽くして、何でも王様に捧げてきたかしこい家来たち。
そんな大の立派な大人たちが、ちいさなお姫様の願いに翻弄される滑稽さ。
権威ある大臣や数学者たちの「お月さま」が、距離から何から、みんなてんでばらばらで、銅でできていたり、チーズで(!)できていたり、石綿でできていたり。
はては、月平面説まで出てくるおかしさは、凝り固まって融通の利かない大人や権威の、鋭い諷刺になっています。
それに比べて、ちいさなレノア姫の柔軟なこと。
屈託なく月が欲しいと願い、手にした金の月を喜びながら、空にまた出た月を、あっけらかんと、摘んだ花がまた咲くようなもの、抜けた歯が生えるようなもの、一角獣の角がまた生えるようなものと、
「きっとね、なんでも、そういうことなんだとおもうの」
といって認め、悟りきっているおもしろさ。
ちいさなお姫様のほうが、立派な大人たちより、世の仕組み(?)がわかっていて、落ち着き払っているのがとても愉快です。
レノア姫のかわいらしく柔軟で、達観したかのような飄々とした姿は、絵でも十分に描かれています。
ごくラフに、軽やかに何気なく描かれた線画は、レノア姫のふんわりとした雰囲気をよく表しています。大事に大事に育てられている、生活感の重みのなさも伝わってきます。
ほとんど点と線だけで、簡単に描かれた顔ですが、表情は豊かに伝わり、窓の向こうに遠く見えるお月さまの大きさを、ピンと立てた親指で測る姿や、大きなベッドからうっとりと、空に浮かぶお月さまを眺める姿は、とても愛らしくチャーミングです。
お姫様のためにてんてこ舞いの大人たちも、それぞれの性格がよくわかるように描かれ、お話を彩るこまごましたアイテムも、細かくユニークに描かれていて、ひとつひとつ見ていくだけでも、十分に楽しめます。
テクストも淡々とした語りで、情緒的な言葉などありませんが、淡々としているがゆえに喜怒哀楽が伝わり、思わずくすっとしてしまうようなおかし味や、大人たちの人生のほろ苦さまで感じ取れるようななっています。
無造作な線画と簡潔で淡々としたテクストが相乗して、この絵本のふんわりとしたかわいらしさ、面白さを創出しているんだなと思いました。
気持ちがふんわりと浮き上がるような、不思議な魅力のある楽しい絵本です。
ちょっと長いので、学校などでの読み聞かせには向きませんが、お家でゆっくりふんわりした気分で読むのにはぴったりな絵本だと思います。
今回ご紹介した絵本は『たくさんのお月さま』
ジェームス・サーバー文 ルイス・スロボドキン絵 中川千尋訳
1994.5.31 徳間書店 でした。
たくさんのお月さま | ||||
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