実直なくまさん・堅実な生活
当たり前に暮らすということの尊さ。
読み聞かせ目安 低学年 3分
あらすじ
せきたんやのくまさんは、日曜休日以外の日、毎朝早く起きて朝ご飯を食べたあと、石炭を売りに出かけます。
荷馬車に石炭を積んで、馬をつなぎ
「はい!はい!」
石炭を売って、石炭置き場まで届け、お金をもらいポケットに入れます。
1こ、2こ、3こ!
石炭を売り終えると、家に帰ります。
家に帰ると、お茶を飲み、暖炉の前で絵本を見て、眠くなったら寝間着に着替えて眠ります。
これが、せきたんやのくまさんのお話です。
読んでみて…
せきたんやのくまさんの一日を、見たまま、そのまーんま語った絵本です。
何の気どりもてらいもなく、そのまんま。
くまさんの飼っている馬や、街の人々は、生きているものとして描かれているようですが、主人公のくまさんは、ぬいぐるみのくまさんです。
それも、どこにでもあるようなふつーうのぬいぐるみのくまさん。
でも、このくまさんが実にまじめに、誠実に淡々と仕事をこなすのです。
休日以外は、毎朝きっちりと目覚まし時計をかけて、早起きし、仕事に出かけます。
「はい!はい!」と、馬を上手に操り、荷馬車で石炭を運び、ていねいにお客さんの家の石炭置き場まで届けます。
そして、仕事が終わったら、家に帰って、くつろいで一日が終わる。
どこにでもあるようなぬいぐるみのくまさんが、ストレートに、生活にはリズムがあるということ、そのリズムに合わせて実直に堅実に暮らすということを見せてくれます。一日仕事をして暮らすとはこういうことなんだよということを、私たちに、子どもたちに見せてくれているのです。
テクストだけでなく、絵の方もそのまんま、見たまんま描いています。
最初のページは、くまさんがいて、馬がいて、荷馬車があって、石炭袋がいっぱいある。次のページは、ベッドで寝ているくまさん。目覚まし時計が置いてある。その次のページは、石炭を積んだ荷車にくまさんが乗って、馬を操り・・・。というふうに、そのまんま、見たまんまを実直に具体的に、小さい子も見てすぐわかる形で描いています。
特別取り立てて大きな出来事はないけれど、なんの起伏もないけれど、普通に暮らすこと、当たり前に暮らすことの安心感がここにあります。
描写は、テクストも絵も、きわめて客観的です。
テクストは、よけいな主観や心情描写がなく、絵も枠で切り取られたポストカードのような、お話の語り手が外側から見ているような構成になっています。
でも、それが全くよそよそしくなく、暖かさを感じるのは、主人公のくまさんがぬいぐるみだからでしょうか。それもどこにでもある、ありふれたくまのぬいぐるみだから、親近感と愛らしさを感じられるようになっているのかなと思います。
愛らしいくまさんが、実直に堅実に暮らすということ、当たり前に暮らすということの大切さ、尊さを教えてくれているように感じます。
当たり前の暮らしは、当たり前すぎて、普段はなんとも思いません。面白いともありがたいとも思いませんが、当たり前でなくなったとき、それがどんなにありがたいことかがわかります。
昨今、自然災害が増え、突然、当たり前の暮らしが当たり前でなくなるような事態が起きています。
先日の台風19号。我が家は多摩川から1キロ強の所に位置しているので、不安な時を過ごしました。幸い我が家は無事でしたが、いつも買い物に出かけるすぐ近くの街が冠水してしまいました。我が家までほんの数百メートルところです。
当たり前であることのありがたみが身に沁みました。
当たり前の生活を当たり前に暮らす。実直に堅実に。とても尊く、大切にしなければならないことだなと思います。
この台風でお亡くなりになった方々のご冥福をお祈りするとともに、被災された方が一日も早く、穏やかな暮らしを取り戻されますようお祈り申し上げます。
今回ご紹介した絵本は『せきたんやのくまさん』
フィービとセルビ・ウォージントン作・絵 石井桃子訳
1987.5.30 福音館書店 でした。
せきたんやの くまさん |
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