真実の愛の力
ロバの姿に生まれた王子様のお話。グリムの昔話です。
ロバのおうじ | ||||
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読み聞かせ目安 高学年 ひとり読み向け
あらすじ
昔、広くて平和な国を治めている、王様とお妃様がいました。
王様は、何よりお金が大好き。暇さえあれば、金蔵にこもって、金銀財宝を勘定していました。
お妃様は、おしゃれが大好き。暇さえあれば、鏡の前で、きれいなドレスや絹、毛皮を身に付けて、うっとりしていました。
2人は、満ち足りた幸せな暮らしをしていましたが、ひとつだけないものがありました。それは、子どもです。
「こどもさえいたら!」
王様とお妃様が、ためいきをついていると・・・、あるとき旅人から、森の奥に、どんな望みでもかなえてくれる魔法使いがいると聞きました。
そこで、王様とお妃様は森へ行き、魔法使いに、子ども授けてくれるよう頼みます。
すると、魔法使いは代価として、王様に、金貨を33袋用意するようにいいました。
お城に帰った王様は、金貨の準備をしましたが・・・、金貨が惜しくなり、袋の底に鉛でつくった偽物の金貨をいれて、かさまししてしまいます。
見破った魔法使いは大激怒‼
王様とお妃様の子どもが、ロバの姿になるように呪文をかけました。
春になって、王様とお妃様の間に、子どもが生まれました。
でも・・・、その子どもは、魔法使いの呪いのとおり、ロバの姿!
王様とお妃様は、がっかり・・・。
でも、王子は王子。立派な人間の王子として、教育されていきました。
それでも、王様もお妃様も、ロバの姿の王子を見るにしのびず、まえよりいっそう、金勘定とおしゃれにのめり込みます。
王子はいつも、ひとりぼっちで、さみしく暮らしました。
そんなある日。お城に旅のリュート弾きがやってきました。
王子は、リュート弾きからリュートの弾き方を教えてもらうと、たちまち上手になり、歌を作って弾き語るようになりました。
でも・・・、王様もお妃様も、王子の歌を聞いてはくれませんでした。
王子は、お城を出る決意をします。
リュートを奏でながら、あてどなく野山をさすらい、ある朝、立派なお城に着きました。
ロバの王子のリュートを聞いた、王様とお姫様は、すっかり聞き惚れて、王子を城に置いてくれるようになりました。
王子はリュートを弾き語り、お姫様と踊ったり、お姫様の小さい弟たちと遊んだりして、楽しく暮らしました。
ところが、ある日のこと。ロバの王子は、お姫様に結婚の話があることを知ります。
お姫様を慕っていた王子は、もうここにはいられないと、お城を出ていく決意をします。
ロバの王子が、お別れの悲しい歌を歌っていると、お姫様は心から別れを悲しみ、そして王子に告げました。
「あなたが すきなの。ずっと そばに いてもらいたいの!」
お姫様は、ロバだろうがなんだろうが、王子を心から愛していたのです‼
すると・・・。なんということでしょう‼
ロバの王子は、凛々しく美しい若者の姿に‼
王子とお姫様は、結婚し、6人の子宝にも恵まれて、幸せに暮らしました。
読んでみて・・・
グリムの昔話を、美しい絵本に仕立てたものです。
表紙には、リュートを背負って、美しい緑の森のなかを直立歩行でいくロバの姿。遠くにはきれいなお城が見えます。
表紙を開いて、題字ページ左には、紺青の星月夜。薄雲が、糸のように細い新月に照らされ、夜空にたなびき、暗い岩の上に座ったロバが、月を見上げながら、リュートを弾き語っています。
うっとりするような美しい画面です。
バーバラ・クーニーの絵によるこの絵本は、どのページも絵がとても美しく、ずっと飽かず眺めていられる絵本です。
柔らかな線と、色彩。細部まで丁寧に描き込まれた絵には、優しさと、細やかな愛情が感じられます。
ロバの王子が、城を出て、あてどなく野山をさまよう場面は、王子のいいようのない孤独感が感じられます。
山の頂、谷間を吹きすぎる風の音、冷たくほとばしるせせらぎの音。その音を音楽にして奏でる、王子のリュートの、切ない調べが聞こえてきそうです。
それに対して、お姫様が住むお城での場面は、景色が一変。
明るく輝く春の庭。
色とりどりの花々が咲き乱れ、新緑は萌え、小鳥のさえずりまで、朗らかに聞こえてくるよう。
赤い実のなる木の下で、お姫様と並んで座り、リュートを奏でるロバの王子の喜びが存分に伝わってきます。
ぱあーっと、見ている者の心も明るくなる画面です。
そして、なんともロマンティックで美しいのは、お姫様の愛の告白の場面。
モーヴピンクの葉が茂る、大きな木の下で、ロバの王子とお姫様が、別れを悲しみ、ついにはお姫様が、ロバの姿であろうがなんだろうがかまわない、王子が好きだと愛を告げる場面です。
木の葉のピンク。お姫様のバラの冠。ドレスにサッシュベルト。どれもがピンクで、そのピンクのグラデーションが、まさにバラ色の夢のよう‼
うっとり見惚れてしまいます。
つづく王子とお姫様の結婚式。子宝に恵まれた夫妻が、白鳥が優雅に泳ぎ、白い蓮の花咲くお掘りに舟を浮かべ、一家そろって舟遊びをする場面も、ぱあーっと、辺りが明るくなる晴れやかな美しい画面です。
幸福感が、絵本中から漂ってくる感じがします。
登場人物の姿形や仕草も、その人となりをよく表しています。
お妃様はつんとすまし、王様は立派だけれど、いつも心ここにあらずといった顔。
魔法使いは威厳に満ちて怖そうな顔。
そして主人公のロバの王子は、姿はロバでも、純真で優しく穏やか、礼儀正しく真面目な性格が、表情やかわいらしく丁寧な仕草、佇まいから、よく伝わってきます。
実に、透明感があって清らかで、細やかで暖かな愛情が伝わってくる、美しい絵本だと思います。
そして何より、この絵本を通して感じられるのは、真実の愛の力の大切さ。
純真な愛が、交わされることによってはじめて、人は人となる、というメッセージでしょう。
王子は、裕福な王様の息子。
でも王様は、子どもが欲しいと願っていながら、吝嗇なため、子どもが授かる魔法の代価をごまかし、魔法使いの怒りをかって、生まれた王子はロバの姿に。
王様もお妃様も、やっと授かった我が子でしたが、自分たちの意にそぐわない子を、直視できず・・・。そんな父母のもとでは、王子の人格的完成はなされるはずもありません。
でも、放浪の末、たどり着いたお城で、自分のリュートの才能や、気立ての良さを認められ、ついにはお姫様の愛を得て、ロバの皮が脱げ、やっとひとりの青年になれます。
自己が他者によって肯定され、自信を持ち、また、他者を肯定し、愛し愛され、そうしてやっと人はひとりの人となることができるということを、このお話は語っているのだろうと思います。
昔話には、よく、異類婚姻譚といって、このお話のように、人間ではない動物と人間との結婚のお話があります。
西欧では大体、このお話のように、愛の力と努力によって、魔法が解き放たれ、異類が人間の姿に戻って、ハッピーエンドとなりますが、日本では、「たにし長者」など、ハッピーエンドになるものもありますが、宗教観や民俗の違いからでしょうか、異類婚姻譚の多くは、「猿婿入り」「蛇婿入り」のように、悲しい結末になってしまうものが多いようです。
この絵本は、ちょっと長いので、学校での朝の読み聞かせには向きませんが、人格形成を確かにしていく高学年の子どもたちの、ひとり読みにおすすめです。
昔話は、近代小説とは違って、人物の心情など、細かくとやかく表しませんが、このお話のように、人類普遍のメッセージを伝えてくれます。
ロマンティックで美しいこの絵本を、ぜひ、これから本格的な小説の読書に入る前の子どもたちに、読んでおいてもらいたいなと思います。
近代小説の前にローマンスを、じっくり味わって欲しいものだなと思いました。
今回ご紹介した絵本は『ロバのおうじ』
グリム兄弟原作 M・ジーン・クレイグ再話 バーバラ・クーニー絵 もきかずこ訳
1979.6.15 ほるぷ出版 でした。
ロバのおうじ | ||||
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