メキシコのクリスマスのお話
クリスマスにポインセチアを飾る由来を語った美しいお話。
読み聞かせ目安 高学年 7分
あらすじ
メキシコの山間の村。今日はクリスマスイブです。
だれもが楽しみにしているこの季節。
でも、フアニータは楽しくありません。
パパの仕事がなくなり、おもちゃを買うお金も、お菓子を買うお金もないからです。
メキシコでは、クリスマス前の9日間をポサダといって、夜になると子どもたちが近所の家を歌いながら訪ね回るお祝いをします。
ポサダは、1年で1番の楽しみです。
フアニータも、友達にポサダに行こうと誘われましたが、今年は行きたくありません。
教会へも、行きたくありません。
みんながイエス様に贈り物を持っていくのに、自分は持っていく物が何もないからです。
クリスマスイブの夜、フアニータの家ではポサダのお祝いをしませんでした。
夕ご飯は、普通のトルティ―ジャとお豆だけ。
でも、パパがギターを弾き、フアニータとママと弟たちは、みんなで声を合わせて歌いました。
真夜中まであと1時間。
ママが、
「さあ、教会にいく時間よ」
と言いました。
「だめ。いけないわ」
とフアニータ。フアニータは、贈り物がないから行けないと言い、涙を流します。
ママは、お金はなくともこのクリスマスを、家族みんなで歌を歌って祝い、フアニータは弟たちに、市場で頂いたクッキーを分け与え楽しく過ごせたこと。そして何より、イエス様を思うフアニータの心こそが贈り物だと言ってくれました。
それから、家族みんなで教会へ行きました。
でも・・・、フアニータはやっぱり教会の中に入れません。
すると・・・「フアニータ」と優しい声が聞こえてきました。
辺りには誰もいません。
「フアニータ」・・・また聞こえます。
壁に掛かった石の天使像が、フアニータにささやいていたのです!
天使は自分の周りにある、緑の草をイエス様に持って行きなさいと言います。
フアニータが、いぶかしんでいると天使は言いました。
「心配ありませんよ。イエスさまはおわかりになります。それが、あなたの心からのおくりものだと」
フアニータは、両手いっぱいに草を摘み、抱えて教会に入りました。
すると・・・人々の間から
「きれいね」「すてきね」
と声がします・・・。
フアニータは、気づきました!
フアニータが抱えている草が、真っ赤な星形をした花に変わっていたのを!!
フアニータは、真っ赤な美しい花束を、イエス様に捧げました。
「クリスマスおめでとう、イエスさま。おたんじょう、おめでとうございます」
この花は「クリスマスの花」と呼ばれるようになりました。
また、この花は「ポインセチア」とも呼ばれ、クリスマスの頃になると世界中の家や教会に飾られるようになりました。
「ポインセチア」は、クリスマスの希望と喜びと奇跡の花なのです。
読んでみて…
メキシコに伝わる美しいクリスマスのお話です。
クリスマスの時期、書店へ行けば、ワクワクするようなにぎやかで楽しいクリスマスの絵本がいっぱい並んでいるのを目にします。そのような絵本たちの中で、この絵本は、ひとあじ違った存在感のある絵本です。
静かに清らかな心でクリスマスを待つ。
そんな気分にさせてくれる絵本だと思います。
メキシコでは、クリスマス前の9日間を、「ポサダ」といって、夜に子どもたちが歌いながら家々を回ってお祝をするそうです。
イエス様を身ごもったマリアとヨセフが、ベツレヘムを目指して旅したことに由来する、メキシコの伝統行事なのだそうです。
この「ポサダ」が、子どもたちにとっては、1年で1番楽しいお祭り!
でも、この絵本の主人公の女の子、フアニータは楽しめません。
パパが失業し、貧しくなってしまったからです。
おもちゃもお菓子も買えない・・・。
でも、フアニータがいちばん悲しく思っているのは、自分が何も買えない、もらえないというのではなく、イエス様にお捧げするものが何もないこと。
こんなフアニータの気持ちを知ったママは、小さな娘の清らかな心を嬉しく思ったのでしょう。
「パパとママには、あなたこそがおくりものなのよ」
「ニータシータ、あなたのその心が何よりのおくりものだわ」
と言って、娘の心を肯定し、認め、敬愛しています。
それでもまだ、気持ちが晴れないフアニータに、奇跡が起こります。
天使像のところで摘んだ雑草のような草が、真っ赤な美しい花「ポインセチア」に変わり、イエス様に素晴らしい贈り物をすることができたのです!!
清らかな心、強い願いが、思いがけない奇跡を起こす。
「ポインセチア」は、フアニータからイエス様への贈り物であり、イエス様からフアニータへの贈り物でもあったのでしょう。
無私無欲の清らかな気高い心に触れて、気持ちがすーっとします。
この絵本は、絵の方も、やっぱり他の絵本とはちょっと違う存在感があります。
独特な暖かみというか、南国ならではの温度感。
全体的に太陽の暖かさ、熱のようなものを感じる色遣い。
丸味とつやがあって、描かれた人、物、風景それぞれに、内に秘めた情熱を感じさせるような、独特な感じのする絵になっています。
クリスマスというと、雪景色を思い浮かべるのが一般的ですが、こんな南国のクリスマスも素敵だなと思いました。
つややかで情熱的で鮮やかな、独特の暖かみのある美しい絵で、少女の清らかな心を描きだした素敵な絵本です。
残念ながらこの絵本、今は品切れ状態のようです。
にぎやかで楽しいクリスマス絵本もいいですが、こんな清らかな美しい絵本を読んで、クリスマスを心静かに待つのもいいものだなと思います。
再版されるのを願うばかりです。
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いつもありがとうございます。
今回ご紹介した絵本は『ポインセチアはまほうの花』
ジョアンヌ・オッペンハイム作 ファビアン・ネグリン絵 宇野和美訳
2010.9.1 光村教育図書 でした。