絵本とむかしばなし

小学校で絵本の読み聞かせや昔話のストーリーテリングをしています。楽しいお話、心温まるお話をいろいろご紹介していこうと思います。

『トムテ』

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しんしんと冷える真冬の夜に

 生命と宇宙のリズムの不思議を問う美しい詩の絵本

 

トムテ

ヴィクトール・リュードベリ/ハロルド・ウィバーグ 偕成社 1979年11月
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読み聞かせ目安  高学年  5分

 

あらすじ

 

しんしんと冷える真冬の夜。

森に囲まれた農場では、すべてが眠りについている。

目を覚ましているのは、小人のトムテただひとり。

 

トムテはこの農場の夜番を、数えきれないほどの年月やってきた。

けれど、わからないことがひとつある。

 

トムテは夜番をしながら考える。

 

牝牛が、夏の夢をみる牛小屋で。

馬が、かぐわしいクローバの夢をみる馬小屋で。

子羊が、親に寄り添って寝る羊の小屋で。

立派な雄鶏が休む鳥小屋で。

 

犬小屋では、仲良しの犬のカーロがしっぽを振った。

 

トムテを大事にしてくれる主人夫婦を見守り、かわいい子どもたちの寝顔を見にいく。

トムテは、子どもたちの寝顔を見るのがいちばんの楽しみだ。

 

昔から、トムテは子どもたちを見守ってきた。

子どもたちのお父さん、おじいさん、ひいおじいさんが子どもだったときも。ずっと見守ってきた。

 

それでも、トムテにはわからない。

 

人はどこから来るのか。

子どもが親になり、その子どもがまた親になり、暮らし、年老いて・・・

そして、どこへ行くのか。

時は流れていくが、どこへ流れていくのか。

源はどこなのか。

 

トムテにはわからない。

 

しんしんと冷える真冬の夜。

あらゆるものが眠っている。

眠らないのは小人のトムテただひとり。

 

 

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 読んでみて…

 

スウェーデンの詩人リードベリが書いた詩に、優しい絵を添えた美しい絵本です。

 

トムテは、北欧の民間伝承に登場する妖精で、農家の守り神とされている小人。

何百年も生き続けて、その家の人々が幸せになれるよう、見守り続けているのだそうです。日本でいうなら、座敷わらしのようなものでしょうか。

 

トムテを大事にすれば、トムテが夜番をしたり、仕事を手伝ってくれたりするそうで、その姿を見る人はいませんが、北欧ではありがたい存在として、クリスマスイブには、トムテのためにお粥を用意する風習があるのだそうです。

 

そのトムテが、何百年ものあいだ考えています。

 

「だが ひとは どこから くるのだろう。

こどもが おやになり、また その こどもが おやになる。

にぎやかに たのしく くらし、としおいて、

やがて いってしまう。

だが、どこへ いくのだろう。」

 

と。

 

文明が進み、情報化・機械化が進んでも、永遠に解決できない大いなる疑問。

ずっと昔から人々が抱き続けてきたこの疑問を、現代の子どもたちも、時に抱くことがあるでしょう。

 

この哲学的な永遠の問を、夜、みんなが寝静まっているあいだ、優しく見守り続けてくれているトムテという存在がいるという不思議に惹きつけられながら、静かに考えさせてくれる絵本です。

 

絵は、真冬の雪景色。

冷たく冴えわたった、星のまたたく夜ですが、澄んだ空気感がいっそう、生命がどこからきてどこへ行くのかという問を、際立たせています。

 

尽きぬ疑問を抱えて夜番するトムテを描いた絵本ですが、星月夜は明るく、真っ白な雪を照らし、疑問を疑問のまま抱えて生きていくことへの不安などはなく、そのまま受け入れていく達観したおおらかさ、自然とともに生きる大きさのようなものを、静謐に感じさせてくれます。

 

トムテの顔も、深い問題を考え続けてはいるものの、とても穏やかで優しい表情をしています。まーるい目は愛嬌があって、トムテの住む農場の動物たちや主人夫婦、子どもたちへの愛情にあふれています。

 

外は真冬の寒さですが、トムテに見守られる動物や人間たち、トムテの住む農場は、優しさに包まれて暖かそうです。

 

トムテによって提示された疑問は解決不能です。

でも、トムテがずっと考え続けてくれていること。トムテがこの世を、この世に生きとし生けるものを、愛しながら見守り続けてくれているという安心感が得られたら、我々人間もこの問題を、ずっと考え続けていけるような心強さを感じます。

 

 この絵本のテクストは、リードベリの詩。1882年に書かれたものですが、現代でもスウェーデンで広く愛誦され、毎年大みそかにはラジオで朗読されているのだそうです。

 

人は、生命は、宇宙は、どこからきたのか、どこへ行くのか。答えを出すことはできませんが、長い歳月営まれてきた生命の循環を、大いなる自然を感じながら考える。

 

 大人も子どもも、あわただしい日常の中で、時にはこんな絵本を読んで、忙しい歩みをちょっと休めて、穏やかに、自分と自分をとりまくもろもろに、思いを馳せるのもいいなと思いました。

 

この絵本は、本来、特にクリスマス向けの本というわけではないのですが、師走の忙しさが増すこの時期に、ひとたび心を落ち着けて、北欧の人々が、クリスマスイブにトムテに感謝のお粥を用意するように、生かされていることに感謝して、じっくり考える時間を持つのもいいのではと思い取り上げてみました。

 

しんしんと冷える冬の日に、静かに心穏やかに味わいたい美しい絵本です。

 

 

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 今回ご紹介した絵本は『トムテ』

ヴィクトール=リードベリ詩 ハラルド=ウィ―ベリ絵 山内清子訳

1979.11.1  偕成社  でした。

 

 

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