名作中の名作絵本
百年以上にわたって読み継がれてきたみんなが大好きな絵本です。
読み聞かせ目安 中学年 10分
あらすじ
フロプシーにモプシーにカトンテールにピーター。4匹の子うさぎが、お母さんといっしょに、大きなもみの木の下の巣穴に住んでいました。
ある朝のこと。お母さんが買い物にでかけているときのことです。
いたずらっこのピーターは、マクレガーさんの畑に入り込み、野菜をむしゃむしゃ食べていました。
お腹がいっぱいになったピーターが歩いていると・・・、マクレガーさんとばったり!!
マクレガーさんは「どろぼうだ、どろぼうだ!」と、レーキを振り振り追いかけます。
ピーターは怖くて怖くて、畑中を逃げ回りました。
網に引っかかったり、ふるいを被せられそうになったり、じょうろの中に飛び込んだり、必死に逃げているあいだに、ピーターの靴や新しい青い上着は脱げてしまいます。
ピーターは、何度も「もうだめだ」と思いながらも、なんとかマクレガーさんの目を盗み、隙を見て、怖い思いをしながら、やっとのことで家に帰り着きました。
その晩ピーターは、お腹をこわし、お薬を飲んで眠ることに。
兄弟といっしょの、おいしい晩ご飯は食べられませんでした。
読んでみて・・・
誰もが知る、名作中の名作絵本です。
イギリスでの初版が1902(明治35)年ですから、なんともう今年(2020・令和2)で118年!
百年以上の長きにわたって、愛され続けてきた絵本です。
その人気は、現在でも、あちこちで「ピーターラビット」や作者のビクトリアス・ポター(1866~1943)の展覧会などが開催されれば大盛況。「ピーター」をあしらったグッズ類も多く、国内外、老若男女問わず、愛されていることがよくわかります。
つい先日も、雑誌『MOE』(2020.6月号 白泉社)で特集が組まれていましたね。
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MOE (モエ)[本/雑誌] 2020年6月号 【表紙&特集】 大人になってもっと好きになる ピーターラビット 【付録】 『ピーターラビット』ペーパーファイル、コンドウアキ絵本 (雑誌) / 白泉社 価格:930円 |
なぜこの絵本は、こんなにも人気なのでしょうか。
色とりどりの絵本が並ぶ現代の本屋さんの中では、むしろ地味で、大きさもてのひらに載るほど。決して目立つ本ではありません。
それでもずーっと読み継がれている。
その魅力は、やっぱり・・・かわいらしさの奥にある、真摯さ、なのではないでしょうか。
お話はいたってシンプルです。
いたずらっこの子うさぎピーターが、お母さんの留守にマクレガーさんという人間のおじさんの畑に入って、野菜を食べ、逃げに逃げて家に帰る。いわゆる「行って帰る」お話です。
このいたってシンプルな「行って帰る」お話が、実に真摯にありのまま描かれています。
うさぎのピーターは、おいしい野菜が食べたい。
マクレガーさんは怖い。でも、食べたいから食べる。
マクレガーさんはお百姓さん。畑を荒らされると困る。
だからピーターを追いかける。
うさぎのピーターにはうさぎの立場とその世界があり、人間のマクレガーさんには、人間の立場とその世界があり、それぞれの立場とその世界の都合のかかわりが、ありのまま、そのままの姿で、何のてらいも、余計な心情もなく描かれています。
ピーターは、マクレガーさんから逃げる途中、すずめやねずみ、ねこに会いますが、それらの動物たちも、それらの立場と世界で生きています。ピーターに親切なもの、同情的なものももあれば、無関心なものもいます。
ピーターは、心細さのなか、出会った動物たちに頼りたい気持ちになりますが、結局頼れるのは自分だけ。自力で窮地を脱しなければなりません。
ここには、生きていくこと、生活していくことには、危ないことや自力で乗り越えなければならない困難がいっぱいあり、それは人間であろうと、うさぎであろうと、大人であろうと子どもであろうと同じこと。自然は美しいけれど、無情でもあること、といった真実がありのまま描かれています。
この絵本は、ビクトリアス・ポターが、知り合いの子どもにあてた手紙に描いた、いたずらうさぎの物語をきっかけに、作られたものだそうですが、子ども向けであっても、自然や生きることの真実を、まっすぐに、子どもに媚びたりおもねたりすることなく、真摯に描いています。
子どもたちは、いたずらうさぎのピーターに、家の外で遭遇する、ハラハラドキドキの出来事や、困難にでくわす自分自身を重ねてみることでしょう。そして、ピーターに心を重ねながらも、この絵本のかわいらしい絵とお話の奥にある、生き物それぞれが、それぞれのありようで生きるということや、日常のなかにある危険や困難は、自力で乗り越えなければなららいということなどを、感じ取っていくのだと思います。
水彩で描かれたうさぎやねずみ、ねこやことりたち、畑や森は、繊細で丁寧で美しく、そして写実的です。
絵でもやはり、子ども向けであっても、子どもに媚びない真摯な姿勢がみえます。
甘ったるくなく誠実な絵です。
ですが、とてもかわいい!!
ピーターも他のうさぎたちも、動物たちも、うさぎはうさぎらしく、動物は動物らしく描かれています。特に擬人化されたりしてはいないのですが、その時その時の感情がよく伝わってきます。
写実的であるのですが、柔らかくふっくらと暖かく、なんともかわいらしい。
てのひらに載るほどの小さな絵の一枚一枚が、もうそれだけで十分、ひとつの物語を語っているような、広がりと奥行き、想像力を活気させる魅力ある絵になっています。
お話も、やや長めではありますが、すっきりと無駄がありません。
英語の原文は、現在出版されているものでも、初版時のまま、ビクトリア朝時代の古い英語のままで出されているのだそうです。日本だと明治期の言葉あたりの感覚でしょうか。古い言葉でも、選び抜かれた言葉は、他に変えようがありません。変に現代風に改めず、そのまま伝えていく姿勢も、この絵本のお話や絵の世界観とあっていると思います。
かわいらしい絵とお話の奥に、自然や生きることへの真摯な姿勢があること、子ども向けであっても、甘ったるく媚びたりおもねたりすることのない、すっきりとした美しさがあることが、百年以上の長きにわたって、愛される理由なのではないかと思います。
本当の知性や気品のある素晴らしい絵本です。
ただ、やっぱり小さいので、広い教室での読み聞かせには、残念ながら向きません。
おうち時間や、ごく少人数の読み聞かせにおすすめの絵本です。
今回ご紹介した絵本は『ピーターラビットのおはなし』
1971.11.1 福音館書店 でした。
ピーターラビットのおはなし |
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