無敵の九人兄弟のお話。
弱い庶民が権力者を打ち負かす痛快なお話。
読み聞かせ目安 高学年 12分
あらすじ
昔々、イ族のある村に、子どものない年より夫婦が住んでいました。
さみしいおばあさんが、池のほとりで泣いていると・・・、白い髪の老人が現れて、おばあさんに、子どもが生まれる丸薬を九つくれました。
家に帰ったおばあさんは、早速丸薬を飲みましたが、1年たっても子どもは生まれませんでした。
待ちきれなくなったおばあさんは、とうとう丸薬を全部残らず飲んでしまいます。
すると・・・、みるみるお腹が膨らんで、ある日突然、九人の赤ん坊が生まれたのです!
もう、家の中は大騒ぎ!
九人の兄弟は、「ちからもち」「くいしんぼう」「はらいっぱい」「ぶってくれ」「ながすね」「さむがりや」「あつがりや」「切ってくれ」「みずくぐり」という名前で、皆同じ姿形をしていました。
その頃、都では、王様の宮殿の竜の柱が倒れてしまって大騒ぎ。
柱を元どおりにできたものには、褒美があるというおふれがでました。
兄弟たちは、相談して、「ちからもち」が出かけることに。
「ちからもち」は、柱をひょいと持ち上げ、あっさり直してしまいました。
でも王様は、信用しません。
それほどの力もちなら、大飯が食えるはずだと、いくつもの大きな窯に、ご飯をいっぱい焚かせ、食べさせることにしました。
兄弟たちは、相談して、「くいしんぼう」が、宮殿へ行くことに。
「くいしんぼう」は、大窯のご飯をペロリとたいらげます。
王様は、あんな力持ちの大飯ぐらいがいたら、王の座を奪われてしまうのではないかと怖くなって、今度は飢え死にさせる計画を立てました。
兄弟たちは、相談して、「はらいっぱい」が、宮殿へ行くことに。
「はらいっぱい」は、牢屋に入れられ、7日7晩飲まず食わずに・・・。
それでも、「はらいっぱい」は、前よりいっそう元気な様子で、牢屋から出てきました。
王様は、ますます不安になり、今度は打ち殺すことにします。
次は、「ぶってくれ」の出番です。
「ぶってくれ」は、どんなに全身をこん棒でぶたれてもへっちゃら。かえって大喜びしています。
王様は、夜通し考え、谷底へ突き落とすことにしました。
「ながすね」が、岩山に連れていかれ、てっぺんから突き落とされてしまいます。
それでも、「ながすね」はへっちゃらです。谷を挟んだ両の山腹に、すねを伸ばして、悠々と、谷をまたいでみせました。
王様は、怖くて怖くて、焼き殺すことにしました。
「さむがりや」が、火の中にぶち込まれます。
でも、「さむがりや」はにっこにこ。
王様は、ならば今度は凍え死ににしてやろうと考えます。
でも、「あつがりや」が雪の中へ埋められると、雪の方がどんどん溶け出してしまいます。
次は、切り刻みの刑。
けれども、「切ってくれ」は少しも傷つかず・・・、川へ沈められても、「みずくぐり」は、すいすいと魚のように泳ぐばかり。
そして・・・、「みずくぐり」が、口いっっぱいに含んだ川の水を、
「ぷうーっ!」
と王様めがけて吹きかけると・・・。
王さまも宮殿もなにもかも、大川の中に飲み込まれてしまいました。
この日から、イ族の人々は、王様からひどい仕打ちを受けることなく、平和に暮らしたということです。
読んでみて・・・
中国の昔話です。
弱い庶民が、権力者を打ち負かす、痛快なお話。
子どものいない貧しい老夫婦に、突然子が授かる。それも、仙人のようなおじいさんからもらった丸薬を飲んで、いっきに9人も・・・、という昔話によくある「異常誕生譚」のスタイルで、お話ははじまります。
貧しい老夫婦に、突然9人もの子どもが授かると、暮らしはいっそう大変に・・・、なるかと思いきや、この兄弟たちは、全く手のかからない子どもたちで、すくすく元気に、それも尋常ならざる身体的特質を持って成長します。
「ちからもち」「くいしんぼう」「はらいっぱい」「ぶってくれ」「ながすね」「さむがりや」「あつがりや」「切ってくれ」「みずくぐり」
9人の兄弟は、人並み外れた、その名の通りの能力を発揮して、横暴な王様の仕打ちを跳ね飛ばし、村に平和をもたらします。
庶民の、楽天的なおおらかさ、たくましさ、したたかさ。
今も昔も変わらない、地に足の着いた地道な生活をおくる人々の、力強さを感じます。
一方、権力者は、自分勝手で横暴で、それでいて小心者。自分の立場ばかり気にしています。
そんな権力者を、機知と機転でズバズバと打ち返していく痛快さ!
古からの庶民の願望が、ユーモラスに闊達に語られたお話です。
どんな力や痛みにも耐えられる強靭な肉体。
お腹いっぱい食べること。
何日も食べなくても平気でいられること。
暑くても寒くても、どんな苛酷な環境でも、生き抜いていけること。
9人の兄弟に備わった超人的能力は、苛酷な環境下で暮らしてきた庶民の、切実な願いの形象なのでしょう。ありえない身体的能力ではありますが、そういったものが備わったヒーローが、つぎつぎと暴君をやっつける。このお話を語り聞きしていた、昔の人たちは、心底痛快な、すっきりする楽しさをもって、このお話を語り継いでいっていたのだろうなと思います。
庶民の、粘り強く、生き抜く力。
社会的には弱者であった庶民の、強い自己肯定感にあふれたお話なのではないかな、と思いました。
絵も、ゆったりとした暖かみのある水彩で描かれ、9人の兄弟や王様、家来たちの表情も、それぞれ個性があって豊かです。
構図の取り方も大胆で、起伏があり、それぞれの場面を、わかりやすく豊かに描いています。
最初のページの、山々を背景にした腰の曲がった老夫婦。最後のページの、山の段々畑で、平和に働く人々の姿は、このお話が、南東チベットを源とするといわれる、中国の少数民族イ族のお話であるということもよく伝えています。
おおらかでいながら痛快。
庶民の切実な願いをユーモラスに描いた、素朴でとても楽しい絵本です。
ただ、同じような繰り返しが、9回も行われること。9人の活躍が、同じように満遍なく、同じくらいのボリュームで語られるので、少し冗長な感じがあります。もしかしたら、ちょっと飽きてしまう子もいるかもしれません。
このお話と、同じような趣向の絵本で、同じく中国の昔話を描いた『シナの五にんきょうだい』(C・H・ビショップ作 クルト・ヴィ―ゼ絵 川本三郎訳 1995 瑞雲舎) という絵本があるのですが、こちらの方が、よりすっきりとまとまっていて、楽しみやすいかもしれませんので、またの機会にでも、ご紹介してみたいと思っています。
今回ご紹介した絵本は『王さまと九人のきょうだい』
君島久子訳 赤羽末吉絵
1969.11.25 岩波書店 でした。
王さまと九人のきょうだい | ||||
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