波乱万丈、艱難辛苦を乗り越えて。
航海から帰ったら家が空っぽ!またまたチムの大冒険がはじまります。
チムひとりぼっち | ||||
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読み聞かせ目安 高学年 15分
あらすじ
航海を終えたチムは、家に帰ってきました。
やっとお父さん、お母さんに会えると思っていると・・・・
なんということでしょう!
家には鍵がかかり、
「このいえ、かします。」
という張り紙が‼
チムは泣きましたが、すぐに気を取り直し、世界の果てまでも、お父さんお母さんを探しに行こうと決心します。
チムは、運よく、「アーミリア=ジェインごう」という船の乗組員になり、働きながらお父さんお母さんを探すようになりました。
船のみんなは親切で、優しくチムを励ましてくれました。
ある日、アーミリア=ジェイン号が、港に泊まっているときのこと。
チムが上陸して、お父さんお母さんを探していると・・・。
チムは、迷子と思われ、「まいごの いえ」に、連れて行かれてしまいました!
でもチムは、力の限り走って逃げて、港に戻ります。
でも・・・、アーミリア=ジェイン号は、すでに港を出てしまっていました・・・。
チムは、別の船に乗りこみます。
しかし、その船の乗組員たちは、アーミリア=ジェイン号の人々と違って、怖い人ばかり。チムに冷たく当たります。
チムは過労で、とうとう病気になってしまいました。
役立たずになったチムは、港に降ろされます。
でも、降りた港で出会ったおばさんが、チムをかわいそうに思って、家に引き取り、優しく看病してくれました。
独り者のヘティおばさんは、チムと一緒に暮らしたがりましたが、チムは元気になると、やっぱりお父さんお母さんを探すため、おばさんの家を出ます。
そして、運のよいことに、港に行くと、アーミリア=ジェイン号が停泊中で、また船に乗ることができました!
でもでも、チムにはまだまだ困難が待ち受けていました。
嵐がきて、おまけに船火事まで、起こってしまったのです‼
乗組員全員が、ボートで避難しましたが、猫が船室に残っていることに気づいたチムは、船に戻ります。
チムは、猫を助けましたが、もうボートには戻れず、海に飛び込むことに!
チムと猫は、がれきに捉まって、嵐の海を漂いました。
ようやく砂浜に打ち上げられ、街へ向かって歩いていくと・・・、覗いたレストランの中に・・・、お母さんがいるではありませんか‼
チムは、レストランに飛び込み、お母さんに抱きつきました‼
お父さんとお母さんは、チムが航海に出ているとき、船が沈んだニュースを知り、死亡者リストにチムの名前を見て、チムが死んだと思い込み、悲しみのあまり、チムと暮らした家に住んでいられなくなって、引っ越していたのです。
チムとお父さん、お母さん、船の猫は、もとの海辺の家に戻り、また幸せに暮らすようになりました。
チムは、お世話になったヘティおばさんへの恩も忘れず、おばさんも一緒に暮らそうと、手紙を書きました。
読んでみて・・・
以前ご紹介した「チム」シリーズのうちの1冊です。
もう立派な船乗りの一員(・・・とはいってもまだまだ小さい男の子ですが)のチム。
いくつもの海での大冒険を重ねてきましたが、今回の絵本では、航海を終えて、懐かしのわが家へ帰ったものの、なんと家が空っぽ!大好きなお父さんお母さんも、いない‼という、信じられない事態に遭遇してしまいます。
それでもやっぱり、海の男チムは、しっかり者の強い子!
すぐに泣き止んで、自分の力でお父さんお母さんを探しにでます。
畑仕事をして、一宿一飯を得ると、翌朝にはもう、アーミリア=ジェイン号の一員に。
本当に、何事にも自分の意思で行動する、自立した強い男の子です。
そんなチムを、周りの大人もしっかり認め、対等に扱ってくれます。
時には、偽善的な「まいごのいえ」のご婦人に捕まったり、意地悪な船員だらけの船に乗り込んで、苦労することもありますが、チムはいつも、真っ向から向かい合い、自分のすべきことはちゃんとして、自分の力で切り抜けていきます。
嵐の船火事に遭っても、勇敢に猫を助け出し、荒波に耐え、生き抜いて見せます。
もう、見ている方は、ハラハラドキドキ‼
今回のお話は、ほっと一息ついたかと思うと、またもや困難の連続で、それも極限のような辛さの連続で、見ているだけで胸がつぶれるような気持になってしまします。
アーディゾーニ特有の、透明感のある美しい水彩と、モノクロのペン描きが、交互に出てくる構成の絵は、それぞれのページが1冊の中で、引き立て合い、ダイナミックな物語の展開を支えています。
潮の香が香ってきそうな、明るく透明感のある水彩は、アーミリア=ジェイン号の船員たちの明るい雰囲気や、ヘティおばさんの家の暖かさをよく表しています。
一方、チムが次に乗り込んた人柄の悪い船員ばかりの船や、嵐の船火事の場面は、同じ水彩でも、沈んだ暗い怖い雰囲気。
そして、水彩の合間に挟まれる、まるで銅版画のような、モノクロの精緻な筆致のペン描きの絵は、テクストで表しきれない、チムをはじめとした登場人物の、細かい心のひだまで、繊細に表現しているようです。
最初の、空っぽの家に帰った、チムの様子なんて、チムが家の様子を順に伺っていくさまが、コマ割りのように描かれ、家に鍵がかかっていること、大声で呼んでも返事がないこと、「このいえ かします」という張り紙、そして座り込んで泣き出すチムの様子が、チムの不安な気持ちとたたみ重なるように描かれていて、見ていてとても切なくなってきます。
嵐の海に、猫と放り出され漂う姿。打ち上げられてとぼとぼと、猫と歩いていく小さな後ろ姿の痛ましさ・・・。本当に胸がつぶれるようです。
でも一変!
街の明るいレストランで、お母さんを見つけ、ひしと抱きしめられ、今までのいきさつを語り合う場面の暖かさ‼一家そろって、海辺の家に戻って来る場面の、朗らかさ‼
心の底から、よかったね!という気持ちが溢れてきます。
たいへん起伏に富んだ、ダイナミックな筋立てのお話で、こんなに小さな男の子に起こった出来事としては苛酷すぎるお話ですが、ひとつひとつの場面が、チムに焦点を当てながら、とても丁寧に描かれているので、違和感なく受け入れられます。
艱難辛苦を乗り越え、またひとつ大人になった、海の男として成長したチムに出会える、素晴らしい1冊だなと思いました。
「チム」シリーズの絵本を読み重ねて、チムと一緒に、子どもたちも、強く大きく成長していってもらえたらいいなと思いました。
今回ご紹介した絵本は『チムひとりぼっち』
2001.7.10 福音館書店 でした。
チムひとりぼっち | ||||
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