海の男の大冒険!
年取った沖釣り漁師の奇想天外な大冒険のお話。
読み聞かせ目安 高学年 20分 ひとり読み向け
あらすじ
バート・ダウじいさんは、年寄りの沖釣り漁師。
2艘の小さな舟を持っていた。
1艘はもう、あちこちから水が漏り、庭で大きな植木鉢として使われていた。
もう1艘も、水漏れは激しかったが、板を張ったりペンキを塗ったりして、なんとか海に出せていた。
この舟の名前は「潮まかせ」。
ピンクや緑、黄褐色。カラフルなペンキで彩られてた。
ある朝のこと。バートじいさんが「潮まかせ」を、沖に出し、釣りをしていると・・・。
どしりと重い重い引き!
じいさんは、必死に釣り綱をたぐる。懸命に引っ張ていると・・・。
なんと!バートじいさんが釣っていたのは、くじらのしっぽだった!!
おおきなくじらを釣り上げて・・・、というより、じいさんがくじらに釣られ、引っ張りまわされ、海の墓場へ引き込まれそうに!!
やっとこさ、しっぽに食い込んだ釣り針を抜き、お医者のウォルトン先生がくれた、赤白の縞模様の絆創膏を、くじらのしっぽに貼ってやった。
でも・・・。ほっとしたのもつかの間!
くじらと格闘してるうちに、海は荒れだしていた!!
おんぼろの「潮まかせ」は、この荒波を耐えられそうにない。
じいさんは考えた。
そして、くじらにいった。
「このわしらを のみこんではくれんかね?ーーむろん、ほんの いっときだけーーつまり、突風がおさまるまでじゃ。」
バートじいさんは「潮まかせ」ごと、くじらの胃袋のなかへ!!
嵐を逃れてほっと一安心。
でも、でも、今度は、くじらがちゃんと自分たちを吐き出してくれるか、心配になってきた。
バート・ダウじいさんは、マッチをすり、くじらの胃袋を眺めまわす。
そして・・・。くじらにしゃっくりさせようと、舟に積んでいたいろいろなものを、胃袋の壁に塗り付けた!
ごみのかすや、残ったペンキ、機械油なんかをはじきとばす。
すると・・・。胃袋は、あっちでひくひく、こっちでひくひく。
そこで、じいさんが「潮まかせ」のエンジンをかけると・・・、くじらはたまらず、
「だばーっ!」
じいさんは「潮まかせ」ごと、大波の上に飛び出した。
ところが・・・、おりたところは、くじらの群れのど真ん中!!
無数のくじらのしっぽに囲まれ、バシャバシャと、じいさんまたまた海の墓場へ送られそうに!!
バートじいさん、必死に道具箱をあさっていると・・・、いいものに気が付いた。
ウォルトン先生の絆創膏!!
きれいな絆創膏を、しっぽに貼ってやると、くじらたちは喜んで、すっかりおとなしくなった。
バート・ダウじいさんは、「潮まかせ」といっしょに、家に帰っていったとさ。
読んでみて・・・
昔話ふうの、奇想天外な海での冒険のお話です。
ページをめくると、ぱーっと鮮やかなカラーページが広がります。
真っ赤なペンキに彩られた、おんぼろ舟。今はもう、使い物にならなくなって、バート・ダウじいさんの家の庭で、大きな植木鉢として使われています。
なかには、ピンクのゼラニュームやスイートピーが咲き乱れ、鮮やかな黄色の作業着に身を包んだバート・ダウじいさんが、じょうろで水をやっています。そのまわりには鶏やひよこが餌をついばみ、背後には、大きく穏やかな海が、悠々と広がっています。
暖かい日差しに包まれた、のどかな海辺の景色です。
バート・ダウじいさんは、もう1艘舟を持っていて、こちらはまだ現役。
とはいっても、あちこち穴が空いていて、板を張ったり、ピッチを詰めたり、ペンキを塗ったりして、かろうじて使えるという程度の代物。
でも、「潮まかせ」と名付けられたこの舟には、バートじいさんの愛がいっぱいこめられています。
「こいつぁ いい舟だよ。」
じいさんは、土地の人や夏の別荘族の雑用をやる合間に、暇さえあれば「潮まかせ」の手入れをしているのです。「潮まかせ」は、バートじいさんの誇りで喜びそのもの。
「潮まかせ」に塗ったペンキを、
「あのピンクの外板は、ジニー・プーアさんとこの食器部屋の色だし・・・・・・、みどりのは、おいしゃのウォルトン先生の待合室の床と戸の色だ。黄褐色は、ハスケル船長さんの家のポーチとかざりの色。」
と、自慢げに説明します。ご近所の家のペンキ塗りの仕事をしては、残ったペンキをそのつどもらい、大事に「潮まかせ」に塗ってやっているのです。「潮まかせ」への愛と、自分の仕事への誇り、お互い支え合って暮らしている地域の人々への感謝の思いなど、バート・ダウじいさんの「潮まかせ」には、暖かい心がいっぱい詰まっています。
そんな「潮まかせ」とともに、バートじいさんは漁にでます。
もう「潮まかせ」もじいさんも、第一線は退いていますが、長年の経験や勘、自信や誇りは、まだまだ若いものには負けていません。
「ぎいっこ しゅぽっ!ぎいっこ しゅぽっ!」
前の晩にたまってしまった水をポンプで抜き、
「チャカチャカ バン!チャカチャカ バン!」
にぎやかなきまぐれエンジンの音を鳴らして、沖へと出ていきます。
仲良しのおしゃべりかもめもいっしょです。
でも・・・、そうやって沖に出たある日、じいさんはとんでもないものを釣って(釣られて?)しまいます。
くじらです!
「潮まかせ」の何倍もの大きさのくじら!!
バートじいさんは「潮まかせ」のもろとも、海に放り込まれそうになりますが、やっとのことで、くじらから釣り針を外し、助かったと思ったら、今度は嵐!!
で、その非難場所に選んだのが、なんとくじらの胃袋!!
でも、嵐は逃れたものの、出られるか心配になって、くしゃみをさせようと、今度はくじらの胃袋に、ペンキだの機械油だのをまき散らす大騒ぎ!!
年取ったじいさんの、もう最後といっていい航海(?)が、まるでやんちゃな子どものような、てんやわんやの大騒ぎなのです。落ち着いた含蓄のある航海や漁ではなく、ユーモアたっぷりの、どたばたコメディーになっています!
くじらのピンクの胃袋のなかで、油などをまき散らすじいさんは、おもいっきり落書きを楽しんでいる子どものよう!!いたずらっぽい目をきらきら輝かせています。
思惑どおりくじらにくしゃみをさせ、「だばーっ!」っと、くじらの大きな口から舟ごと飛び出す場面の愉快なこと!
そしてさらに、飛んで降りたところが、くじらの群れのど真ん中で、またまた転覆の危機!!
そんな危機を救ったのが、お医者のウォルトン先生からもらった、キャンディーの包み紙のようなかわいらしい赤と白の縞模様の絆創膏、というのもユーモラスです。
どのページも、色とりどりのペンキで塗られた「潮まかせ」のようにカラフルで、明るく美しい色遣い。画面いっぱいに、大迫力の海の冒険が繰り広げられます。
「老人」と「海」というと、メルヴィル(1819~1891)の『白鯨』やヘミングウェイ(1899~1961)の『老人と海』などを想起させ、自然とのすさまじい格闘や、人生の終焉、哀愁などをイメージさせますが、このバートダウじいさんのお話は、同じく自然との格闘であったり、人生の終焉ではあっても、とても明るく愉快なもの。
バート・ダウじいさんの、これまでの人生、海という大いなる自然を相手に生きてきた、自信と誇り。漁師として働き、人々の役に立ってきた人生の充実感、感謝と喜びに満ちた豊かさが、ユーモアとともに存分に伝わってくる、楽しいお話になっているのです。
ロバート・マックロスキーの絵本は、以前ご紹介した『かもさんおとおり』(1965.5.1 福音館書店)のように、単色で描かれているものが多いのですが、この『沖釣り漁師のバートダウじいさん』は、めずらしくオールカラー!バート・ダウじいさんと「潮まかせ」の、おそらく最後になるであろう航海に対する、はなむけの特別な彩りなのかなと思います。
人生の終焉ではあっても、ずっと生きる喜びを持ちつづけ、明るく陽気に、何事にも子どものように無邪気に取り組むバート・ダウじいさん。じいさんの着ている、目の覚めるような黄色の作業着が、バートじいさんの人柄や人生そのものを象徴しているようです。
力強く生きてきた自信と誇り、自然や自分を取り巻く人々への愛。そして、老いてなおある生きる希望に満ちたこの絵本。これから長い長い人生の船出をする子どもたちに、ぜひとも読んであげたい、すばらしい1冊だと思いました。
今回ご紹介した絵本は『沖釣り漁師のバート・ダウじいさん』
ロバート・マックロスキー作 渡辺茂男訳
1995.4.25 童話館出版 でした。
沖釣り漁師のバート・ダウじいさん |
||||
|
ランキングに参加しています。ポチっとしていただけると嬉しいです。
いつもありがとうございます。