ユーモアたっぷりの楽しいお話。
ピーターラビットシリーズ5作目の絵本です。
読み聞かせ目安 中学年 10分
あらすじ
昔ある子ども部屋に、きれいな人形の家がありました。
玄関も煙突も家具や調度も、みんな本物のようにしつらえてありました。
この家の主人はルシンダという人形で、コックのジェインという人形もいました。
ジェインはコックですが、一度も料理をしたことはありません。
料理はいつもちゃんとできあがっていましたから。
ある朝、ルシンダとジェインが乳母車で出かけたあと、夫婦ねずみのトム・サムとハンカ・マンカがこの家にやってきました。
ちいさな人形の家には、トム・サムとハンカ・マンカにぴったりな調度品がいっぱい!おまけに食べ物まであります。
ところが・・・この食べ物ときたら、ぜんせんナイフが入りません。
暖炉で魚を焼こうとしても、火は縮緬紙だし魚はお皿にくっついて取れないし・・・。
2ひきのねずみは、おこって家中の物を荒らしはじめました。
けれども元々物を大切にするたちのハンカ・マンカは、ふと気が付いて自分の家で使えそうな物を、ねずみの穴に持って行くことにします。
家の主の子どもが帰ってくると・・・
「あたし、じゅんさのふくをきた にんぎょうを かうことにするわ!」
子ども部屋のお世話係は、
「わたしは ねずみとりをかけますよ!」
といいました。
2ひきのねずみがその後どうしたかというと・・・
トム・サムは壊した物の代金を、敷物の下でみつけた6ペンスで返し、ハンカ・マンカは毎朝早くに、人形の家に掃除に出かけていくようになりました。
読んで見て・・・
ピーターラビットシリーズ5作目の絵本です。
5作目はトム・サムとハンカ・マンカという2ひきの夫婦ねずみのお話。
夫婦のねずみが人形の家に忍び込んで、いろんなものを失敬していくお話ですが、実にユーモアいっぱい!
のっけからくすっと笑えてしまう要素が、あちこちにちりばめられています。
この家の主は、青いドレスを着たルシンダというお人形。コックさんのジェインもいますが、ルシンダはいちどもご飯の仕度をいいつけたことがありません。ジェインもコックですが、一度もお料理したことがありません。
だって、人形だから。
おいしそうなハムやお魚、プディング、果物etc。いろんな食べ物がありますが、どれも土でできた作り物。トム・サムとハンカ・マンカはすっかり騙されてしまいます。その腹いせに、家中を荒らし放題にしたかと思うと、ちゃっかり自分の家に使えそうな物を運び込んでいったり。ドタバタと愉快な展開が続きます。
2ひきのねずみが、家中を縦横無尽に走り回り、隅から隅まで探検していく様子は、まるで初めての家に入った子どものよう。好奇心いっぱいの目がキラキラと輝いていて、荒れ放題な我が家に帰ってきても、いたって無表情な人形たちの目付きとの違いが際立っていて、とてもおもしろいところです。
人形の家の持主の子どもがこの事態を見て、人形の家に泥棒が入ったのかと思ったのでしょう、巡査の人形を買うことにするというのも愉快ですが、その巡査人形もひょろひょろっとしていて何とも頼りなく、そしてまたねずみ夫婦と対比的に無表情なのもユーモラス。
このお話は、ねずみの世界・人形の世界・人間の世界が、まるで入れ子のような構成で描かれていながら、それぞれが別々なのではなく、ねずみと人形、人形と人間、ネズミと人間、大人と子ども、それぞれがしっかり関りを持って全く破綻なく成立しているのもすごいところ。ファンタジーがごく自然に受け入れられる、さもありなんというような世界が作りあげられています。
ねずみが自分の巣穴に、枕や乳母車などひっぱり込んでしまうというのは、いかにもありそうなことですが、そのいかにもありそうが、またより真実らしく見えるのは、人形の家が細部まで実に丁寧に、本当の家らしく描き込まれているからでしょうか。
この人形の家には、モデルがあるらしく(ノーマン・ウォーンという「ピーターラビットの絵本」を出版した人の家にあった人形の家らしいです。)家の中の様子や小道具、ハンカチ一枚にいたるまで、実物をスケッチして描いてあるのだそうです。
ファンタジーをしっかりとした構成と筆力で、丁寧に描き上げるポターの力量に脱帽です。
そして最後の後始末も愉快。
トム・サムはお巡りさんが来たからか?壊した物のお代をちゃんと支払います。それもルシンダかジェインかのクリスマスの靴下の中に入れてという、何ともかわいらしい弁済の仕方で!(そのときルシンダはベッドから無表情な眼差しで、6ペンスが入れられるのをじっと見ていますw。)
ハンカ・マンカは家を荒らしたお詫びに、その後毎朝誰よりも早く起き出して、家の掃除をするようになるし、2ひきのねずみのかわいくも律儀な性格がよく伝わる何とも憎い終わりです。
この小さなかわいらしい「ピーターラビットの絵本」シリーズ。もうとっくにご存じの方も多いかとは思いますが、「ピーターラビットの絵本」といえば長らくその出版社は福音館書店でしたが、2022年から早川書房に変っています。訳者もお馴染みの石井桃子から、新たに川上未映子氏に。福音館版で慣れ親しんできた者からすると、ちょっとさみしいですね。
そしてなんとお値段も・・・福音館時代が1冊700円だったのに対し、
サイズも挿絵の数もページ構成も変わらないのに(変わらなくてよかったですが)新しい早川書房版は、その倍の1400円!
ご時世ですかね・・・。こちらも懐がちょっとさみしくなります。
福音館版をお好みの方は古本屋さんでお求めになるか、図書館でご覧ください。
旧版をお持ちの方は、どうぞ末長く大切にお持ちくださいね。
今回ご紹介した絵本は、『2ひきのわるいねずみのおはなし』
1972.5.1 福音館書店 でした。
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