世の中をもっと美しくするために
美しいものに出会い、触れ、伝え、美しく生きること
読み聞かせ目安 高学年 10分
あらすじ
ルピナスさんは、小さい頃アリスという名前で、海辺の町に住んでいました。
アリスのおじいさんは、船首像を彫ったり、看板を作ったり、絵を描いたりするおじいさん。アリスはそのおじいさんから、
「世の中を、もっとうつくしくするために、なにかしてもらいたいのだよ」
といわれて育ちます。
「いいわ」
アリスはおじいさんと約束し、大きくなるとまず、町の図書館で働きはじめました。
本の埃を払ったり、整理したり、本を借りに来た人に手を貸したり。
やがてアリスは、ミス・ランフィアスと呼ばれるようになり、美しい南の島へ行ったり、一年中雪の溶けない高い山に登ったり、ジャングルや砂漠へ行ったり、たくさんの美しい国々を見に行くようになりました。
けれどある時、ラクダから降りるひょうしに、背中を痛めてしまいます。
ミス・ランフィアスは、海の側に暮らす場所をみつけました。
そこは水面にお日様が輝くとても美しい場所で、素晴らしい暮らしでしたが、ミス・ランフィアスは、
「でも、しなくてはならないことが、もうひとつある。世の中を、もっとうつくしくしなくてはならないわね」
と、おじいさんとの約束を果たそうと考えます。
もうだいぶ年取ったミス・ランフィアスは、痛めた背中が悪く、しばらくは寝て過ごさなければなりませんでした。
病床から、前の夏に蒔いたルピナスの花が、美しく咲いているのを見たミス・ランフィアスは、もっと花の種を蒔きたいと思いました。
やがて春。
だいぶ具合の良くなったミス・ランフィアスは、たくさんの種を仕入れ、村中に種を蒔いて歩きました。
野原に、海沿いの丘に、広い道、細い道の両側に、学校や教会の周りに・・・。
ミス・ランフィアスのことを、頭のおかしいおばあさんという人もありました。
でも・・・次の春。
村はルピナスの花であふれかえります!
村中が、賑やかな花畑になったのです‼
ミス・ランフィアスは、おじいさんとの約束を果たしました。
年取ったミス・アリス・ランフィアスは、村の子どもたちに囲まれて暮らし、子どもたちに、
「世の中を、もっとうつくしくするために、なにかしなくては」
と伝えるのでした。
読んでみて・・・
とても美しい絵本です。
お話は、ルピナスさんと呼ばれるようになった、ミス・アリス・ランフィアスを大おばに持つ、同じ名のアリスという少女のひとり語りで進んでいきます。
ちょっと変わったおばあさんだけど、とても素晴らしい志を持って、美しいことをなした自慢の大おば。素敵な大おばのことを、みんなに知ってもらいたいという、少女の誇らしい気持ちがいっぱいに伝わってくる、子どもらしく微笑ましい語り口です。
世の中を、もっと美しいものにするために何かをするということを、おじいさんと約束した少女は、大きくなって図書館に勤め、遠い国々についてのたくさんの本に出会います。そして、自ら憧れる遠い国々を訪れ、美しい景色や心優しいたくさんの人々と出会います。
美しいものにたくさん触れ、心満たされていくたミス・ランフィアス。
行動的で潔く、でもしなやかで女性らしい魅力に溢れた人物であるのが、背筋の伸びたすっきりとした横顔から感じられます。
テクストも、ミス・ランフィアスの心情を、多く語ったりはしませんが、自由な魂を持って行動し、出会う人々に礼と愛を尽くす女性であることが、浮かび上がってくるような語りになっています。
でも、そんなミス・ランフィアスも、寄る年波にはかないません。
背中を痛めたことをきっかけに、ひとり海辺の家で暮らすことになります。
髪には白いものが混じり、やつれた姿は別人のよう。
それまでがとても活動的で、生き生きとした魅力に満ちていただけに、老いの悲しみが切なく感じられます。
けれども、それまでの人生で、たくさんの美しいものに触れ、親切で心優しい人々との交流を大切にしてきたミス・ランフィアスの心は、朽ち果てることはありません。
「世の中を、もっとうつしくするために」とてもいいことを思いつき、「頭のおかしいおばあさん」という人の声を気にもとめず、おじいさんとの約束を果たします。
たとえ年取って、体は衰えても、それまでの人生で美しいものを見、感じ満たされてきた魂は、その輝きを失うことはなく、志は衰えることはない。志はいつまでも若々しく生き生きとしていられるということを、ミス・ランフィアスは柔らかくしなやかに伝えてくれます。
ミス・ランフィアスの生の美しさは、透明感のあるきらめくような絵の数々からも伝わってきます。
各ページ、各場面が、ルピナスの花を思わせる、ピンク、白、水色、薄紫を基調とした、淡い色合いで柔らかく彩られ、それぞれがミス・ランフィアスの大切な美しい人生の1ページとして、心に沁み入るように広がっていきます。
幼い頃、おじいさんの愛情に包まれた、暖かいピンク色の工房。
目の覚めるような、透き通った南国の青い海。
やや様式化された白い雪山や、穏やかな夕陽に照らされた砂漠の景色。
陽に照らされて輝く海辺。
そして見開きいっぱいに、色とりどりのルピナスの花が咲き乱れる村の景色。
それぞれの風景や植物は、どれもとてもみずみずしく輝くようです。
どのページも、うっとりするような美しさです。
美しいものに触れ、世の中をもっと美しくするために何かするという、人生の大きな喜びを、次の世代に伝えることを、満ち足りた人の静かな口調で、幼い人に語りかけるこの絵本。この絵本を読むと、私も何かしなければ、自分が触れてきた美しいものを私もルピナスさんのように、もっと伝えていかなければという思いに駆られてしまいます。
人生が黄昏時にかかっても、世の中を美しくするためにできることはきっとある。
そんな期待と自信を、ゆったりと美しいものに包み込まれるような感覚を味わいながら
優しく豊かに感じさせてくれる、とても美しい絵本だなと思いました。
子どもたちだけでなく、大人にもぜひお勧めしたい1冊です。
今回ご紹介した絵本は『ルピナスさん』
バーバラ・クーニー作 掛川恭子訳
1987.10.15 ほるぷ出版 でした。
ルピナスさん |
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