真夜中の秘密
子どもの願望を叶えた奇想天外な楽しい絵本です。
読み聞かせ目安 低学年 3分
あらすじ
ミッキーが真夜中に寝ていると、外があんまりうるさいので
「うるさいぞ しずかにしろ!」
とどなったら、暗闇に落ちて、裸になって、真夜中の台所に降りてった。
そこでは毎晩パン屋さんたちが、寝ずに朝のケーキを焼いている。
パン屋さんたちは、声をそろえて歌ってる。
「しあげはミルク!しあげはミルク!まぜて、ねって、ならして、やこう!」
練り粉の中に落っこちたミッキーは、混ぜられ練られてオーブンの中へ!
ミッキーはオーブンを飛び出して、パンの練り粉で飛行機を作り、夜空へ向かって飛び立った。
パン屋さんたちは、ミルクがないと困ってる。
パイロットのミッキーは、天の川までミルクを取りに行って、パン屋さんにミルクをあげる。
おかげで朝のケーキが出来上がり、朝が来ました。
「コケコッコー!」
ミッキーは、すべって降りて、ベッドに戻り・・・やれやれ、ぬくぬく。
朝のケーキが食べられるわけが、これですっかり分かったよ。
読んでみて…
『かいじゅうたちのいるところ』(1975 冨山房)や『きみなんかだいきらいさ』(1975 冨山房)のセンダックの絵本です。
センダックは、子どもの内面、特にたまったうっぷんや欲求不満、抑圧された願望の解放を、伸びやかに描くことにとても長けた作家ですね。
この『まよなかのだいどころ』も、しかり。
ミッキーが、真夜中に起き出して日頃やりたいことを存分に楽しみ、自己解放しています。
毎晩早く寝なさいといわれ、夜中に起きればまた寝かしつけられる子どもたち。
子どもにとっては、真夜中に起きているということが憧れです。
大人は夜中に何をやっているんだろう?
自分の寝てる間に、何が起こっているんだろう?
興味津々です。
ミッキーも、そんな子どものひとり。
真夜中に起き出して、真夜中の台所へ降りていきます。
わずらわしいパジャマなど脱ぎ捨てて、裸ん坊になって、ふわりふわり。パパとママの部屋を横目に降りていくさまは、まさに束縛からの解放を意味しているのでしょう。
真夜中の台所では、パン屋さんたちが朝のケーキを作っています。
暗いうちから翌日の店の準備をするのは、大人にとっては大変な仕事ですが、子どもにとっては、暗いうちに働くのは秘密のお仕事のようで、さぞかし魅力的なのでしょうね。
その魅力的なお仕事に紛れ込み・・・、やってみたいことをやってみる。
パンの練り粉にまみれてみたり、練り粉で飛行機を作って夜空を飛んでみたり・・・。
普通だったら出来ないこと、怒られてしまうことを、思う存分、体中で楽しみます。
途中で、練り粉に混ぜられたまま、オーブンに入れられそうになり、慌てて脱出するというスリルまで味わいます。
自力で脱出したあとは、自分で作った飛行機に乗って、ミルクがなくて困っているパン屋さんに、ミルクを取ってきてあげることもやってのけ、ミッキーは満足至極!
普段は抑圧されて、存分に楽しめない遊びや冒険を楽しみ、自分の力を存分に発揮し、大人の手助けまでやる。そして、いつも知らない間に、きれいにパン屋さんの店先に並べられる朝のケーキが、自分の取ってきたミルクのおかげで準備できたという優越感や達成感まで味わっているのです。
絵も束縛から解放された自由さにあふれています。
夢の世界でありながら、輪郭線は太く堂々と伸びやかです。
主人公の男の子ミッキーの表情も、子どもらしい可憐さというより、意思の強さ、自己主張の強さが強調されているように見えます。
自分で作った飛行機に乗っている顔、朝のケーキが出来上がって、「コケコッコー!」と鳴いている顔なんて、優越感に満ち満ちています。
台所や夜の街に細かく描かれた物たちも魅力的です。
ジャムの瓶や小麦粉の袋、ベーキングパウダーの箱など、パン屋さんの台所にある食材や道具が、そのままビルになって夜の街を形作っています。
ミッキーの真夜中の台所への憧れがあふれでているとても楽しい夜の街です。
天の川の大きなミルクの瓶の中に、ミッキーが入り込んでミルクを汲む、という奇想天外な絵も愉快です。
文字のフォントも太目で大きく、伸び伸びと配置されています。
テクストも、センダックの原文がマザー・グースの影響を受けているというのを踏まえて、七五調的なリズムを意識して訳されているので、韻を踏んで歌うように、テンポよく読むことができます。
テクストのテンポによさが、ミッキーの解放感や優越感がぐんぐん満たされていくのを伝えています。
この絵本は大人には一見、奇妙な絵本に見えるかもしれません。ですが、子どもたちにとっては、日頃満たされぬ願望を、存分に満たしてくれる心底楽しい絵本のようです。
心の中に溜まっている願望を、心の中を描くファンタジーで解放することができる、優れた絵本なのだと思います。
この絵本は、アメリカで刊行された当初、裸ん坊のミッキーに度肝を抜かれた図書館員が、ミッキーの絵におむつを書き加えたという逸話があるそうです。
裸ん坊のミッキーは、まさに束縛からの解放を意味するもの。
大人も、日頃がんじがらめになっている常識や良識(?)から解放されて、ファンタジーの世界で遊ぶ時間が必要みたいですね。
今回ご紹介した絵本は『まよなかのだいどころ』
モーリス・センダック作 神宮輝夫訳
1982.9.20 冨山房 でした。
まよなかのだいどころ | ||||
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