絵本とむかしばなし

小学校で絵本の読み聞かせや昔話のストーリーテリングをしています。楽しいお話、心温まるお話をいろいろご紹介していこうと思います。

『かいじゅうたちのいるところ』

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うちなるものの世界

 子どもの心の旅をみているような絵本です。

            

読み聞かせ目安  低学年  3分

あらすじ

ある晩、マックスはおおかみのぬいぐるみを着て大暴れ。

お母さんに「この かいじゅう!」と怒られ、負けずに「おまえを たべちゃうぞ!」と言ったら、夕ご飯抜きで寝室に放り込まれた。

 

すると・・・、寝室に、にょきりと木が生えだして・・・寝室はみるみる森になり、波がよせ、マックスの舟を運んできた。

 

マックスは舟に乗り、1週間、2週間、1か月、2か月、・・・1年と1日航海して、着いたところは、かいじゅうたちのいるところ

マックスはかいじゅうならしの魔法を使って、かいじゅうをかいならし、かいじゅうたちの王様になった。

王様になったマックスは、大声でかいじゅうたちに、

 

「では、みなのもの!」

「かいじゅうおどりを はじめよう!」

 

と命じ、夜に昼にとさんざん踊りを踊った。

 

かいじゅうもマックスも踊り疲れ、マックスはだんだん寂しくなってきて、やさしいだれかさんのもとへ帰りたくなった。

マックスは、かいじゅうの王様をやめ、舟に乗り込み、1週間、2週間、1か月、2か月、1年と1日航海して、自分の寝室へ。

 

寝室には、夕ご飯が置いてあって、まだほかほかと温かかった。

                      

読んでみて…

センダックほど、子どもの内面を切り込み、絵本に表現した作家はいないとよくいわれています。この絵本は、その子どもの内面を表現した本として、代表的なものといっていいでしょう。

 

マックスは、ある晩大暴れします。きっと何か気に入らないことや、うまくいかないこと、どうしようもないうっぷんがたまっていたのでしょう。ロープのようなものに、カーテンやぬいぐるみをぶらさげ、壁に金づちで打ち付けたり、犬をフォーク片手に追い回したりしています。

そして、とうとうお母さんに「この かいじゅう!」と怒られる。

どこの家庭にも、どこの子どもにも、よくある場面です。

 

子どもの日常には、抑圧や欲求不満があふれています。

欲求不満に満ち満ちたマックスは、寝室に閉じ込められてしまいますが、そんなことはものともせず、ファンタジーの旅に出ます。長い航海を経て、かいじゅうたちのいるところへ。

 

そこでマックスは、かいじゅうたちの王様になります。いつもは親の権力下に置かれている子どもが、抑圧を解放し、ここで権力を握ります。かいじゅうたちをしもべにしたマックスの表情は、なんとも強気で得意そうです。踊りを踊っている顔は、陶酔しきっています。

 

でも、誰にも怒られることなく、思う存分かいじゅうたちを従えて大暴れして、満足の極致に至ったはずのマックスが、しだいにしょんぼりと寂し気になっていきます。

「やさしい だれかさん」=お母さん、のところへ帰りたくなるのです。

 

このマックスのファンタジーの旅は、親に反発する子どもの心の旅そのものです。

反発して飛び出して、好き放題やって嬉しいけれど何か足りなくなって、寂しくなって・・・。

 

子どもたちはみんな、マックスと同じかいじゅうの旅を繰り返しながら、大きくなっていくのだと思います。そうして、自分の内なるかいじゅう=抑えがたい欲求や不満、を飼いならす術を身に付けていくのだと思います。

この絵本は、そういった子どもの心の成長への旅、ステップを、かいじゅうたちのいるところへ行くというファンタジーの世界で描いているのです。

 

柔らかな色彩で精緻に描き込んだ絵は、ファンタジーにふさわしく夢幻的です。でもどこかリアルで、不気味な感じもしてしまうのは、それだけ心の中を覗いているような感じがして、子どもの心の奥の鬱屈を見るように感じさせ、そういったところもこの絵本の卓越したところだといえるのだと思います。

 

この絵本を読んで、子どもたちはきっとマックスと一緒に、かいじゅうたちと大暴れを楽しみ、欲求を解放し、満足を味わうことでしょう。そして、最後はお母さんのところへ帰って安心する。親=大人としては、子どもが存分に心の旅をしたあと、ゆっくり安心して落ち着ける場所を、いつも用意しておいてあげたいなと思います。

                      

今回ご紹介した絵本は『かいじゅうたちのいるところ

モーリス・センダック作  神宮輝夫訳

1975.12.5  冨山房  でした。

かいじゅうたちのいるところ

モーリス・センダック/じんぐう てるお 冨山房 1986年10月
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