猿蟹合戦の再話絵本
素朴でおおらかな面白さにあふれた絵本です。
読み聞かせ目安 中学年 10分
あらすじ
むかしむかし、かにが浜辺で柿の種を拾った。
かには柿の種を庭にまき、せっせと水をやり、
「はよう 芽を だせ かきのたね、ださんと はさみで ほじりだすぞ」
といっていたら、柿の種はすぐに芽をだし、その後もかににせかされながら、ぐんぐん伸びて、大きな木になり、たくさんの実をつけ、熟れていった。
かには大喜び!
でも、かには柿の実を取ろうと思っても、木にうまく登れない。泡を吹いているところへ、猿がやってきた。
猿はかにに柿の実をもいでやると約束し、木に登った。
けれども猿は自分で食べるばかり!かにが、
「やあい、いっちょぐらい こら もいでよこさんか、おおい」
というと、猿はまだ青い柿をひんもいで、かにに向かって投げつけた。
硬い柿の実は、かににどすんと当たって、かにはぺしゃりと潰れてしまった。
潰れた甲羅の下からは、かにの子どもがずぐずぐとたくさん出てきた。
かにの子どもたちは、大きくなると、畑にきびをまき、きび団子をこしらえ、腰につけて、さるのばんばへ仇討にいった。
子がにどもが、がしゃがしゃ がしゃがしゃ 歩いていくと、ぱんぱん栗に行き合った。
「かにどん かにどん、どこへ ゆく」
「さるのばんばへ あだうちに」
「こしに つけとるのは、そら なんだ」
「にっぽんいちの きびだんご」
「いっちょ くだはり、なかまに なろう」
「なかまに なるなら やろうたい」
ぱんぱん栗は、かにの仲間になり、そろって猿のばんばへ向かった。
しばらくいくと、今度は蜂に出会った。
蜂も仲間に加わり、それから牛の糞、ハゼ棒、石臼も仲間になり、一同そろって猿のばんばへいくと、猿はちょうど留守であった。
猿のいぬまに、ぱんぱん栗は囲炉裏の中に、子がにどもは水桶の中、蜂は戸口の上の鴨居、牛の糞は戸口の敷居の外、ハゼ棒は牛の糞の脇に立ち、石臼はハゼ棒に支えられてその上に。みんな自分の持ち場で、猿の帰りを待った。
猿は、
「ああ、さむか さむか」
と帰ってきて、囲炉裏で背中をあぶっていると・・・
囲炉裏の灰の中のぱんぱん栗がぱーんと跳ねくりかえり、猿の背中へ!
猿は、
「きゃあっつ」
と跳びあがり、水を被りに水桶へ。
すると・・・、子がにどもが、がしゃがしゃがしゃがしゃと猿にとっついて、体中をはさみでじゃきじゃき!
びっくりした猿は、逃げ出そうと戸口の方へ。
すると・・・、上から蜂がブーンと舞い降りて猿を刺し、猿は牛の糞を踏んづけて、滑って転んでハゼ棒を倒し、頭の上から石臼がどしーん!!
猿は、とうとう平たくへしゃげてしまったと。
読んでみて…
猿蟹合戦の昔話を絵本にしたものは数ありますが、この絵本はその中でも、素朴でおおらかな昔話の味わいを壊すことなく、とても良く描けている絵本だと思います。
語り口は、簡潔明瞭で無駄がありません。お話のはじまりから「おもうて(思って)」「ひろうて(拾って)」「はよう(早く)」など、長音を多用し、昔話の雰囲気いっぱいに読者をお話の世界に引き込んでいきます。
加えて、どこと特定されてはいないようですが、標準語の中に方言を入れて、民衆の生活の中から生まれた昔話らしさも十分です。
「なかまに なるなら やろうたい」
「ああ さむか さむか」
こういったところからは、作者木下順二の家が熊本の出なので、九州地方の方言がベースとなっているのかなという感じもしてきます。
オノマトペの表現も愉快です。
かにの甲羅から、子がに出てくるところでは、「ずぐずぐ ずぐずぐ」。
子がにが、泡といっしょにいっぱい這い出す様子が目に見えるようです。
子がにたちが揃って歩いていくところでは、「がしゃがしゃ がしゃがしゃ」。
子がにたちが、ハサミを鳴らしながら歩いていく音が聞こえそうです。
また、子がにたちの仇討ちに仲間が次々加わっていく場面では、
「かにどん かにどん どこへ ゆく」
「さるのばんばへ あだうちに」
「こしに つけとるのは、そら なんだ」
「にっぽんいちの きびだんご」
「いっちょ くだはり、なかまに なろう」
「なかまに なるなら やろうたい」
というフレーズが栗、蜂、牛の糞、ハゼ棒、石臼と増えていくたびごとに繰り返されるのも、リズミカルで楽しく響きます。
ですが、この繰り返し・・・「きびだんご」のくだりになると・・・はて?
なんだか「桃太郎」を読んでいるような・・・?ちょっと変な気分になってきますが、・・・まあ、愉快といえば愉快です。
絵の方も、すっきりとした中に、おおらかな味わいのある昔話によくあったものになっていると思います。
表紙は、晴れた青空のような水色に、赤い柿の実が映えてきれいです。
とぼけたような顔つきの猿やかに、栗やハゼ棒、石臼の表情もユーモラスです。
表紙をめくると、中はすべて白地に黒と赤のみ。
シンプルですが、日本の昔話の雰囲気にとてもあっていると思います。
筆の線も、太めでおおらかです。
ただこの絵本には、ひとつだけ難点があって、読み聞かせのときは十分注意・用意しなければならないところがあります。
このお話クライマックス。猿がぱんぱん栗に跳ね当たられ、子がにどもに挟み切りられ、蜂に刺される場面です。
この絵本は、左開きで絵も文章も、右から左に流れていくのですが、なぜかこの場面だけ、絵が左から右に流れるという反転をしてしまっているのです。
本来右から順に、栗→かに→蜂になるものが、蜂→かに→栗の順になっているのです。
このままだと見ている方は、混乱します。
なので、このページを読むときは、テクストをあらかじめ覚えておいて、左の栗から絵を指さして語っていくようにしています。
幸い?このページには、右ページの最初に、「するとーー」とあるだけで、絵の内容を現したテクストはなく、テクストは次のページになっているので、テクスト先取りで語って乗り切っています。
こんなふうにちょっとした難点はあるのですが、それでも絵の少しとぼけたおおらかさ、簡潔ななかにも昔話らしさとユーモアのあるテクストは魅力的で、昔話絵本としてとてもすぐれたものになっていると思います。
柿が真っ赤に熟する季節になると、読んでみたくなる楽しい一冊です。
なおこの絵本は、全く同じ本で「岩波の子どもの本」から小型版も出ていますが、大版の方が、この絵本らしいおおらかさがあって、読み聞かせのときも、見やすくていいと思います。
今回ご紹介した絵本は『かにむかし』
木下順二文 清水崑絵 1976.12.10 岩波書店 でした。
かにむかし | ||||
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