声をあげるということ
人生を謳歌するために大切なことをユーモラスに伝えてくれる絵本。
読み聞かせ目安 低・中学年 7分
あらすじ
あるところに1匹のちっちゃいつる・・・おっとまちがい、さるがいて、名前はオズワルド。
小鳥が歌う気分のいい日。リンゴを食べたり、もっと大きな、世界一大きなリンゴの夢をみたり、他のさるたちとおしゃべりしたり、楽しく過ごしていた。
でも・・・そこへボスざるのいかけや・・・おっとまちがい、いばりやがやってきていばりだした。
みんなは震えて高い枝に逃げてゆく。
オズワルドは、いばりやのノミとりをさせられたり、リンゴを食べさせてやったり、なんだかんだともう大変!
ちっちゃなさるたちは、いつもいばりやにひどい目にあわされる。
そんなある時のこと。
オズワルドは、とうとう・・・
「いやだ!」
と叫んだ。
そうしたらほかのさるたちも、みんな一緒に大声をあげはじめた。
「いやだ・・・・・・いやだ・・・・・・いやだ・・・・・・いやだ・・・・・・いやだ・・・・・・いやだ・・・・・・」
いばりやはこれを聞いて怒ったが、みんなは細くて高い木の枝の上に登っていってしまった。
大きないばりやは登れない。
ひとりぼっちになって、つまらなくなって、寂しくなったいばりやは、ようやく気が付いた。
これからは、自分のことは自分ですると。
みんなは木から降りてきて、一緒にリンゴパーティーを開いた。
読んでみて・・・
「あるところに、いっぴきの ちっちゃな つるが いてーーおっと まちがい、さるが いて、」
「それから、トンと くびを はねーーおっと まちがい、ポンと とびはね、」
「でも そのうち、おなかが ポコポコに なったのでーーおっと まちがい、ペコペコに なったので、」
のっけから、こんな言葉遊びではじまるこの絵本。
言葉遊びがすぎるので、ちょっと面喰いながら読み進めていくと、言葉遊びのおもしろさ、おふざけに包まれた、大切なメッセージが見えてきます。
さるの国で幸せに暮らしている、ちっちゃなさるたち。
大きなリンゴの夢を見たり、遊んだり、おしゃべりしたり、伸び伸びと暮らしています。
でもひとたび、いばりやのボスざるがやってくると・・・のどかな景色は一変!
みんな怯えてちいちゃくなって、いばりやのご機嫌を伺いながら、ブルブル震えて過ごします。
オズワルドは、いばりやのノミ取りをしたり、リンゴを食べさせたり。
いばりやが眠くなったら、枕にされたり。
他のさるたちも、息をひそめて静かにしていなければなりません。
いばりやのために、我慢ばかりの暮らしが続きます。
そんなあるとき、
「いやだ!」
とうとうオズワルドは、大きな声をあげました。
そうしたら、我慢を重ねていた他のちいさなさるたちも、次々に
「いやだ・・・・・・いやだ・・・・・・いやだ・・・・・・いやだ・・・・・・いやだ・・・・・・いやだ・・・・・・」
いやだいやだの大合唱!
みんなで逃げて、いばりやはひとりぼっちに。
寂しくなったいばりやが、自分の否を認め、仲直りしてめでたしめでたしなのですが、のっけからの言葉遊びのおふざけが、とても効果をあげているのです。
オズワルドが最初の「いやだ!」の声をあげるとき。
それまで毎ページ繰り返されていた「おっと まちがい、」(なんと13回も!)が、ここで初めてなくなるのです。
もう、おふざけなんかしてる場合ではない。
オズワルドが、意を決したことがよく伺えます。
絵も、真っ白な画面にちいさなオズワルドが、目を大きく見開き、ギュッと凝縮したような感じで、木の枝にとまっています。
意をギュッと固めた、という感じが伝わってきます。
オズワルドのこの勇気ある一声は、みんなの賛同を得て、いばりやは反省。さるたちに自由と平和がもたらされます。
嫌なことは嫌、理不尽な仕打ちには反対の声をあげる。
社会の中で重要なこと。とても勇気がいるけれど、自由と権利のためには行動しなければならないという大切なメッセージが、「おっと まちがい」の言葉遊びというおふざけに包まれて、肩ひじ張らずに柔軟に、遊びの中に込められている。
伸びやかな楽しさの中で、子どもたちが大切なメッセージを、受け取ることができるようになっているんだなとわかります。
そのための、執拗なw「おっと まちがい」だったのか。(「おっと まちがい」は、もう次のページからすぐに復活し、お話の終わりまで続きますがw。)
「おっと まちがい」以外にも、この絵本にはユーモアがたくさん。
いばりやが眠るとき、他のさるたちは静かにしていなければなりませんが、並んで枝にとまっっている3匹のさるが、口を手で押さえていているさまは、まるで見ざる聞かざる言わざるの三猿のよう!(日本人だけがこう思ってしまうのでしょうがw)
嫌われ者のいばりやだって、仲直りしたいときはおずおずと、何ともいえないかわいい顔をして、木の上に手を差し出しています。
自分で蚤取りをはじめた姿は、これまた何ともぶきっちょで、あのいばりん坊はどこへやら。
自由になったさるたちも、小さな体をこれ以上伸びないんじゃないかというくらい、思いっきり伸ばして飛び廻っています。
余白の多い中に、まるで一筆描きのように描かれた背景も、すうっとした軽やかな心地よさがあって、言いたいことはすっきりいって、人生を謳歌しようよといっているような爽やかさがあります。
大切なメッセージを伝えるのは、ときに重々しくなりがちですが、この絵本はそれをとても明るくすっきりと、軽みのなかに伝えてくれているのだなと思いました。
大人にはちょっと執拗すぎると感じる「おっと まちがい」の言葉遊びも、子どもには楽しく、「次は何よ。」「そんなのある?」と、軽やかな感性で受け取っているようです。
人生を謳歌するために大切なことを、真摯にけれども楽しく明るく軽やかに伝えてくれる、楽しい絵本だなと思いました。
今回ご紹介した絵本は『さるのオズワルド』
エゴン・マチ―セン作 松岡享子訳
1998.3.10 こぐま社 でした。
さるのオズワルド | ||||
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