絵本とむかしばなし

小学校で絵本の読み聞かせや昔話のストーリーテリングをしています。楽しいお話、心温まるお話をいろいろご紹介していこうと思います。

『だいくとおにろく』

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名当ての昔話

 日本の昔話の味わいを存分に楽しめる絵本です。

            

 読み聞かせ目安 低学年 4分

あらすじ

むかしむかし、あるところに、とても流れの速い川がありました。

 

何度も何度も橋をかけても流されてしまうので、村人たちは困り果て、このあたりで一番名高い大工に、橋をかけてもらうことにしました。

 

大工は橋かけを引き受けたものの、あまりに速い川の流れを見ていると心配になりました。

じっと川を見ていると・・・流れの中から大きな鬼が現れ、鬼は、目玉をくれるなら、橋をかけてやるといいます。

 

次の日、大工が川へいくと・・・、橋が半分かかっていました。

さらに次の日、川へいってみると・・・、もう、すでに立派な橋が出来上がっています。

鬼は大工に、

 

「さあ、めだまぁ よこせっ」

 

と迫ります。大工が待ってくれと頼むと、

 

「そんなら、おれの なまえをあてれば ゆるしてやってもええぞ」

 

といいます。

大工は、逃げに逃げて、山の奥深く入っていきました。すると、遠くから子守り唄が聞こえます。

 

「はやく おにろくぁ めだまぁ もってこばぁ ええ なあー」

 

大工は、はっとして家に帰りました。

 

次の日、大工が川へ行くと、鬼が出て来て目玉をよこせといいます。

大工は、鬼の名前を、「かわたろうだ」とか「ごんごろうだな」とか「だいたろうだっ」とでたらめにいい、最後に

 

「おにろくっ!」

 

とどなりました。

すると鬼は・・・ぽかっと消えてしまったのでした。

                      

読んでみて…

昔話を絵本にするのは難しい、とよくいわれますが、この絵本は絵もテクストも、日本の昔話の味わいを存分に楽しむことができる、とても優れた絵本になっていると思います。

 

まず絵の方はというと、・・・とても美しい。

日本画の顔料で描かれたような、少しくすみがかっているけれど、鮮やかな彩色のページと、墨絵のようなモノクロのページが、交互に出て来る構成になっています。

カラーとモノクロが交互に出て来るページ構成は、絵本でよく使われる手法で、このブログでもすでに何冊かご紹介していますが、この絵本はそれがとても効果的に使われています。

 

特に鬼が現れる場面。

はじめは墨絵のページです。川の流れのなかから、ぶくぶくと泡が浮かび、なにやら得体のしれないものが頭を出す。角のようなものが生えている。得体の知れなさが、モノクロで、もやもやとよくわからないように表現されています。

それが、次のページになると・・・真っ赤な大鬼が見開き中央にどーんと、色鮮やかに出てくるのです。川岸の地面の緑も補色になって、より鮮やかに際立って見えます。

 

それから、橋が出来る場面も秀逸です。

一日目。橋が半分出来ているところでは、墨絵。はたしてどうなるやら・・・といった感じですが、それが次の日!橋が出来上がっている場面では、ばあーんと朱塗りの大きな太鼓橋が、赤々と色鮮やかに見開きいっぱいに堂々と登場します。これまた川岸のいまだ緑のもみじや、遠い山々の青が補色となり、一層の鮮やかさを引き立てています。

絵巻さながらの美しさです。

 

次には何が来るかというワクワクした期待感、わかった時の楽しさあふれる満足感。そういった感情が、このような日本的美意識のもとになる秀逸な絵本で満たされることは、とても幸せなことだと思います。

このような優れた昔話の絵本を、子どもたちに伝えていきたいなと思います。

 

テクストの方も、昔話らしく、余計な心理描写などなく、すっきりと簡潔な語り口になっていて優れています。

 

内容の方は、昔話によくある名当ての話です。

名前を当てられるだけで、あれほどの大鬼が、「ぽかっと」あっけなく消えてしまうのですが、昔の人は名前には魂が宿る、もしくは名前が魂そのものと考えていたところがあったそうです。それで名前を当てられるというだけで、魂が相手の手中に入ってしまったということになり、そのものは正体をなくすということになるわけです。

 

名前と魂という点で、昔の人の考え方、捉え方を見るのによいものに『万葉集』があります。

万葉集』巻一の巻頭歌に、雄略天皇御製の歌として、

 

籠もよ み籠持ち ふくしもよ みぶくし持ち この岡に 菜摘ます児 家告らな 名告らさね そらみつ 大和の国は おしなべて 我こそ居れ しきなべて 我こそいませ 告らめ 家をも名をも  (『万葉集(一)』岩波文庫 2013.10.16)

 

という歌があります。岡で若菜を摘んでいる乙女に、天皇が家の名を、わが名を告げなさいといっているのですが、昔は女性に家や名前を聞くことは、求婚を意味していたのだそうです。

名前には魂が宿っている、名前が魂そのものであるから、その名を告げることで、相手に自分の魂を預ける、捧げるということなのでしょう。

万葉集 1

佐竹 昭広/山田 英雄 岩波書店 2013年01月16日頃
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戦の時、武将たちがまず名乗りを挙げてから戦をはじめるのも、名前が自分の魂そのものだからです。相手に名を名乗ることで、文字通り魂をかけた戦いを正々堂々とやる。それが正式な戦のやり方で、名乗らない闇討ちは卑怯とされました。

 

このように、昔の日本人には名前=魂という考方があったので、あれほどの大鬼の鬼六も、名前を言い当てられることによって、その魂を大工に握られてしまい、「ぽかっと」あっけなく消えることになってしまった、ということになります。

 

ただ、この名当ての昔話は、外国にも多くの類話があります。

外国においての魂と名前の関係性の深さのほどはよくわかりませんが、イギリスの「トム・ティット・トット(『イギリスとアイルランドの昔話』石井桃子訳 福音館書店 1981.11.25)や、グリムの「ルンペルシュティルツヘン」(『子どもに語る グリムの昔話1』佐々木梨代子・野村泫訳 こぐま社 1990.10.25) などは、子どもも読みやすく聞きやすい良質のテクストが出ているので、高学年であればこれらを朗読したり、ブックトークで紹介するのもいいかなと思います。

 

イギリスとアイルランドの昔話

石井桃子/ジョン・D・バトン 株式会社 福音館書店 1981年11月
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子どもに語るグリムの昔話(1)

ヤーコプ・グリム/ヴィルヘルム・グリム こぐま社 1990年10月
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今回ご紹介した絵本は『だいくとおにろく』

松居直再話 赤羽末吉絵

1967.2  福音館書店  でした。

だいくとおにろく

松居直/赤羽末吉 株式会社 福音館書店 1967年02月17日頃
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