人と動物たちの農場での暮らしを描いた絵本
自然と農場での暮らしの愛にあふれた絵本です。
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読み聞かせ目安 中・高学年 15分
あらすじ
1年間の農場の暮らしを描いた絵本です。
1月は、雪の降る寒い月。動物たちは、餌のある、納屋のそばで暮らします。
2月は、池の水が凍り、子どもたちはスケート。ガチョウも池で遊びます。
3月は、すこしずつ日差しがまぶしくなり、動物たちは子どもを産みます。
4月は、春。いろいろな鳥が卵を産み、ひなが孵ります。
5月は、暖かく、動物たちは、重い毛のコートを脱ぎます。
6月は、初夏。動物たちは、緑の牧場で草を食べます。虫もたくさん出てきます。
7月は、カエルやコオロギ、フクロウが鳴き、静かな夜は、牛の鳴き声、馬が草を食べる音、いろんな音がひっそり聞こえてきます。
8月は、夏の終わり。青い空。日は明るく輝き、草花はどんどん育ちます。暑くてだるく、眠い日もあります。
9月になると、さわやかな風が吹き、日は短くなります。秋のはじめです。
10月は、すばらしい月。明るく晴れた日に、刈入れをします。渡り鳥は、南へ向かって飛び立ちます。
11月になると、毎晩霜が降り、冬の空気のにおいがしてきます。狩りをする人の笛や、猟犬の声が聞こえます。売り物、贈り物、種付けのために、農場を出ていく動物もいます。
12月は、冬のはじまり。食べ物と干し草のある納屋で暮らす季節のはじまりです。暖かい寝床で、みんな早く眠ります。
読んでみて・・・
暖かく柔らかな色彩と線で、農場の1年間の暮らしをつづった絵本です。
表紙は12分割され、「いちがつ」から「じゅうにがつ」までのそれぞれの様子が、動物を中心に示されています。何月がどれ、何月がどれと、わくわく確認していく楽しさがあります。
表紙を開くと、題字ページ。ここには、春夏秋冬の農場の様子が、柔らかくわかりやすい絵で示されています。
それから、1月、2月・・・と順に、それぞれの月の農場の暮らしが紹介されていきます。
大きな事件や、感情の起伏は何もなく、ただ淡々と、四季折々の日々の暮らしが描かれているだけなのですが、飽きさせません。
見開きいっぱいに描かれる農場や、自然の美しさ。動物たちの躍動感ある、生き生きとした生態。写実的とはいえない、単純な線で描かれているのに、とてもリアルな感じ、嘘のない、地に足が付いた印象があります。
動物たちは、擬人化せされたりしているわけではなく、馬は馬、牛は牛、鳥は鳥らしく描かれているのですが、それぞれ表情があって、とてもユーモラスです。人語を操ったりはしませんが、感情が手に取るように伝わってきます。
卵を産んだとき、ひなが孵ったとき、凍った池で遊ぶときの、ガチョウのくるっとした頓狂な目!
毛を刈る前と後の、真っ黒な犬の、とぼけたようなきょとんとした顔!
にぎやかな動物たちのくらしを、いつも横目で冷静に、マイペースで見つめる猫たち!
たくさんの動物たち、それぞれの生態や性格が、穏やかななかに、とてもユーモラスに生き生きと伝わってきます。
人の暮らしも、穏やかで誠実着実。
四季の移ろい、自然に即した暮らしぶりです。
自然を、動物たちを、愛し大切にしながら、日々を送っているのがよくわかります。
なかには、狩りをしたり、家畜を売りに出したりする場面もあるのですが、生活に必要な分だけ、生き物の命をいただいているということが、文字化されずとも伝わってきます。
自然との共存共栄。地に足の着いた真面目な暮らしぶり。
贅沢ではない、真に豊かな暮らしをみることができます。
またこの絵本は、とても誠実に描かれた絵本なのですが、豊かな詩情にもあふれています。
特にすてきなのは7月!
とても静かな夏の夜。
満月に照らされた、薄暗がりのなか、耳をすますと、いろいろな音が聞こえてきます。
カエルの声。コオロギの声。フクロウの声を遠くに聞きながら、家のベランダでは、おじいさんが昔話を語り、納屋では遅い時間まで働く人が、コンベヤーをガタガタいわせ、干し草を運ぶ音が聞こえます。働く人々は、ときに静かな笑い声をたて、馬が草を食べる音まで聞こえてきます。干し草のにおいも香しく・・・。
おおきな自然に包まれた人と動物の、ゆったりとした暮らしぶりが、豊かな詩情をもって感じられるのです。
この絵本には、わくわくどきどきするような、お話の展開は何もないのですが、それぞれの絵をのぞき込んでいると、そこに描かれたそれぞれの動物や人々のドラマを、豊かに想像できるような力があります。
見開きいっぱいの大きな絵。コマ割りされた小さな絵。大小さまざまなたくさんの絵が、どれもそれぞれに豊かなドラマや詩情を感じさせるのです。
そして、とても洒落ているのが、最後のページ。
12月が終わって、新しい年を迎える夜。
ぐるりと輪になった枝にふくろうがとまり、輪のなかには、農場の景色が遠景で描かれています。
その輪のなかには、納屋の裏庭に、こぼれた干し草を食べにきたシカ。
にわとりがぐっすり眠ったか、こっそりのぞきにきたキツネが描かれ・・・。
ひっそりとかつ可愛らしく。お話が幕を閉じます。
みんなが静かに寝静まった、おおみそかの農場のようすを、最後に小さな遠景でのぞかせて、静かに、余韻を持たせて終わっているのです。なんともおしゃれ!
作者のプロベンセン夫妻は、ニューヨークのスタッツバーグ近くの農場で、実際、ガチョウや羊、アヒルなど、さまざまな動物たちといっしょに暮らしていたのだそう。
農場の自然の季節の移りかわり、動物たちとの暮らし。それらに対する深い愛情が、豊かな詩情となって表されたのが、この絵本なのだなと思いました。
自然とともに生きる人々の誠実な暮らしぶり。農場の動物たちの生態。それらを淡々と描きながらも、楽しく豊かに想像力をかきたてる、とても優れた絵本だなと思いました。
このような絵本を読んで、子どもたちも楽しい想像力と、自然に対する目を大きく開いていってくれたらいいなと思いました。
今回ご紹介した絵本は『かえでがおか農場のいちねん』
アリス&マーティン・プロベンセン作 岸田衿子訳
1980.6.15 ほるぷ出版 でした。
かえでがおか農場のいちねん | ||||
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