中国の昔話
壮大なスケールで語られる銀河の始まりのお話
読み聞かせ目安 高学年 12分
あらすじ
むかしむかしある村に、子どものないじいさまとばあさまが住んでいた。
「子どもがほしい。子どもがほしい」と言い暮らしていると、ある日、山から石が落ちてきた。
石はぱっと割れ、中から男の子が現れた。
「おお、あかごじゃ、おとこの子じゃ」
じいさまとばあさまは大喜びで、赤ん坊を連れて帰り、大切に育てた。
男の子は「サン(英雄)」と名付けられ、その名の通り、頼もしい立派な男に育った。
その頃、南山と北海に、二匹の大きな龍の兄弟が住んでいて、桃の実の奪い合いをしていた。二匹の激しいぶつかり合いで、山は揺れ、岩は飛び散り、ついに天がバリバリっと破れてしまった。
村には、雨が滝のように降り、ひょうが石のように落ちてきた。
草木は根こそぎやられ、生き物は死に、人々は飢えと寒さに苦しんだ。
サンは、世を救うため、天の裂け目を繕う方法を聞きに、ライロン山へと出かけて行った。大雪、大雨にも負けず、九十九の山川を越え、ぜっぺきのライロン山に着いた。
サンはそこで、緑のひげの老人に出会った。老人は、ウリュー山のクマ王の娘を嫁にして、天を繕ってもらえとサンに教え、緑のわらじをくれた。
サンは、緑のわらじを履き、ウリュー山へ行き、足をどんどん踏み鳴らした。
すると山から緑の花が降りて来た。
花の中には、緑の着物を着たみどりひめが座っている。
サンが、
「ひめよ、天をつくろってくれないか。人びとを たすけるためだ」
と頼んだが、ひめは
「そんなつらいことはいや。あそぶことがすき」
という。
サンは、みどりひめを押し返し、ライロン山へ引き返した。
ライロン山の老人は、今度は青い手袋をくれた。
サンはまたウリュー山へ行き、青い手袋をした手で山を押すと、青い花に座った青ひめが降りてきた。
サンは、天を繕ってくれるよう頼んだが、青ひめも嫌だという。
サンは再びライロン山へ戻り、白いひつじの毛の帽子をもらって、またウリュー山へ行った。
白いひつじの毛の帽子を被ったサンが、ウリュー山にぶつかると、今度は赤い花に座った白ひめが降りてきた。
サンが、天を繕ってくれるよう頼むと、白ひめは承知してくれた。
白ひめは、天を繕うには、龍の牙と龍の角がいるという。
サンは、ひめから金のくぎ抜きとひつじの皮袋をもらい、南山と北海へ行き、龍の牙と角を取ってきた。
サンと白ひめは、二人で激しい雪の中、天の裂け目を繕った。
滝のような雨、石のような雪は、ぴたりと止んだ。
人々は歌い踊って喜んだ。
天には白ひめの白いターバンと龍の牙のくぎが光っている。
後の世の人々は、これを銀河と呼び、星と呼んだ。
読んでみて…
広い中国の地から生まれた物語らしい、大河のようにスケールの大きな昔話です。
雄大な大地、雄々しい山、川。そして広大な天。
大いなる自然を舞台にした昔話を、この絵本は、横長で少し大きめの画面を縦横に使い、流麗な筆致と鮮やかな彩色で描きあげています。
最初のページは、広大な大地と連なる山々の中に、点のように存在するじいさまとばあさま。東洋の伝統的な山水画に描き込まれる人物と同じように、自然の一部として大自然の中に溶けこむように描かれています。
この自然の一部が、サンという子を授かることで、自然の全部にかかわる大きなドラマを生みだしていくことになります。
じいさまとばあさまが授かったサンは、山から落ちてきた大きな石から生まれます。
昔話によくみられる異常誕生譚で、日本なら「桃太郎」や「瓜子姫」などがすぐ頭に浮かびますが、中国なら、やはり同じく石から生まれた「西遊記」の孫悟空が思い起こされ、いにしえのお話の雰囲気が伝わってきます。
昔話的な要素としては、サンがウリュー山のクマ王の娘への求婚・天を繕う申し込みを、3度やって3回目に成し遂げる3回の繰り返しというのも、いかにも昔話的です。
また、空に輝く銀河と星が、それぞれ白ひめのターバンと龍の牙というのも、銀河の起原説話になっていて、このお話には昔話的雰囲気が盛りだくさんになっています。
他にも、サンが飛びついて登れるほど長く伸びたライロン山の老人の緑のひげ。緑や青や赤の花に乗って登場する姫たち。大きな山をも揺り動かす力を与える不思議な緑のわらじや青い手袋、白い羊の毛の帽子。それらを巧みに操る英雄サン。不思議な物語を彩る人物や道具も盛りだくさんです。
それらを繊細かつ大胆に、この絵本は描きあげています。
時にサンは、縦になったり横になったり。画面を縦横に動き回り、大地を山を天を龍を操り治める姿が、躍動感いっぱいに描かれます。
高くそびえるウリュー山が登場する場面では、横だった見開きをガラリと縦に変え、山が高く高くそびえているさまをダイナミックに表現しています。読み聞かせのとき、このページは心して、めくりのタイミングで90度いっきに返し、子どもたちに「おおっ!!」と思わせたいところです。
テクストは長めで、読み応え十分ですが、語り口はスッキリと簡潔で無駄がありません。
オノマトペの使い方も面白く、山が揺れるさまを「おん おん」「ごーん ごーん」と表現したり、山を揺らすサンに対するクマ王の抗議の声を、
「ふみならしては いかーん、いかーん!」
「おしては いかーん いかーん!」
「ぶつかっては いかーん いかーん!」
と、こだまにして繰り返すところなども表現としてとても愉快です。
このお話は、中国内陸部の少数民族に伝わる昔話なのだそうですが、大いなる自然への畏怖、勇敢な若者、勤勉な娘への尊敬や賛美、そして遥かなる銀河の神秘への憧憬といった、自然の恩恵を受けながらも時に苦しめられ、乗り越えてきた昔の人々の思いが、長い年月を経て織りなされた民族の宝物のようなお話だと思います。
日本の昔話とは、またちょっと味わいの違う外国の昔話を、ときどき読んでみるのもいいものだなと思いました。
今回ご紹介した絵本は『ほしになったりゅうのきば』
君島久子再話 赤羽末吉絵
1976.12.6 福音館書店 でした。
ほしになった りゅうのきば |
||||
|
ランキングに参加しています。ポチっとしていただけると嬉しいです。
いつもありがとうございます。