ありのままで
個性を大切に育んでくれる絵本です。
読み聞かせ目安 中学年 10分
あらすじ
昔、スペインにふぇるじなんどという花のすきな子牛がいました。
ふぇるじなんどは他の子牛たちのように、飛んだり跳ねたり、頭をつつき合ったりせず、いつもひとりで静かに花のにおいを嗅いでいるのが好きな牛で、一日中大好きなコルクの木の下に座って、花のにおいを嗅いでいました。
お母さんはそんな息子を、寂しくはないかと心配しましたが、ふぇるじなんどが、
「ぼくは こうして、ひとり、はなの においを かいで いるほうがすきなんです」
というのを聞くと、息子を好きなようにさせておいてくれました。
ふぇるじなんどは、年が経つにつれ、どんどん大きな強い牛になりましたが、大きくなってもずっと花のにおいを嗅いで暮らしていました。
そんなある日、マドリードから男たちが、闘牛に出す大きくて強い牛を探しに来ました。
ふぇるじなんどは自分がマドリードに連れていかれるなんてことはないと思っていましたが、ちょうどその時、たまたまふぇるじなんどが腰を下ろしたところに熊蜂がいて、ふぇるじなんどは熊蜂にお尻を刺されて大暴れ!!
ふぇるじなんどの暴れようをみた男たちは、闘牛にぴったりのとびきり大きくて強い牛が見つかったと大喜びして、ふぇるじなんどをマドリードに連れて行ったのでした。
いよいよ大闘牛の日、マドリードの人々は大盛り上がりでふぇるじなんどの闘いを見物に来ましたが・・・ふぇるじなんどは闘牛場の真ん中でただうっとり、見物の女の人たちの髪飾りの花のにおいを嗅いでいるのでした。
ふぇるじなんどはその後、牧場へ戻され、またひとり静かに幸せに、花のにおいを嗅いで暮らすのでした。
読んでみて・・・
自分は自分。ありのままでいいんだよ。この絵本からそう言われているように思います。
他に同調したり、他の期待に応えようと無理して自分を捻じ曲げたりせず、自己を貫く。なかなか難しいことですが、自我が強くなり、自他の相違を意識し始め、それ故にお友達とぶつかることも増えて来る小学校中学年くらいの子どもたちに、それとなく渡してあげたい絵本です。
大人もまたつい子どもを他の子どもと比べ、違っているのを心配したりしがちです。でもふぇるじなんどのお母さんは、違いを認め、優しくおおらかに見守ってあげることの大切さを、我々大人にも教えてくれます。ありのままの個性を認め尊重する。当たり前だけれども難しく大切なことを教えてくれている絵本です。
でも、この絵本はそれを決して肩ひじは張らずにユーモアを交えて教えてくれます。墨一色の精緻なペン描きで表された絵は、牛も人間も表情豊かです。熊蜂に刺されたときのふぇるじなんどといったら!!目玉も飛び出さんばかりの形相で跳ね上がっています。闘牛士の気取った表情や怒り散らす様子も滑稽です。それに、ふぇるじなんどのお気に入りのコルクの木には、なんと加工形成されたコルクの栓が実っている!!という、細部にまでユーモアのセンスが光っています。
ただひとつ読み聞かせ泣かせなのは、版が少し小さめなこと。「岩波の子どもの本」シリーズの一冊なのですが、細かい絵なので遠目がやや利かないこと。薄いセピア色の細めの書体の縦書きで、かつ本来カタカナ書きの所もひらがな書きしたのテクストなので、子ども側に画面を向けて、読み手は横目で読む読み聞かせスタイルではやや読みづらいという難点があります。家庭で子どもと並んで読むには何の問題もないのですが、教室で読むにはちょっと・・・という所がありますが、でもやっぱりとても素敵な本なので読んでしまっているという一冊です。
今回ご紹介した絵本は『はなのすきなうし』
マンロー・リーフ文 ロバート・ローソン絵 光吉夏弥訳
1954.12.10 岩波書店 でした。
はなのすきなうし | ||||
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