ちょっと怖い ナンセンス?!
ブラックなユーモアあふれる楽しい絵本です。
読み聞かせ目安 中学年 10分
あらすじ
昔々、一人の人喰い鬼がいました。
人喰い鬼は、とても残酷で、朝ご飯に子どもを食べるのが何より大好き。
毎日町へやってきては、子どもをさらっていきました。
町の人々は震えあがり、子どもたちはみんな、地下室や穴蔵に隠れました。
子どもが捕まえられないので、人喰い鬼はお腹を空かし、だんだん気難しくなっていきます。
「くんくんくん、ふんふんふん!
腹がへって死にそうだ!
五人か六人子どもがいればそれで満足!
くんくんくん、ふんふんふん!
もしも子どもをみつけたら
がつがつ むしゃむしゃ 食ってやる!」
その頃、町から遠く離れたところに、お百姓のお父さんとひとり娘のゼラルダが住んでいました。ふたりは人喰い鬼の噂など、全く知りませんでした。
ゼラルダは、お料理が得意!
六つになるまでには、煮たり、焼いたり、揚げたり、蒸したりできるようになっていました。
ある日のこと。
お父さんが、ゼラルダのりんご団子を食べすぎて、病気になってしまいます。
ゼラルダは、お父さんの代わりに、町へ作物を売りに行きました。
ゼラルダが、荷車に乗って町へ向かって行くと・・・、岩かげに人喰い鬼!!
腹ペコで気が狂いそうになっていた人喰い鬼は、やっと朝飯にありつけると大喜び!
ゼラルダに飛びかかろうとします!
でもでも、あんまりあせってどしーん!!
足を滑らせ、岩から落ちてしまいました。
「まあ!かわいそうに!」
何にも知らないゼラルダは、人喰い鬼を介抱します。
ゼラルダは、鬼がお腹を空かせていることを知ると、早速お料理!
市場へ持っていく売り物を、惜しまず人喰い鬼のために料理しました。
「オランダガラシのクリーム・スープ
マスのくんせいケイパーそえ
カタツムリのニンニク・バター漬け
トリとブタの丸やき」
鬼はすっかり元気になって、ゼラルダのお料理があんまりおいしいので、子どもを食べることなど忘れてしまいました。
ゼラルダは、人喰い鬼から黄金をたくさん貰い、鬼のお城でお料理することになりました。
ゼラルダは、つぎつぎにすばらしいお料理の数々を作りあげます!
ゼラルダのお料理がすっかり気に入った人喰い鬼は、仲間を集めて大宴会!!
鬼たちはみんな、子どもを食べることなど、きれいさっぱり忘れてしまいました。
町には平和が戻り、子どもたちは地下の穴蔵から出てきました。
その後、人喰い鬼はすっかり改心し、大人になったゼラルダと結婚し、子どもをたくさん作り、幸せに暮らしました。
読んでみて…
前回ご紹介した『へびのクリクター』の作者ウンゲラーの絵本です。
これもやっぱり『クリクター』同様、ちょっとナンセンスな絵本になっています。
人々から恐れられる、怖ーい怖い人喰い鬼を、小さな女の子が手なずけてしまうという常識を覆すナンセンス。
小さいものが、知恵を凝らし、艱難辛苦を乗り越えて、怖くて大きなものをやっつけるお話は、他にも数あると思いますが、このゼラルダは、まーったく何の苦もなく労もなく、いとも簡単に鬼を手なずけてしまいます。
ゼラルダは、天真爛漫!
何の邪心もなく、人喰い鬼を疑うことをしません。
ただ、鬼を介抱し、料理を作る。
それで、誰もが恐れる人喰い鬼を手なずけてしまうのです!
それも、一匹だけでなく、鬼の仲間みんな!!
人喰い鬼も、見た目はずいぶん恐ろしそうです。
お話のはじまりのページでは、いかつい図体の毛深い鬼が、眼光鋭く、歯をむき出して、血の付いた鋭いナイフをちらつかせています。
脇には、檻の中に小さな子どもの手!
次のページにも、捕まえた子どもを袋に入れて、歯をむき出して笑う大男。街の大人たちは、なすすべもありません。
ですが、この人喰い鬼。見かけはこんなにいかつくて怖そうなのに、案外おっちょこよいでお人よし。
ゼラルダを捕まえようと、あんまり急いで、岩場から滑り落ち、あっけなく身動きできなくなったり、簡単にゼラルダのお料理のとりこになって、子どもを食べることを忘れてしまったり・・・。
仲間全員集めてゼラルダの料理を振舞い、みんなに子どもを食べることを忘れさせてしまいます。
強くて恐ろしくて、誰もかなわないような存在の、ひょうきんな実態とあっけなく 負かされてしまう裏をついた面白さがあります。
他にもこの絵本には、裏をついたちょっとブラックなユーモアがたくさん!!
ゼラルダは、得意の料理で鬼を手の内にいれますが、ゼラルダのお父さんは、なんとゼラルダの作ったりんご団子でお腹を壊しています!
人喰い鬼に近づくゼラルダを、心配そうに見守る豚が、次のページでは丸焼きにされていたり!
絵も、ちょっとブラックな感じのする、毒のある気味の悪い画風です。
ちょっと怖い雰囲気のある絵本ですが、子どもたちは意外とこの本を喜びます。
特に、ゼラルダのお料理を紹介する場面。
「(1)酢キャベツとソーセージ (2)ガチョウのレバーパテ,パイ皮くるみ, (3)キノコのジェリー,仔牛のカツレツのせ (4)ポンパーノ・サラ・ベルンハルト (5)チョコレート・ソース・ラスプーチン (6)七面鳥の丸焼きシンデレラ風 (7)人喰い鬼のお気に入り,くだもののさとうづけ,レディーフィンガー・ビスケット,アイスクリーム・ケーキ」
などなど、珍しい料理が次々と紹介されると、これは何でこれは何と目を見張ります。
そして、「七面鳥の丸焼きシンデレラ風」を見つけると・・・七面鳥の丸焼きに靴が履かせられていて大笑い!!
ナンセンスで、ちょっとブラックなユーモアがいっぱいのおもしろい絵本です。
ただ、やっぱりこういう絵本は、あんまり小さい子どもより、少し大きくなった子どもの方が楽しめるようです。小さすぎると、ナンセンスなユーモアがまだ理解できず、怖い印象の方が、強く残ってしまうみたいです。
やっぱりナンセンスを味わうには、それに先立つセンスが必要なのですね。
それから最後に、ひとつちょっと気になるところ・・・。
お話の最後のページ。美しい大人の女性に成長したゼラルダが、人喰い鬼と結婚し、子をもうけ、幸せに暮らしましたという場面。
人喰い鬼は、ひげもすっかりそり落とし、微笑んで家族を見守り、もう人喰いはしなさそうですが、赤ちゃんを抱いたゼラルダの前に、立っている子ども。こちらには背を向けているので、その表情はわかりませんが・・・おそらくゼラルダの抱く赤ちゃんを見ていると思われます。が・・・、その後ろ向きの手には、なぜかナイフとフォークが!・・・・・・まさか・・・食べないよね・・・?!
今回ご紹介した絵本は『ゼラルダと人喰い鬼』
トミー・ウンゲラー作 たむらりゅういち・あそうくみ訳
1977.9.10 評論社 でした。
ゼラルダと人喰い鬼 |
||||
|
ランキングに参加しています。ポチっとしていただけると嬉しいです。
いつもありがとうございます。