絵本とむかしばなし

小学校で絵本の読み聞かせや昔話のストーリーテリングをしています。楽しいお話、心温まるお話をいろいろご紹介していこうと思います。

『へびのクリクター』

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ナンセンスなセンス

  普通ではありえない?!へびとの楽しい暮らし。 

            

読み聞かせ目安  中学年  6分

あらすじ

フランスのある街に、ルイーズ・ボドという婦人が住んでいました。

ボドさんには、爬虫類研究者の息子が一人いました。

 

ボドさんの誕生日のこと。ブラジルにいる息子からプレゼントが届きました。

まーるい箱を開けてみると・・・

 

「きゃーっ!」

 

ボドさんは悲鳴をあげました!へびが入っていたのです!!

 

ボドさんは、このへびに毒がないことを調べると、クリクターという名前を付け、大切に育てはじめました。

 

ミルクを飲ませたり、セーターを編んで着せたり、一緒に買い物にいったり、寝室にはヤシの木や長ーいベッドを置いたり・・・。

 

そのおかげで、クリクターは長く長く、強く強く育ちました。

 

ボドさんは学校の先生だったので、一緒に学校へも行きました。

クリクターは親切で、子どもたちとも仲良く遊びました。

 

そんなある日のこと。真夜中に、ボドさんの家に泥棒がはいりました!

 

物音を聞いたクリクターは、泥棒に飛びかかり、ぐるぐる巻きに!!

泥棒はあっけなく捕まってしまいました。

 

クリクターは、勲章をもらい、銅像や記念公園まで作られました。

 

クリクターは、街中から愛され、尊敬され、幸せに暮らしました。

                    

読んでみて…

普通ならペットにしないようなへびを飼い、それも我が子のように大事に大事に育てるお話です。

 

街の人は、ボドさんと一緒に歩くクリクターに、最初は驚きますが、しだいに馴染み、子どもたちは仲良く遊びはじめます。

そしてついには、へびのクリクターが泥棒退治で表彰され、銅像や公園までつくられ英雄に!!

 

本来あまり好まれないへびという生き物が、みんなに愛され、人気者になる。人と同じ扱いをされて暮らしていくという、ありえないような日常をユーモラスに描いた「ナンセンス絵本」というものに属するものだと思います。

 

ボドさんとクリクターの暮らしは、普通の日常、条理にかなった生活には、ありえないことでいっぱい!

ボドさんとクリクターの、不条理な暮らしを、とてもユーモラスに描いていきます。

 

まず、ボドさんの誕生日に、送られてきたクリクターは、丸いドーナツ状の箱に丸く入れて送られてきます。郵便屋さんは、何が入っているのかも知らず、普通の郵便物として平然と運んできます。

ボドさんは、プレゼントの中身がへびとわかると、最初こそ「きゃー!」と驚きますが、ひとしきり驚いたあとは、ごく平然とこの非日常を受け入れ、日常としていきます。

 

ボドさんは、品のよさそうなご婦人。学校の先生なので、良識の象徴のような存在だと思いますが、その良識の象徴が、こんな非常識な暮らしを送ることになるという面白さがあります。

 

ボドさんは、ごく当たり前な風で、すましてクリクターに哺乳瓶でミルクを飲ませたり、長い長ーいセーターを編んで着せてやったりします。ごくごく当たり前に!

大きくなったクリクターの長さを計るときは、大きな三角定規をあて、クリクターの体に目盛りを書き込みながら計ったり!買い物にいくときは、まるで犬のようにクリクターの首にひもをつないで歩くし、クリクターといえば、なんと荷物持ちまでしています!!

 

ボドさんがクリクターのためにしつらえた部屋は、クリクターがくつろげるよう、生まれ故郷を思わせるヤシの木を置いたり、長い長い体をまっすぐ伸ばして!寝られるように、長い長ーいベッドを置いたり、至れり尽くせり!!

へびのクリクターが、人間の子どもと同等あるいはそれ以上の扱いを、ごくごく当たり前に受けているという面白さ!!

ページをくるごとに、くすっくすっと笑いがこみ上げてきます。

 

学校では、クリクターが体をくねらせ、アルファベットや数字を書いたりするのも愉快です!

大きくて長ーい体を使って、子どもたちの滑り台や、縄跳びの縄にもなります!

普通の当たり前の常識的な世界に、当たり前のように、ありえない現実が入りこむ面白さがあります。

 

最後は、泥棒を捕まえた栄誉を称え、へびであるクリクターが勲章を貰ったり、銅像や公園まで作られます!へびのクリクターが、人間でもそうそうありえない名誉を手にするという非常識。ナンセンスのユーモア満載です!!

 

絵のセンスの方もすばらしく、黄緑と赤、白、黒のみの抑えた色遣いが品よく、細い線描きも優美です。上品で洒落た美しい絵が、ボドさんというご婦人と、へびのクリクターの異色な組み合わせの暮らしを描き出しているというギャップも、ユーモラスに感じられ、ナンセンスに一役かっていると思います。

 

この絵本は、へびと一緒に楽しく暮らすお話、としては、未就学児のまだまだ幼い子どもでも十分に楽しむことができると思います。

でも、こういったナンセンスの面白さは、ちゃんと本来のセンス(良識・常識・分別など)が日常生活の上で身に着いた、あるていど経験を積んで大きくなってきた子どもたちこそ、楽しめるものだと思います。

ナンセンスは、本来の人間の生活、常識や物事の道理をわきまえたうえで味わえる、ユーモアのセンスなのだと思います。

小学校の中学年以上になってくると、こういった「ナンセンス絵本」が好まれるようになってくるのも、本来のセンスが十分に身についてきて、人間のあるべき形がちゃんとわかるから、ナンセンスの「ナン」なところが面白くなってくるのだなと思うのです。

 

良識、常識、分別とはいっても、人間の暮らし、人間の在り方には不条理なものもいっぱいあります。常識は、人、集団、時や場所などによって変わることもあり、条理、不条理もろもろを抱え込んだまま、なんとか体裁や調和?を保っているのが現実・・・。

条理、不条理、それぞれに苦しめられることもある世の中で生きていくためには、センスを笑うナンセンスで、大人も子どもも、時に気を晴らしながら、笑って生きていく力強さも必要だなと思いました。

 

今回ご紹介した絵本は『へびのクリクター』

トミー・ウンゲラー作 中野完二訳

1974.3.20 文化出版局  でした

へびのクリクター

トミー・ウンゲラー/中野完二 文化出版局 1982年01月
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