絵本とむかしばなし

小学校で絵本の読み聞かせや昔話のストーリーテリングをしています。楽しいお話、心温まるお話をいろいろご紹介していこうと思います。

『とおいところへいきたいな』

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行って帰ってひとつ成長するお話。

子どもの心理をたくみに描いた絵本です。

            

読み聞かせ目安  中・高学年  8分

あらすじ

マーチンは、赤ちゃんのお世話で忙しいお母さんに、話を聞いてもらえず、話を聞いてくれる人がいる「とおいところ」へ行くことにした。

荷物をまとめ、カウボーイの服を着て、髭を付けて。

 

すると途中で、年寄りの馬とすずめに会ったので、「とおいところ」がどこにあるのか聞いてみた。

すずめは、「じょうひんな ひとたちが すんでいるところ」だという。

馬は「うまが ゆめを みられる ところ」だという。

 

次に、そこへやってきた猫は、「ねこたちが いちにちじゅう うたを うたっても 『うるさい!』 なんて、いわれない ところ」だといった。

そして猫は、「とおいところ」が、「この まちを ぐるぐる まわって、かどから ふたつめの ちかしつ。」にあるんだと教えてくれた。

 

マーチンと馬とすずめと猫は、みんなして「とおいところ」へ行くことにした。

みんなで楽しく暮らせることを期待して。

 

「とおいところ」へ着くと、マーチンはいろんなことをみんなに聞いて、みんなはちゃんと答えてくれた。

すずめは、故郷の上品な人たちの話をした。

馬は、りんごの木を飛び越え、緑の草の中に休む夢をみた。

猫は、子猫の歌を歌い、みんな楽しく暮らした。

 

でも、1時間半たつと・・・

それぞれの話や夢や歌が、とってもうるさく、煩わしいものになってきた。

いがみ合いがはじまって、どうやらここは本当の「とおいところ」ではなさそうだ。

みんなそれぞれの「とおいところ」を探すため、帰っていった。

マーチンも、お母さんのところへ帰っていった。

                      

読んでみて・・・

子どもの心理を、内側から見事に描きあげた絵本です。

 

下の子がいると、なかなかかまってもらえなくなってくるお兄ちゃん、お姉ちゃんは、みんなこんな気持ちになるのかなと思います。

自分が何を聞いても、赤ちゃんのお世話に忙しく、聞いてくれないお母さん。

お兄ちゃんのマーチンは、自分の聞くことにちゃんと答えてくれる人がいるところを探しに出ていきます。

カウボーイの服を着て、付け髭を付けて。

何でこの恰好?

大人の服着て、髭付けて。

大人なんだか、子どもなんだか。

大人のふりして、自立してるんだか、してないんだか。

してるわけがないのですが、お母さんの元から旅立つという意味で、オトナなつもりなのでしょうかw。

ちぐはぐさが何ともかわいらしく、子どもらしく、ユーモラスです。

 

背筋をピンと伸ばして出かけたマーチンでしたが、途中で出会った馬とすずめが、「とおいところ」を求めて泣いているのをみると、すぐさま一緒に泣き出してしまいます。息がって出かけたものの、「とおいところ」がどこにあるか見当もつかず、お母さんのもとを離れてしまった寂しさも心の奥にあって、不安な気持ちがぽろっと出てしまう子ども心が、とても自然に描かれています。

 

次にやってきた猫が、「とおいところ」がどこにあるか教えてくれますが、これがまたユーモラス!「とおいところ」なのに、なんと「この まちを ぐるぐる まわって、かどから ふたつめの ちかしつ。」という近さなのですから。何とも子どもらしい、絶妙な感覚にクスっとしてしまいます。

こんなちぐはぐさにも、子ども特有の感覚が上手く表されているなと、感心してしまいます。

 

そして、やっとたどり着いた「とおいところ」でも、ほんの1時間半もすると、もう嫌気がさして、不満が爆発!

マーチンも馬もすずめも猫も、一見意気投合して「とおいところ」という、同じ目的地に向かっても、それぞれが夢見る「とおいところ」は、それぞれ違っていて、それぞれが持つ欲求の違いに気が付いていきます。

「とおいところ」にいるときのマーチンたちの顔つきも、はじめは満ち足りた穏やかな顔でしたが、だんだん曇っていって、最後は目を吊り上げて、喧々諤々。

ページを追うごとに顔つきが変わっていくのも、心の変化が順を追って、よく表されているなと思います。

 

そんなこんなを経て、マーチンはお母さんのもとへ帰っていきます。

帰るときのマーチンは、家を出たときのマーチンとは違っています。

 

「ママは、まだ あかちゃんに かかりっきりかな。そしたら、げんかんの だんだんに こしかけて、とおる じどうしゃを かぞえてれば いいや。」

「そうして まっていれば、ママは おしえてくれる。じょうひんの いみや、うまが ゆめを みる わけを。ねこが、ならいも しないのに うたが うたえる わけだって、おしえてくれるよ。」

 

そう、「待つ」ということに気が付いているのです。

家を飛び出して、行って帰ってくる間に、ひとつ大人になっています。

カウボーイの服を着て、髭を付けて、大人の振りをしたマーチンが、本当にひとつ大人になって、帰ってくるのです。

家を飛び出したときの、怒りはどこへやら。心は不思議と落ち着いて、和やかに。

お家へ帰ったら、赤ちゃんのお世話や、お母さんのお手伝いまでしそうなお兄ちゃんになっていそうな雰囲気までしてきます。

家路につくマーチンは、お母さんに向かって心が急いて、前のめりの大股になって走り、転びそうなほどの勢いです。

思慕と郷愁と、期待と喜びが一体となった、小さな後ろ姿が印象的な終わり方です。

 

ごくさらりとしたお話ですが、子どもらしい欲求不満や、かわいらしいちぐはぐさ、そしてほんのちょっとの間に、ひとつ、でもぐんと、大人になる子どもの心の様子が、丁寧に描かれている絵本だなと思いました。

子どもの心に寄り添いながら、内側から描きあげた、優れた絵本だなと思いました。

 

今回ご紹介した絵本は『とおいところへいきたいな』

モーリス・センダック作 神宮輝夫訳

1978.11.24  冨山房  でした。

とおいところへいきたいな

モーリス・センダック/じんぐうてるお 冨山房 1978年11月24日頃
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