絵本とむかしばなし

小学校で絵本の読み聞かせや昔話のストーリーテリングをしています。楽しいお話、心温まるお話をいろいろご紹介していこうと思います。

『チムのいぬタウザー』

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いたいけな気持ち

こっそり子犬を飼う子どもの切ない気持ちでいっぱいの絵本です。

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読み聞かせ目安  高学年  15分

あらすじ

ハイパー船長の蒸気船ロイヤル・フュージリア号で、ボーイをしている男の子のチムとジンジャーは、ある日甲板で、迷子の子犬を見つけます。

 

ハイパー船長は猫好きで、犬が大嫌いでしたが、チムとジンジャーは、子犬をこっそり飼うことにします。古い段ボール箱に子犬を隠し、タウザーと名前を付け、自分たちのご飯をこっそり分けて育てました。

 

港に着くごとに、飼い主を探しましが、誰ももらってくれません。

そうこうするうち、タウザーはみるみる大きくなっていきました。

隠しているのもやっとです。

 

ある時、船長がタウザーの姿を見てしまいますが、チムもジンジャーも犬なんていないと嘘をつきました。

自分が錯覚を見ていると思った船長は、しだいに心を病んでいきます。

船長の心が病んでしまうと、船の様子もおかしくなります。

船長がふさぎ込み、何も指示しないので、船員たちはみんな怠けてばかり・・・。

 

そのうち空模様まで怪しくなって、ひどい嵐になりました!

それでも何も指示しない船長さん!

船は今にも沈没しそうです‼

 

チムとジンジャーは、本当のことを話しました。

我に返った船長は、すぐさま指示を出し、みんなで力を合わせて、船は嵐を乗り越えました。

 

嵐のあと。チムは船長に訳を話しましたが、聞いてはもらえません。

次の港でタウザーは、船を降りなければならなくなりました。

 

でも、船長の飼い猫タイガーは、タウザーとすぐに仲良しに。

コックさんはじめ船員たちも、タウザーと仲良しになりました。

 

そしてとうとうお別れの日。

タウザーを連れたチムとジンジャーが、船を降りようとすると・・・。

 

「タウザーを かおう!タウザーを かおう!」

 

船員たちが、大きな声で叫んだのです!

 

「わかった、わかった」

 

船長も認めてくれたので、タウザーは船に残ることができました。

 

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読んでみて・・・

「チムシリーズ」のうちの1冊です。

masapn.hatenablog.com

迷子の犬や猫をこっそり飼う。そんな経験をする子どもっていますよね。

大人に認めてもらえないけど、かわいい子犬や子猫を飼いたい気持ち。

そんな子ども心が、手に取るようによく描かれた絵本です。

 

「チムシリーズ」のチム君は、小さいけれどとても男気にあふれる勇敢な男の子。かわいらしい姿をよそに、一人前の海の男として、いつも立派に務めをはたすのですが、この絵本では、タウザーを飼いたい一心に、こそこそ隠れて餌をやったり、船長さんをだまして病気にまでさせてしまったり・・・。

これまでのチムとは、ちょっと様子が違います。

船が沈みそうになっても、何の活躍もできず、調理場の奥に追いやられ、ジンジャーとタウザーと、みじめな気持ちで、浸水した調理場の戸棚の上にいるばかり・・・。

 

嵐がおさまり、空と海が美しく晴れあがっても、それとは対照的に、チムの心は沈んだまま・・・。

いつもはどんな困難に遭遇しても、決してへこたれないチムですが、今回のお話では、なんともみじめなチム坊やなのです。

タウザーを降ろさなければならない港に着いたときなんて、夕日に照らされた美しい港、久しぶりに地面を踏める喜びに浮き立つ船員たちの姿さえ、チムにはわびしく見えるよう。モノクロのペン書きで描かれたチムは、どんより曇った今にも消え入りそうな表情で、見る影もありません。

 

ですが、お話の終わりはハッピーに!

船員たちがいっせいに、

 

「タウザーを かおう!タウザーを かおう!」

 

船長もとうとう折れて、タウザーは船で飼われることに。

チムとジンジャーの喜びもひとしおです。

 

この絵本では、チムのタウザーを思う気持ちが終始一貫。切ないほど強く貫かれています。大人に内緒で、こっそりペットを飼ったことのある子は、きっとこの不安で切ないチムの心に、深く共感することでしょう。そんな経験のない子でも、一貫して太い線で、チムの心がぶれず追われているので、感情移入しやすいのではないかなと思います。そして、最後のハッピーエンドで、ほっと胸を撫でおろし、幸せな気分をしみじみと味わうことでしょう。

子どもの心の動き、求めるところのものをよく表した力量のある絵本になっていると思います。

 

またこの絵本では、船の大黒柱の船長さんが、ほんのちょっとの不安から気の病を募らせていく姿も描かれ、立派な大人でも些細なことから、崩れ落ちてしまうという人間の脆さも示されています。

 

アーディゾーニらしいユーモアも健在で、日増しに大きくなるタウザーに、こっそり餌をやるため、自分たちの食べる分をどんどん減らしてタウザーにやり、やせ細っていくチムとジンジャーの姿が、もう本当にひょろっひょろになっていくように、順々に描かれているところなんて、いたいけだと感じながらも、思わず笑えてしまいます。

 

『チムのいぬタウザー』は「チムシリーズ」の中では、ちょっと異色の1冊ですが、違ったチムの一面と、子どものまっすぐでいたいけな心が、手に取るように見られる、子ども目線の優れた絵本だなと思いました。

 

今回ご紹介した絵本は『チムのいぬタウザー』

エドワード・アーディゾーニ作 なかがわちひろ

2001.9.20  福音館書店  でした。

チムのいぬタウザー

エドワード・アーディゾーニ/なかがわちひろ 福音館書店 2001年09月
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