絵本とむかしばなし

小学校で絵本の読み聞かせや昔話のストーリーテリングをしています。楽しいお話、心温まるお話をいろいろご紹介していこうと思います。

『チムとゆうかんなせんちょうさん』

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憧れのお仕事で大冒険!

 小さな男の子が船乗りになって健気に大奮闘するお話です。

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 読み聞かせ目安  中学年  10分

 

あらすじ

海岸の家に住むチムは、船乗りになりたくてなりませんでした。

 

昔船乗りだったボートのおじさんや、マクフィー船長とは仲良しで、いつも船のことや航海の話を教えてもらっていました。

 

でも、お父さんやお母さんに、船乗りになりたいといっても、いつも「まだ ちいさすぎるよ。」とたしなめられます。そんな時、チムはいつも悲しくなりました。

 

ある日、ボートのおじさんが、沖に泊まっている汽船まで、チムを連れて行ってくれることになりました。

 

チムは大喜び!

せっせとボートの仕度を手伝い、汽船へ向かいました。

 

汽船に乗り込むと、チムはすてきなことを思いつきます。

汽船の中に隠れ込んでいれば、ボートのおじさんが忘れて帰ってしまうだろう、と思ったのです!

 

そうしたら、本当にそうなりました!!

 

でも、汽船の船員に見つかったチムは、ただ乗り分の仕事を命じられます。

小さなチムにとって、甲板掃除はつらい仕事でした。

 

それでも、一生懸命働いたチムは、汽船のみんなから認められ、かわいがられるようになります。

料理の手伝いに、お給仕、舵手の手伝い、お裁縫などなど、船員みんなのために、チムはとてもよく働きました。

 

ところがある朝、海が大荒れになり、汽船は大きな岩にぶつかり沈没しそうになってしまいます。

 

みんなは、救命ボートに乗り込みました。

でも・・・、チムは乗っていません!!

あまりの騒ぎに、みんな小さなチムのことに気づかなかったのです!!

 

でも、汽船には、船長さんが自分の船を見捨てないで残っていました!

 

チムは、船長さんといっしょに手を握り合い、沈みゆく船の中で、海の男らしく最後の時を待ちます。

 

すると・・・、波の向こうに救助ボートが!!

 

チムと船長さんは助かりました!

 

港に着くと、波止場の人々から歓声とともに迎えられ、暖かい部屋で温かいココアをもらい、ぐっすり眠りました。

 

その後、船長さんと汽車で家に帰りました。

 

心配していたお父さんとお母さんは、大喜び!!

ボートのおじさんも、マーフィー船長も喜んで迎えてくれました。

 

船長さんは、チムがいかに勇敢であったか褒めたたえ、今度チムを航海に連れて行きたいといいました。

お父さんお母さんも承知してくれたので、チムは嬉しくてたまらなくなりました。

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読んでみて…

船乗りを夢見る小さな男の子チムの、ハラハラドキドキの大冒険物語です。

 

作者のエドワード・アーディゾーニが、5歳の息子のために描いたというこの絵本の主人公チムは、アーディゾーニの息子と同じくらいの小さな男の子。

船乗りになることを夢見て、海辺で暮らしています。

 

小さな男の子だけれど、大の仲良しは、引退したボートのおじさんやマクフィー船長。大先輩の海の男たちです。

 

そんなチムが、精いっぱいの知恵を働かせて、汽船に密航!

小さな男の子にしては、なんとも大胆な行動です。

 

密航はすぐにばれてしまいますが、チムのすごいところは、小さいながらも海の男として、健気に懸命に働くところ!

 

体力勝負の船での仕事は、幼いチムにとってはつらくて涙を流すことも、密航を後悔することもありましたが、仲良しになったコックさんはじめ、船長さん、他の船員さんたちから、その働きぶりを認められ、かわいがられて、立派な船乗りらしく成長していきます。

 

家にいるときは、船乗りになりたいといっても、お父さんお母さんから「まだ ちいさすぎるよ。もっともっと おおきくなって、おとなにならなくちゃだめ」といわれ、悲しい気持ちになっていたチム。

小さくても懸命に働いて認められた船でのくらしは、誇らしく楽しく、自尊心の満たされる充実したものでした。

 

嵐の場面でも、チムは海の男として立派に振舞います。

責任を持って船に残った船長さんとともに、最後の時を待つ覚悟をします。

 

チムのはじめての航海は、船乗りへの夢、憧れから、現実のつらさ厳しさ、楽しさ喜び、そして最後の覚悟と、船乗りとしての心がまえをすべて経験するものだったのです。

 

幼い男の子のはじめての航海にしては、ものすごい経験です。

 

 自分の意思を強く持ちはじめ、自立心のめばえてきた子どもたちには、このチムの活躍をみて、自分のことのように嬉しく誇らしく感じられることと思います。

未知の世界、憧れの世界へ思いを馳せる子どもたち。

そこへ足を踏み込み、さまざまな経験をするチムをみる子どもたちは、チムといっしょになって、つらさや怖さ、楽しさ嬉しさを味わい、チムの成長を見ることによって、自己肯定感を、自立への自信を付けていくことができると思います。

 

 

一方、船乗りとして、すっかりたくましく成長していくチムですが、子どもらしいかわいらしさもいっぱいです。

 

ボートのおじさんに汽船まで連れて行ってもらえると知り、小躍りするチム。

救助されて、暖かい部屋の暖炉の前で、船長さんと心から安心しきってココアを飲むチムは、幼い子どもそのものといった顔をしています。

 

家路に着くさい、波止場の町の人々から見送られるときは、チョコレートや果物をたくさんもらい、キスされて、すっかり英雄気分になってうかれたり、汽車から自分の町が見えてくると、夢中になって懐かしい我が町を、船長さんに教えたり・・・。

 

かわいい子どもらしさと、海の男のたくましさ。

両端を持ち合わせたチムは、育ちゆく幼い男の子の姿を、とてもリアルに魅力的に魅せてくれています。

 

また、この絵本は絵でも、十分に物語を語り、登場人物の心情や情景を、詩情豊かに描きあげています。

 

 柔らかい水彩のカラーページと、モノクロの線描きのページが交互に出てくる絵は、ラフな筆致でありながらも、正確でしっかりしたもの。それでいて細やかで暖かみがあり、海や船、そしてチムや船員たち登場人物への愛情にあふれています。

 

小さな体で、船じゅう走りまわり、せっせと健気に働くチムは、 大きな海の男たちのなかで、ひときわ小さな体を、力いっぱい伸びやかに動かしています。 

 

ボートのおじさん、マクフィー船長、コックさん、船長さん。チムをとりまく大人たちの表情は穏やかで、愛にあふれた眼差しをチムに向けています。

 

そして風景描写。

 

晴れて穏やかな日の光がきらめく海、雨の海辺の町。

それぞれその時々の潮のにおい、空気感が絵から嗅ぎ分けられるようです。

 

嵐の海は、深い緑色の大波がうねりを上げ、今にも汽船を呑み込まんばかりの恐ろしさ。空は黒い雲が重く立ち込め、雲間からのぞく月や、灯台の灯が荒れ狂う海を照らしています。

 

繊細でありながらスピード感ある線描きが、嵐の海の緊迫感をリアルに感じさせます。

風景から嗅ぎ分けられる情感というべきものが、この絵本の絵にはあふれていて、とても美しいのです。

 

 

子どもの夢や憧れ、経験を広げたいと希求する心。自立への願望。

そういったものを、ハラハラドキドキ、スリルにあふれるお話を楽しみながら、美しい絵とともに満たしてくれるすばらしい絵本だと思います。

 

大人にとっても、絵から感じられる豊かな詩情、ひたむきに生きる健気なチムの姿など、引き込まれるところの多い絵本なのではないでしょうか。

 

柔らかく繊細でありながら、堅実で誠実。暖かく子どもの育ちを見守る眼で描かれたことが、十分に伝わってくるすてきな絵本です。

 絵本のカバー見返しには、「世代をこえて子ども達を魅了してきた幼年海洋文学の古典」とありますが、その名のとおり、納得の一冊です。

 

今回ご紹介した絵本は『チムとゆうかんなせんちょうさん』

エドワード・アーディゾーニ作  瀬田貞二

1963.6.1  福音館書店  でした。

チムとゆうかんなせんちょうさん

エドワード・アーディゾーニ/せたていじ 株式会社 福音館書店 2001年06月09日頃
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