長い長い人生の旅
ぱふぱふ ちゃぐちゃぐ続いていく線路は、長い長い人生の旅路のようです。
読み聞かせ目安 低学年 5分
あらすじ
二台の小さな機関車が、男の子と女の子をそれぞれ乗せて、西へ向かって走ります。
男の子は最新式の機関車、女の子は旧式の機関車です。
二台の機関車は、並んで長い長い線路を走ります。
丘をくぐり、トンネルを抜け、鉄橋を渡り、平原を抜け、険しい山を越え。
時に雨や雪や砂嵐の中を、月夜を、そして輝く朝日の中を走ります。
西へ、西へ向かって走り、長い長い旅の末に、明るく楽しい海に到着するのでした。
読んでみて…
とてもシンプルに、汽車の旅を淡々と描いているようにみえます。
子どもの落書きででもあるかのような、単純な線描きの機関車は、素朴なおもちゃの汽車のようで、旧式の機関車に乗っている女の子はもちろん、最新式の機関車に乗っている男の子でさえも、遊園地の乗り物の汽車のように、車両の上に体が出ている状態で乗っています。
ぱふぱふ ちゃぐちゃぐ、西へ西へ、様々な景色を見ながら進んでいく汽車の旅は、一見、単純な子どもらしい旅のようですが、この絵本、よく見ていると、とても詩情があり、子どもたちにとって、これから進んでゆく人生の旅路が、長く深いものであることを予見させるような、しっとりと、かつ力強さも持って語られている感じがするのです。
最新式の機関車に乗る男の子と旧式の機関車に乗る女の子の組み合わせは、まるで違いのある者同士が共に歩んでゆく、夫婦の人生の道のようです。
ぱふぱふ ちゃぐちゃぐ進んでゆく機関車は、時に真っ暗な長いトンネルを抜けたり、人が魚釣りをする川の上にかかった鉄橋を渡ったり、さまざまな道(線路を)通ります。
雨の中も雪の中も、激しい砂嵐の中も、朝も夜も進む列車の旅は、人生の中にさまざまな出来事があること、雨や雪、嵐の中でも進んでゆかなければならないこと、など示しているように見えるのです。
そうして険しい険しい山道を、野超え山超え、長い長い旅を終え、海というゴールに着く。楽しい機関車の旅、という設定ですが、人生そのものを見せてくれているように思えてくるのです。
また、西へ向かって走っていく途中には、線路を作った人々の歌声が聞こえたり、その人々の作った線路が、枕木のしっかり組まれた頑強なものであること、力強い労働というものが世の中を支えていることも示されたりしています。
こう述べて来ると、何だか重いテーマを扱った絵本のように思われるかもしれませんが、この絵本は決して重いものではなく、とても軽やかに、機関車の旅を歌うように描いています。
七五調でリフレインの多いテクストは、詩を詠んでいるようです。
「みてごらん,みてごらん あさひに かがやく てつの せんろを,きみと ぼくの いく みちを。」
子どもたちに、これから始まる長い旅路を、歌いながら指し示しているようです。
「puff puff chugga chugga」という英語の列車の擬音も、ひらがなで「ぱふぱふ ちゃぐちゃぐ」と書くと、めずらしく、愉快で楽しく響き、子どもたちも読んでいて喜びます。
絵も、線はシンプルな落書き風なのですが、色遣いがくすんだピンクや緑、茶やグレーといった、とてもシックな配色で、可愛らしい中に、大人っぽい落ち着きのあるモダンな絵になっています。
またその素敵な彩色のページと、モノクロのページが交互に出て来る構成になっているので、汽車の旅らしい躍動感も感じられるようになっています。
この絵本の中で、特に私の大好きなページは、雪の場面。モノクロページの部分ですが、しんしんと降る雪の中を、毛布にくるまり、傘をさした男の子と女の子が、夜汽車に乗ってぱふちゃぐ、ぱふちゃぐ進んでゆく。静かに物思いに耽りながらも、しっかり前へ前へと進んでゆく。しっとりとした詩情と、そして強さを感じるページです。
小さな子どもから大人まで楽しめる、楽しいながらも深い人生そのものを感じさせてくれるとても素敵な絵本だと思います。
一見地味だけれどとても素敵な絵本。ずっと品切れ状態だったのですが、嬉しいことに最近、この絵本は「岩波子どもの本」から再販されました。図書館のなどでも埋もれがちだったこの本が、また新たに日の目を見ることができて、とても喜ばしいかぎりです。
どうかたくさんの方の手に目に、届きますように!
今回ご紹介した絵本は『せんろはつづくよ』
マーガレット・ワイズ・ブラウン作 ジーン・シャロ―絵 与田準一訳
1979.2 岩波書店 でした。
せんろはつづくよ | ||||
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