絵本とむかしばなし

小学校で絵本の読み聞かせや昔話のストーリーテリングをしています。楽しいお話、心温まるお話をいろいろご紹介していこうと思います。

『ロバのシルベスターとまほうの小石』

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美しい絵と語り口、起伏に富んだお話

 魔法の小石を拾ったシルベスター。なんと自分に魔法がかかり・・・。

            

読み聞かせ目安  高学年  15分

あらすじ

ロバのシルベスター・ダンカンは、小石を集めることが好きでした。

変わった形や、変わった色の小石を集めていましたが、夏のある日、燃えるように赤く光る、ビー玉のようにまん丸の小石を見つけました。

 

その時のお天気は雨。肌寒さを感じたシルベスターは、小石を手にしたまま、

 

「雨がやんでくれたら、なあ」

 

と言いました。すると・・・雨がぴたりとやみました。

 

あまりにぴたりとやんだので、不思議に思ったシルベスターは、見つけたばかりの赤い小石に、魔法の力があるのではないかと考えます。

ためしに、

 

「もういちど、雨がふらないかなあ」

 

と、小石を持って言ってみました。すると・・・また、雨がどっと降りだしたではありませんか!

シルベスターは、大喜び!!

お父さん、お母さんを驚かせてやろうと、いそいで家に帰ります。

 

ところが・・・帰る途中、イチゴ山で、お腹を空かせたライオンに出会ってしまいました。

あわてたシルベスターは、小石を持ったまま、

 

「ぼくは岩になりたい」

 

と言ってしまいます。すると、本当に岩になってしまったのです!

ライオンから逃れることはできましたが、もう岩ですから、小石を持つことができません。元の姿に戻ることが、できなくなってしまいました。

 

その頃、家ではお父さんお母さんが心配して、シルベスターの帰りを、今か今かと待っていました。

シルベスターは、夜になっても帰ってきません。近所中を聞いてまわり、警察に届け、村中の犬が、シルベスターを探してくれました。

けれども、シルベスターは、見つかりません。なにしろ、岩になっているのですから・・・。

 

何日も何日も過ぎました。

シルベスターの両親は落ち込むばかり・・・。

秋が過ぎ、冬が過ぎ、春が来ました。

 

5月のある日、シルベスターのお父さんは、お母さんに元気を取り戻してもらうため、イチゴ山へピクニックに行きました。

すると、なんということでしょう!

お父さんお母さんは、シルベスターの岩の上にお弁当を広げはじめたのです!!

そしてなんと、偶然にも、お父さんがあの魔法の赤い小石を拾い、シルベスターの岩の上に置いたのです!!

 

シルベスターは、真剣に思いました。

 

「ああ、もとのぼくになりたい。ああ、ほんとのぼくにもどりたい!」

 

すると・・・そうなりました!

 

みんな大喜び!!

 

すっかり望みが叶い、魔法の小石は、家の金庫にしまわれました。

                    

 読んでみて…

ページ毎に、魔法の小石を拾ったシルベスターに、不思議なことが起こり、不遇な目にあう。ハラハラドキドキ、ヤキモキする思いを感じながら、子どもたちはこのお話を楽しみます。

 

岩になってしまい、何もできないシルベスターのつらさ、悲しさ、そして寂しさもどかしさ。

 

「ここだよ、ここだよ!」

 

子どもたちは、シルベスターと一緒になって、心の中で叫びます。

夜が来て、朝が来て。秋が来て、冬が来て、春が来て。ページ毎に、長い時が流れて、つのる寂しさ、もどかしさをシルベスターと一緒になって感じます。

 

そして、お父さんお母さんが、シルベスターの岩に来てくれたときの嬉しさ!!

 

ここでシルベスターのお母さんは、不思議な胸騒ぎを、シルベスターが近くにいるんじゃないかという気配を感じ、そわそわするのですが、シルベスターと心を重ねている子どもたちの思いもマックスです!

 

「ここだよ、ここだよ!」

 

シルベスターと一緒になって、心の中で叫びます。

そして、運よくシルベスターが、元の姿に戻れたとき、心から安堵するのです。

ハラハラドキドキさせられるスリル感、もどかしい思い、その後の安堵とこの上ない喜び。起伏に富んだ、充実した読み応えあるストーリー展開です。

 

絵も、十分にこの起伏に富んだストーリー展開を支えています。

全体を通して、とても丁寧に、細部までよく描き込まれています。

色遣いも、明るく美しい絵です。

 

お話は、夏に始まり、秋から冬、そして春に解決するわけですが、移り行く季節の風景が、彩り豊かに美しく描かれています。もみじの錦鮮やかな秋、雪降り積もる冬、暖かなお日様に草木芽吹く春・・・。

 

シルベスターや、お父さんお母さんが、寂しい思い、つらい思い、もどかしい思いを、ずっと募らせ、つみ重ね、ときに諦めかけする長い月日と心の推移が、美しく描かれる移り行く風景の描写に重ね合わされて、しっとりと心に染み入るように感じられます。

 

特に、シルベスターが、イチゴ山にひとり取り残された夜の情景は、心ふるわせるものがあります。

 

人っ子一人いないイチゴ山に、シルベスターの岩、赤い魔法の小石だけ。

そして、夜空には満天の星。

 

シーンと澄んだ情景、息を呑むような美しさに、シルベスターの孤独な心のふるえが、染み入るように伝わってくるのです。

 

 

でも、この絵本の絵は、ただ美しいだけではなくて、それぞれの登場人物(?動物)は、ちょっととぼけたような味わいがあって、スリルあるお話に、楽しさと親しみやすさを与えていて、子どもたちがお話の中にすんなり入っていけるようになっています。

 

テクストも、淡々と、とてもまじめにれ語られる中に、まじめさゆえのおかしみがあって、絶妙な語り口になっています。

ちょっと古風で哀切に満ちた語りの中に、語り手自身もシルベスターのもどかしさをじれったく感じながら語っているところなど、読む者を物語にぐんぐん引き込みます。

 

起伏に富んだお話、美しい絵、絶妙な語り口。全部そろったすばらしい絵本です。

 

ただ、ひとつだけ残念なところ、読み聞かせのときは注意・工夫しなければならないところがあります。

このお話の大団円。シルベスターが、元の姿に戻る場面です。

シルベスターが、お父さんお母さんを前に、

 

「ああ、もとのぼくになりたい。ああ、ほんとのぼくにもどりたい!」

 

と、真剣に願い、とうとう戻れたその瞬間のページが、残念なことにテクストと絵の配置が悪く、テクストはまだ元の姿に戻っていないのに、絵はもう戻ってしまっているんです。

 

なので、読み聞かせのときは、ページをめくるのをぎりぎりまで待って、次のページのテクストを隙間から覗いて読みながら、

 

「そうなりました!」

 

の瞬間に、ページをめくるようにしています。

 

幸い?右開きのこの絵本を、右側に持って読むと、「そうなりました!」のページが、読み手の右肩に来て、しかも、テクストはページの上の方に配置されているので、子どもたちに前のページを見せたまま、次のページのテクストを、前からは見えないようにうっすら開けて覗いて読むのに苦労はいりません。

 

せっかくドキドキしながら読んでいるのですから、ドキドキを壊さず、ぱっと

 

「そうなりました!」

 

にして、喜ばせたいものです。

 

ちょっとだけ工夫が必要ですが、この絵本は、お話、絵、テクストすべてが、子どもの心を惹きつける魅力に満ちた、とても素晴らしい一冊だと思います。

 

 

今回ご紹介した絵本は『ロバのシルベスターとまほうの小石』

イリアム・スタイグ作  瀬田貞二

1975.10.30  評論社  でした。

ロバのシルベスターとまほうの小石

ウィリアム・スタイグ/瀬田貞二 評論社 2006年02月
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