育て合い支え合う
暖かく子どもの育ちを見守る暮らし。
読み聞かせ目安 中学年 5分
あらすじ
ペレは、子羊を一匹飼っていました。
ペレも子羊もそれぞれ大きく育ちましたが、子羊の毛は伸びたのに、ペレの服は短くなりました。
そこでペレは、子羊の毛を刈り、服を作ることにします。
刈り取った毛を、おばあちゃんに梳いてもらいました。
おばあちゃんが毛を梳いている間、ペレはおばあちゃんの畑の草を刈りました。
次にペレは、別のおばあちゃんのところへ行って、毛を糸に紡いでもらいました。
その間、ペレはおばあちゃんの牛の番をしました。
その次は、ペンキ屋さんのところ。
ペレは、糸を染めるため、ペンキを分けてもらおうとします。でも、糸はペンキで染めるものではないと知りました。
ペンキ屋さんは、ペレをおつかいにやり、お駄賃として、おつりで染粉を買わせてくれました。
ペレは自分で糸を染めました。
濃い青い糸になりました。
それから、ペレはお母さんに、糸を布に織ってもらいました。
お母さんが糸を布に織っている間、ペレは妹のお守をしました。
次は仕立て屋さんのところ。布を服に仕立ててもらいます。
ペレは、仕立て屋さんの家の干し草集めと、豚の餌やり、薪運びをしました。
そうして仕立てあがった服を着たペレは、子羊のところへ!
ペレは子羊にいいました。
「あたらしいふくを ありがとう!」
子羊は、笑っているような顔で、
「ベーエーエー」
と鳴きました。
読んでみて…
澄んだ青空を思わせる水色を背景に、新しいズボンを履く男の子。
羊がじっと見守っています。
明るい緑の丘に、咲き乱れる黄色いポピーの花。
とても健やかな感じのする、明るくきれいな表紙です。
表紙をめくっていくと、ひなぎくの咲く明るい野原に、裸足で立って子羊を抱く男の子。このお話の主人公ペレが、にっこり微笑んでこちらを見ています。
どこから見てもまっすぐで健やかな印象。
この透明感のある健やかさが、絵本全体にわたって漂っていきます。
ペレも子羊も大きくなり、子羊の毛は伸びたのに、ペレの服は短くなる。
子どものペレにはちょっと不思議な反比例ですが、ペレはすぐさまいいことを思いつきます!
自分で羊の毛を刈って、服を作りにかかるのです!
でも、まだ自分一人ではできないことがいろいろあって、そのつどペレは、周りの大人に頼みます。
大人たちは快く、ときに驚きながらも、ペレの頼みを聞いてやります。
でも、ただでは聞いてあげません。
それに見合った仕事を、ペレに託します。
ただ子どものいうことを聞いて、甘やかすのではなく、ペレにできる仕事をさせ、仕事の代価を払わせる。仕事というものがどういうものなのかを、きちんと子どもに教えてやっているのです。
ペレもそれに応えて、一生懸命仕事をします。
草むしりに牛の番、おつかい、妹の世話、干し草集めに豚の餌やり、重い薪も集めます。
労働というものがどういうものなのかを、体を使って、身をもって知る。
生きていくために必要なこと、基本となることを、生活の中で体験しながら身に付けていくのです。
自分の欲求を満たすために誰かに働いてもらう。その代価として自らもその人のために働く。相互扶助による互恵性。働く喜びを小さいうちから、身をもって知りながら育つのは、とても大切なことだと思います。
大人はついつい、子どものいうなりになんでもやってあげてしまいがちです。
でも、そうではなくて、その分の働きを子どもにさせることで、子どもは働く喜びと自尊心を養っていけるのだなと、この絵本を読んで改めて思いました。
さらに、この絵本をよく見ていると、ペレが働いている後ろで、ペレよりももっと小さな子どもが、ペレの様子を見ていることに気づきます。
仕立て屋さんのお孫さんでしょうか。
はじめは、仕立て屋さんのところに布を持ってきたペレを、「何だろう?」という顔をして、指をくわえて見ています。
それから、干し草を集めているペレについてきて、その仕事をながめ、豚に餌をやるペレをじっと見つめ・・・、そしてついには、まだよちよち歩きのような小さな子が、ペレといっしょに薪を持ってついてくるのです!!
もちろん、小さな子なので、たった一本の薪しか持てませんが、それでも大事そうに抱え、しっかりついてきます。
子どもは大人のすることを見て育ちますが、小さな子は、自分よりちょっと大きい子を見て、それをまねながら育つ。子どもができることを、子どもを見て学ぶんだなと、ここでまた改めて気づかされます。
それに、この絵本に出てくる大人は、働き盛りの大人だけではなく、お年寄りもいます。子どもには子どもの、お年寄りにはお年寄りのできる仕事をそれぞれやって、互いに支え合う。ひと昔ふた昔前では、当たり前であった労働のあり方ですが、都市化・核家族化・高齢化が進んだ現代に、とても示唆的なものを感じました。
最後のページ。仕立てあがった濃い青の三つ揃いの服を着たペレは、子羊に、
「あたらしいふくを ありがとう!」
といいます。ペレは毛をくれた子羊にちゃんと感謝の意を表しています。
子羊も、すてきに仕上がった服を着たペレに、やさしい顔を向けています。
そんなペレたちを、ペレの服作りにかかわった人たちが、やさしい眼差しで見守っています。もちろん、おばあちゃんたちも、仕立て屋さんちの小さな子どもたちもいます。
とても暖かく、心なごむ場面です。
小さな子どもから、ちょっと大きな子ども、大人、お年寄り。
各年代の人々が、共に暮らし支え合う。
現代では、学校など教育の現場で、学校・家庭・地域の連携協力が叫ばれて久しいですが、学校の先生も保護者も、地域の人も、大人も子どもも、それぞれがそれぞれに忙しすぎて、なかなかうまくいかないところも多いようです。
「連携協力」するために、苦労しなければならないこともあったりして・・・。
かつての村社会が、すべて良いとはいいませんが、良かったところを取り戻し、今の社会に生かせたらいいなと思います。
小さな子どもから、大人、お年寄り、そして動物、自然環境。各階層、各生物。
いろんなものが、縦糸横糸、布を織るように織り重なって、紡ぎ合って、支え合える暮らしができたらいいなと思います。
そんな社会で、暖かく子どもたちを見守り育てていけたらと思います。
ペレとペレをとりまく、暖かな人々の暮らしのように。
今回ご紹介した絵本は『ペレのあたらしいふく』
エルサ・ベスコフ作・絵 おのでらゆりこ訳
1976.2.3 福音館書店 でした。
ペレのあたらしいふく | ||||
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