絵本とむかしばなし

小学校で絵本の読み聞かせや昔話のストーリーテリングをしています。楽しいお話、心温まるお話をいろいろご紹介していこうと思います。

『くんちゃんのだいりょこう』

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「さむくなってきたねえ。」

冬の足音が聞こえてくると、必ず読みたくなる絵本です。

            

読み聞かせ目安  低学年 7分

あらすじ

こぐまのくんちゃんと、お父さん、お母さんが散歩をしています。

もうそろそろ冬ごもりの季節です。

 

「さむくなってきたねえ。」

 

くんちゃんは、木の枝にとまっている鳥に声をかけます。すると鳥は、暖かい南の国に飛んでいくのだといいました。

くんちゃんは、鳥たちといっしょに南の国へいってみたくなります。

くんちゃんが、お父さんお母さんに聞いてみると、お母さんは、くまは冬は冬眠するということを教えますが、お父さんは、

 

「やらせてみなさい。」

「だが、くんちゃん、かえりみちを よくおぼえておくんだよ。あのおかのうえの 大きなまつの木を めじるしにしてね。」

 

といってくれました。

 

そこで、くんちゃんは丘を走って登っていきます。

でも、松の木の所までいくと、お母さんにさようならのキスをするのを忘れたことに気づき、丘をかけおります。

 

お母さんにさようならのキスをしたくんちゃんは、また、丘を登ります。すると、鳥たちはもうすでに点のようになっていて、くんちゃんは双眼鏡がいるなと思い、また、丘をかけおります。

 

双眼鏡を持って、お母さんにさようならのキスをしたくんちゃんは、また、丘を登ります。双眼鏡を覗くと、すてきな湖が見え、くんちゃんは釣り竿がいるなと思います。

 

家に戻ったくんちゃんは、釣り竿と双眼鏡を左右の肩にかけ、お母さんにさようならのキスをして、また、丘を登ります。

 

丘のてっぺんに来ると、今度はのどが渇いたことに気づいたくんちゃんは、水筒を取りに帰ります。

 

水筒と釣り竿と双眼鏡を持ち、お母さんにさようならのキスをして、また、丘を登ると、今度は、鳥たちが南の国は暖かいといっていたことを思い出し、くんちゃんは麦わら帽子を取りに帰ります。

 

麦わら帽子をかぶり、水筒を釣り竿に下げ、釣り竿を右の肩にかつぎ、双眼鏡を左の肩にかけ、お母さんにさようならのキスをしたくんちゃんは、また、丘を登ります。

 

けれども、くんちゃんの足はだんだんのろくなり・・・あくびがでて・・・。

くんちゃんは旅行に出る前に、家に帰って休むことにします。

 

結局、くんちゃんはそのまま冬中ぐっすり眠ることになりました。

                    

読んでみて…

日に日に秋が深まってきました。

冬の足音が聞こえてくると必ず読みたくなる絵本が、この『くんちゃんのだいりょこう』です。「さむくなってきたねえ。」という、くんちゃんの声が聞きたくなります。

 

こぐまのくんちゃんはとっても可愛いくまの子どもです。子どもそのものという感じの、好奇心の旺盛さ、無邪気さを持っています。

思いついたままに行動し、鳥を追いかけ「だいりょこう」に出ます。

けれども、何度も何度も忘れたもの、必要なものをその都度思い出し、思いつき、家に帰ります。

その度に、大好きなお母さんにキスをして、何度も丘を登ります。

 

度たびの繰り返し、ひとつづつ要素が加わっていくところは、昔話でよく使われる手法と同じで、この絵本を読む子どもたちは、知っていることが繰り返されること、積み重なっていくことに、十分な満足と安心感を持ちながら物語に浸ることができます。

また、何度も何度も同じ道を繰り返し、登っては下りて来るくんちゃんに、

「またぁ。何回いくのー。」

「また、おりるのー。」

と、ダメなお友達?を持つ親近感を抱き、物語を自分の身に引きつけて味わうこともできるのです。

 

「くんちゃん」の絵本を読むことで、子どもたちは充実した楽しさを味わいます。

 

またこの絵本は、絵もとても素朴なタッチで描かれていて、親近感があります。

黒のペン描きに水色の2色のみ。とてもすっきりした寒色のみの絵なのですが、冷たさは感じられません。それよりも、冬が近づいてだんだん澄んでいく空気感が伝わってきます。

 

ペン描きの線も素朴で、やや稚拙な感じもするのですが、それがいい味わいを出していて、丘を登っていくくんちゃんの小さな姿なんて、そのまま転がってしまいそうな、可愛らしさと愉快さがあります。

 

でも、丘のてっぺんにひとり立つ小さなくんちゃんの後ろ姿は、少し頼りなげで、初めてひとり旅にでる子どもの不安感まで伝わってくるのは、黒と水色という寒色のみの表現の効果でしょうか。一見、稚拙な感じがしますが、十分に、旅に出る子どもの内面が表現されていて、味わいの深い絵にもなっていると思います。

 

それから、忘れてならないのは、くんちゃんのお父さんとお母さん。とても素敵なご両親です。

2人とも、ゆったりとくんちゃんを見守っています。

 

お母さんは、何度も何度も戻ってくるくんちゃんを、その都度やさしく迎え入れ、キスをし、見送ってくれます。

 

お父さんは、くんちゃんが旅に出たいと言い出した時、お母さんが心配するのに対して、「やらせてみなさい。」といいます。そして、たったひとつ、一番大事なこと、帰り路の目印になる大きな松の木のことだけを教えます。

不要な心配などせず、多くは語らず、その子にとって一番大切なことだけをしっかり教える。かっこいいお父さんです。

優しく暖かい両親に見守られ、子どもがのびのびと育つ理想的な家庭の姿が描かれています。

 

子どもらしく愛らしいくんちゃんと、優しいご両親、愛情に包まれたこの暖かい絵本を、「さむくなってきたねえ。」といえる季節になると毎年必ず読むことにしています。

 

でも、実のところこの絵本・・・、他のボランティア仲間のお母さんたちにもとても人気なので、いつも先を越されないか、ちょっぴりハラハラもさせられちゃったりしています。つい先日も偶然、お隣の教室で同時に、この絵本を読んでいましたw。

                    

 

今回ご紹介した絵本は『くんちゃんのだいりょこう』

ドロシー・マリノ文・絵  石井桃子

1986.5.26  岩波書店  でした。

くんちゃんのだいりょこう

ドロシー・マリノ/石井 桃子 岩波書店 1986年01月01日頃
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