中国の昔話
か弱い娘が人々の知恵を借りて怪物を退治するお話。
読み聞かせ目安 高学年 10分
あらすじ
大昔の中国の話。
娘が年取った父母のもとへ、菓子を届けに出かけた。
娘が竹藪を通りかかると、
「ああふ、あーふ。」
という唸り声とともに、恐ろしい化け物が飛び出した。
化け物はヌングワマ。
牛のような体をくねらせ、かまどほどもある頭を振りたて、牙を剥き出し、かぎ爪を出して迫ってきた。
ヌングワマの好物は、生身の人の体である。
人の体を、丸ごとくわえ、歯音も荒しくかみ砕く。
ヌングワマは、娘に菓子をよこせといったが、娘は拒んだ。
ヌングワマは、夜更けに娘を八つ裂きにして食ってやるといって、去っていった。
娘は恐ろしさに泣き崩れた。
娘が泣いていると、物売りがやってきて、娘に24本の針をくれた。
家の戸の掛け金のそばに刺しておけば、ヌングワマに刺さるかもしれないからと。
それでもまだ、娘が泣いていると、下肥を運ぶ男がやってきて、下肥をわけてくれた。
戸に振りかけておけば、臭くてヌングワマが逃げるかもしれないからと。
それでもなお、娘が泣いていると、蛇売りの男がやって、毒のきつい蛇を2匹わけてくれた。手洗い鉢の中に入れておけば、下肥で汚れた手を洗いにきたヌングワマに、噛みつくかもしれないからと。
次は魚売りが、魚を2匹くれた。鍋に入れておけば、蛇に噛まれたヌングワマが、湯が入っていると思って鍋に手を入れ、魚に噛まれるかもしれないからと。
その次は卵売りがきて、卵を2、3個くれた。囲炉裏の灰の中に入れておけば、魚と蛇に噛まれたヌングワマが、血を止めようと、灰の中に手を突っ込み、焼けた卵が割れて、ヌングワマの額にぶちあたるかもしれないからと。
それでもまだなお娘が泣きじゃくっていると、最後は石臼売りがやってきて、石臼をひとつくれた。天井から吊るしておいて、ヌングワマがきたら、綱を切ってぶちのめせと。
娘はもらったものをひとつずつ、いわれたとおり仕掛け、恐ろしさに震えながら夜を迎えた。
そして・・・あたりが静まり返った夜更けに、ヌングワマはやってきた。
「あーふ、あーふ、戸をあけろ。」
「きたぞ、きたぞ、おまえを 八つざきにし、かみくだき、くってやる」
娘は恐ろしさのあまり、身動きできないでいたが・・・ヌングワマが戸を叩き壊したかと思うと、24本の針が突き刺さり、下肥がまみれつき、化け物は悲鳴をあげた!
手を洗おうとしたヌングワマは、毒蛇に噛まれ、魚に噛まれ、血止めの灰を付けようと囲炉裏に手を入れると、卵が弾け目玉を刺され、挙げ句の果ては、石臼の下敷きに!
娘はとどめに、鉄の棒で殴り付け、ヌングワマを退治した。
国中に恐れられていた怪物を退治した娘は、褒美をもらい、父母とともに幸せに暮らした。
読んでみて・・・
中国の昔話です。
怪物退治のお話ですが、勇敢な若者や、知恵のある賢者ではなく、泣いてばかりのか弱い娘が、いろんな人の好意や知恵を借り、恐ろしい化け物を退治するお話です。
知恵といっても、ひとつひとつはそれほど効力のありそうな知恵ではありません。
針で突いたり、下肥でいやがらせたり、蛇や魚に噛ませたり、熱々卵を仕込んだり・・・と、どれもとても庶民的な発想のものばかり。
でも、ひとつひとつの手立てが、順々に積み重なり、次の手立てを誘い、ついには敵を仕留めるという展開は、我が邦の「猿蟹合戦」を思わせます。
下肥や石臼なんて、そのまんま!
昔話の類似性、普遍性を感じます。
次々に物売りたちが現れる場面では、ページのすみに、小さく次の物売りの姿が描かれ、お話の進行を助けています。
この絵本はどのページも、とてもゆったり余白が取られているのですが、描き込みすぎていないがゆえに、想像力を掻き立てられるようになっていて、ヌングワマが現れる晩の場面などは、暗く静まり返った夜道に、黒い夜番の影だけが、ひそっそりと描かれたりしていて、いっそう不気味さを誘うようになっています。
ここではテクストも、
「それでも、なにも おこらなかった。あたりは しずまりかえっていた。
すると とつぜん、家のすぐ外で べたべたと ヌングワマの足音がした。」
多くを語らぬ静けさのあとの急展開の語りがとても利いていて、お話をドラマチックに演出しています。
登場するヌングワマも、はじめは墨を垂らしたような黒い影で、はっきりとした姿が見えません。それゆえに、得体の知れない不気味さが漂います。
描きすぎない、語りすぎない抑制の美ともいえる、とても東洋的な美意識のもとで描かれた絵本だなと思います。
お話はすべて、白地に丸味を帯びた八角形の銅鏡のような、お盆のような形の枠の中で繰り広げられます。
まるで古い秘密の鏡を、覗いて見ているかのようです。
色遣いも、古い掛け軸などに見られるようなくすんだ色味で、静けさのなかに広がるドラマに引き込まれるような感覚があります。
日常の世界とは違う、妖の世界を見ているような、不思議な感覚。
渋めでひっそりとしていて、決して目立つ本ではありませんが、とても芸術性の高い絵本だなと思います。
子どもだけでなく大人も、十二分に楽しめる素敵な絵本です。
ただこの絵本は長らく品切れのようで、図書館か古本屋さんで出会うしかなさそうなのが、素敵な絵本だけにとても残念です。
でも、ぜひ手に取って、独特な世界観を覗き、味わってもらいたい、とても素晴らしい1冊です。
今回ご紹介した絵本は『怪物ヌングワマをたいじしたむすめの話』
1982.1 偕成社 でした。
怪物ヌングワマをたいじしたむすめの話 | ||||
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