闘争する女
自尊心をかけた女の闘いの物語。
読み聞かせ目安 高学年 15分
あらすじ
ヘルガは誰よりも器量の良いトロールの娘でした。しかし、身寄りがなく貧しい娘でした。ハンサムなラースから結婚を申し込まれますが、持参金がありません。
ラースとふたり、金持ちのスヴェンじいさんのところに相談にいきますが、スヴェンじいさんは、ラースを自分の娘のインジと結婚させようとします。スヴェンじいさんは、インジにはたくさんの持参金を持たせるというのです。
インジと結婚すると、トロールの王様の次に金持ちになれると知ったラースは、ヘルガをふって、インジと結婚することにします。
かわいそうなヘルガは泣きに泣きますが、雷が落ちるほど泣いたあと、ヘルガは自分で持参金を作る決意をします。
「ふん!なぜ このあたしが こんなところにすわりこんで、ふくれっつらしてなくちゃならないのさ?あたしは いちにんまえのトロールだし、しかも なかまうちじゃ ちょいとしたものよ。さっそくでかけてって、じぶんで持参金ぐらい かせいでみせるわ」
ヘルガは威勢よく持参金稼ぎに出かけます。そして、怠け者や見栄っ張り、欲張りのいる人間の住むところへいきました。
まずは怠け者の百姓のおかみさんのところ。山と積まれた洗濯物を日暮れまでに片付ければ、牛35頭をもらい受けるというかけをします。
ヘルガはトロールの魔法で、洗濯物の山をあっけなく片付け、牛35頭を手に入れます。
次は、ビューティーショップを開きます。秘密の油で「わかがえりクリーム」をこしらえて、老けるのが怖いおばかさんどもから、金を4つもせしめました。
最後は欲張り金持ちの家にいって、山の木を全部たきぎに切ったら山をもらえる約束を取り付けます。
ヘルガは秘密の斧であっというまに木を切っていきます。けれども・・・なんだか様子がへん!ヘルガの仕事に反して、森はどんどん大きくなっていくのです。
なんと!森には他のトロールの魔術が!!あの恋敵インジの魔術がかかっていたのです。
大きな石に変身したヘルガは、大木に変身したインジと大格闘!!
闘いは一日中続きました。
格闘のおかげ?で、山は丸裸になり、インジはラースとの結婚式の時が来てしまったので急いでいなくなり、ヘルガは金持ちの山をもらうことが出来ました。
ヘルガが金持ちになり、多くの持参金を手に入れたことを知ったラースは、また、ヘルガにプロポーズします。
でも、ヘルガは、
「あんたが この世でたったひとりのこった トロールの男だとしても、あたし 結婚なんてまっひらだわ。」
と、潔くラースをふるのでした。
そして、そんなヘルガに新たな求婚者が・・・。
なんと、一番の金持ち、トロ-ルの王様がヘルガに求婚し、ヘルガは女王様になるのでした。
読んでみて…
気骨あふれるたくましい女性の痛快な物語です。
トロールに魔法の秘密道具・・・。昔話的な色彩を帯びた物語仕立てになっていますが、主人公のヘルガは、実に現代的な女性です。
不遇な身の上、婚約者にふられてもものともせず、自分で人生を切り開いていきます。
昔話の中にも、不遇を乗り越える女の姿はよく描かれますが、どちらかというと、昔話の女主人公は、運命に流され、流されながらそれを乗り越えていくものが多いと思います。それはそれで十分立派な形象であると思いますが、この物語のヘルガさんには、運命に流されるというより立ち向かっていく、自力で持参金を作るという課題を自らに課し、達成していくという現代的な力強さがあります。
ヘルガが持参金を作るのは、もはやラースと結婚するためではありません。すでに、持参金を作る決意をしたときにはもう、ヘルガの頭の中にラースはいなかったでしょう。
「ふん!なぜ このあたしが こんなところにすわりこんで、ふくれっつらしてなくちゃならないのさ?あたしは いちにんまえのトロールだし、しかも なかまうちじゃ ちょいとしたものよ。さっそくでかけてって、じぶんで持参金ぐらい かせいでみせるわ」
このヘルガの言葉には、自尊心をかけた闘いに出る強い決意があります。
そして、人間界に出ていって、怠け者や見栄っ張り、欲張りを手玉に取って、次々と財産を築き上げていく。その働きっぷりは実に痛快です。
最後は、ラースとの結婚を邪魔したスヴェンじいさんの娘、恋敵インジとのすさまじい格闘!女の意地をかけた大乱闘ですが、実はもうすでに、この時のヘルガの頭の中に、ラースとの結婚の意思は全くないでしょう。この時のヘルガは、自尊心を貫くために闘っており、もはやインジは恋敵ではなく、ヘルガが打ち立てた目標の達成を阻止しようとする敵であり、インジがラースと結婚しようがどうしようが構わないのだと思います。
この絵本を読む子どもたちもきっと、ヘルガの闘いに愉快さとともに、正義感も満たされ、痛快な感情を味わうことができると思います。
特に、女の子たち。高学年になるともう反抗期に入っている子もいて、手を焼くお母さんもいるようですが、この絵本は、そんな思春期の入り口に立った子どもたちの正義感や倫理観も十分に満たし、思春期に培うべき気骨を十分に養い、自尊心を持ち続けること、自己を肯定する生き方への希望を与えてくれることになるだろうと思います。
この絵本には、物語が始まる前に、2人の天使が「♡ほんとの しあわせを もとめる人に♡」という言葉を掲げているページがあるのですが、ヘルガは再び舞い戻ってきたラースに、
「あんた、あたしをまってる気なんか、これっぽちも なかったくせに。あたしはね、あたしじしんを愛してほしいのよ、あたしの持参金じゃなくて」
と言い放ちます。「♡ほんとの しあわせ♡」を得るために、人の本質を見抜く目と自尊心を、子どもたちも大切に育てていってほしいなと思います。
今回ご紹介した絵本は『ヘルガの持参金』
トミー・デ・パオラ作・絵 ゆあさふみえ訳
1981.9 ほるぷ出版 でした。
ヘルガの持参金 | ||||
|
ランキングに参加しています。ポチっとしていただけると嬉しいです。