絵本とむかしばなし

小学校で絵本の読み聞かせや昔話のストーリーテリングをしています。楽しいお話、心温まるお話をいろいろご紹介していこうと思います。

『クリスマス人形のねがい』

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切ない願いが叶うとき・・・。

 クリスマスには不思議なことが起こります。3つの願いが1つに叶う素敵なお話。

 

クリスマス人形のねがい

ルーマー・ゴッデン/バーバラ・クーニー 岩波書店 2001年11月
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by ヨメレバ

 読み聞かせ目安  高学年  ひとり読み向け

あらすじ

 ホリーは、赤い服と靴、緑のペチコートと靴下を身にまとったクリスマス人形。

おもちゃ屋のウインドウに、たくさんのおもちゃたちと並んでいます。

 

今日は、クリスマス・イヴ。どのおもちゃもみな、今日中に買ってもらうことを願っています。きれいな包装紙に包まれて、靴下に入れられて、おうちができて、子どもに遊んでもらえるように。

 

「わたしもつつんでもらえるかしら?」

「きっとだいじょうぶだよ。」

 

ホリーも、心配でなりません。

 

大きな町はずれには、セント・アグネスという孤児院がありました。

アイビーは、6歳になる女の子。セント・アグネスで暮らしていましたが、クリスマスの日、子どもたちみんなが、どこかのおうちで預かってもらえるのに、アイビーだけ、預かり手がなく、「幼子の家」に預けられることに・・・。

 

「幼子の家」へ行く途中、アイビーは夢見るおばあちゃんの家を求めて、知らない駅に降り立ちます。アイビーは、街のクリスマスの市場を見てまわり、焼き栗に焼きリンゴ、ミルクたっぷりのお茶を買って楽しみました。

 

その頃、おもちゃ屋の少し先に住んでいる、お巡りのジョーンズさんの奥さんは、市でツリーやヒイラギ、キャンドルや飾り玉を買ってきて、家の中にクリスマスのしつらえ中。ジョーンズ夫妻には、子どもがありませんでしたが、奥さんは、今年はなぜか無性に、クリスマスの準備をしたくなったのです。

 

おもちゃ屋では、おもちゃがつぎつぎに売れていき、閉店の時間に。

店員のピーターが、後片付けと戸締りをして出ていきました。

クリスマス人形のホリーは・・・、売れませんでした。

 

市が終わって、屋台が壊され、灯が消えた街の広場は、がらんと静かに・・・。

アイビーは、窓辺にクリスマスツリーのあるおばあちゃんの家を探して、あてどなく歩きます。路地の突き当りの、パン屋さんの粉置き小屋で、夜を過ごしました。

 

その路地のすぐ近くには、あのおもちゃ屋さん。売れ残ったおもちゃたちの嘆きが聞こえます。

 

日は変わって、クリスマス当日。鐘の音で目が覚めたアイビーは、ぼんやり歩いて、おもちゃ屋さんの前に行きました。そして、目にしたのです!

 

「あたしのクリスマスの人形だ!」

 

ホリーも、思いました。

 

「あたしのクリスマスの女の子!」

 

ふたりは、お互いを強く求めました。でも、ふたりの間には、ウインドウのガラスがあります。

教会から、人がどっと出て来たので、アイビーは、その場を立ち去りました。

でもそのとき、きらきらと銀色の光るものを拾います。ピーターが落としていった、店の鍵でした。

 

クリスマスの朝、ジョーンズさんの奥さんは、早起きして朝食の準備。

アイビーは、窓辺にツリーの飾ってあるおばあちゃんの家を探して歩き、ジョーンズさんの家の窓辺にたどり着きました。

 アイビーは、中を覗き込み呟きました。

 

「あたしの朝ごはんだ。」

「あたしのおばあちゃん」

 

そしてまた、おもちゃ屋さんへ行きました。

するとそこでは、店員のピーターが泣きながら、お巡りのジョーンズさんと鍵を探していました。

アイビーが、鍵を差し出し、一件落着。

ジョーンズさんは、粉まみれのアイビーを迷子と見て、家へ連れ帰ります。

 そして、ジョーンズさんの家につくやいなや、アイビーが言ったのです!

 

「ここが、あたしのおばあちゃんのうち。」

 

ジョーンズさんはびっくり!

奥さんは、大喜び!!

アイビーも、大喜び!!

 

クリスマスツリーの下には、ピーターがお礼にくれた、クリスマス人形のホリーがいました。

 

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読んでみて・・・

  クリスマスには、不思議なことが起こります。

クリスマス人形のホリー、みなしごのアイビー、子どものいないジョーンズの奥さん。3者の願いが1つに叶う、素敵なお話です。

 

クリスマス・イヴ。おもちゃ屋では、おもちゃたちが口々に言います。

 

「きょうこそ、だれかに買ってもらわなくちゃならないわ。」

「きょうじゅうにね。」

 

 クリスマスの買い物は、今日で最後。今日買ってもらえないと、明日は休日。もうお店は閉まってしまいます。おもちゃたちの願いは、切実です。

ブロッサムさんのおもちゃ屋のおもちゃたちは、どれも素敵なおもちゃたち。

太鼓にラッパ、飛行機、ヨット、乳母車、赤ちゃん人形に花嫁人形、ぬいぐるみ。そして、昨日箱から出されたばかりのクリスマス人形のホリー。

みんなおもちゃ屋さんのショーウインドーで、キラキラ光っていますが、おもちゃはおもちゃ。ただの物。買ってもらって自分の家ができ、自分の男の子や女の子に遊んでもらえないと、本当のおもちゃにはなれないのです。

みんな、きれいに包まれて、クリスマスの靴下に入れられたり、ツリーに下げられるのを、うっとり夢見ています。新参者のクリスマス人形のホリーも一緒です。ずっと売れないで店にいる、主のようなフクロウのおもちゃ、アブラカダブラに脅されながら、売れることを切に願います。

 

一方、みなしごのアイビーの願いも切実。

セント・アグネスの子どもたちみんなが、どこかの家に預けられるのに、アイビーだけひとりぼっち・・・。優しく迎え入れてくれるおばあちゃんを夢見て、クリスマスの市をさまよいます。パン屋の小屋で暖を取り、粉まみれになって夜の街へ。

 

自分を受け入れてくれる家を、人を、切に願うホリーとアイビー。この絵本では、それぞれの願いが、同時進行で語られ、それぞれの願いが、ページを追うごとに、切ないほど募っていくように描かれています。

 

寒空の下、孤独にさまようアイビー。

まるで魔法使いのような、アブラカダブラの不気味な呪縛に、取り込まれそうになりながら、売れ残っていくホリー。

そんな2人が出会い、 惹かれ合う。

そこに、子どものいないジョーンズの奥さんの願いも重なって・・・。

 

クリスマスには、不思議なことが起こります。

ホリー、アイビー、奥さん。それぞれの運命が動くとき、そのつど「チクッ」と何かが差したような痛みがして、何かに呼ばれるような気がして、3者は動き出します。

何が、彼女らを動かしているのでしょう?

フクロウのアブラカダブラの不気味さとも相まって、物語に不思議なムードを与えています。

 

不思議な運命にいざなわれ、愛を暖め合う家を、人を求める3者は出会い、それぞれの願いはひとつになって、とうとう叶えられます。

「だれかにあそんでもらいたい」というホリーの強い願いと、「あたしのおばあちゃんち」を探しさまようアイビーの、身を切るような孤独感が、物語の進行するごとに、積み重なり、切なさに締め付けられそうになっての、願いの成就は本当に感動的!

ああよかった!!と、愛に満ちたクリスマスを、心から祝いたい気分になります。

 

絵本にしては、お話がかなり長く、物語の本に大きな美しい挿絵が付けられた、といった方がよいくらいの絵本なので、読み聞かせには向きませんが、高学年の子どもが、じっくりひとり読んで味わうのには、うってつけの絵本です。

 

バーバラ・クーニーによる絵は、明るく透明感があって、3者の切なる願いを描くのにぴったりの清潔感があります。

細部まで丁寧に描き込まれ、クリスマスの市の賑わいから、一歩路地に入れば、しんと静かで、凍てつく寒さが身に染みるような景色。夜のおもちゃ屋の、ちょっと怖いような不思議な感じ・・・。

そして、願いが叶うクリスマスの朝のすがすがしさ!

絵も十二分に、登場人物の心の動き、切なさ、悲しみ、そして喜びを語っています。

ただ、お話が長いためか、ページの配置の問題か、お話の進行と絵がずれているところがあるのが、ちょっと残念ではありますが・・・。

それでも、3つの願いが重層的に積みあがって、1つに叶うこのお話は、見ごたえ読み応えともに十分!

 

とても美しいクリスマスの絵本だと思いました。

心清らかに、クリスマスを待つこの時期に、ぴったりの1冊です。

 

今回ご紹介した絵本は『クリスマス人形のねがい』

ルーマー・ゴッデン文 バーバラ・クーニー絵 掛川恭子訳

2001.11.12 岩波書店  でした。

 

クリスマス人形のねがい

ルーマー・ゴッデン/バーバラ・クーニー 岩波書店 2001年11月
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