切ない願いが叶うとき・・・。
クリスマスには不思議なことが起こります。3つの願いが1つに叶う素敵なお話。
クリスマス人形のねがい | ||||
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読み聞かせ目安 高学年 ひとり読み向け
あらすじ
ホリーは、赤い服と靴、緑のペチコートと靴下を身にまとったクリスマス人形。
おもちゃ屋のウインドウに、たくさんのおもちゃたちと並んでいます。
今日は、クリスマス・イヴ。どのおもちゃもみな、今日中に買ってもらうことを願っています。きれいな包装紙に包まれて、靴下に入れられて、おうちができて、子どもに遊んでもらえるように。
「わたしもつつんでもらえるかしら?」
「きっとだいじょうぶだよ。」
ホリーも、心配でなりません。
大きな町はずれには、セント・アグネスという孤児院がありました。
アイビーは、6歳になる女の子。セント・アグネスで暮らしていましたが、クリスマスの日、子どもたちみんなが、どこかのおうちで預かってもらえるのに、アイビーだけ、預かり手がなく、「幼子の家」に預けられることに・・・。
「幼子の家」へ行く途中、アイビーは夢見るおばあちゃんの家を求めて、知らない駅に降り立ちます。アイビーは、街のクリスマスの市場を見てまわり、焼き栗に焼きリンゴ、ミルクたっぷりのお茶を買って楽しみました。
その頃、おもちゃ屋の少し先に住んでいる、お巡りのジョーンズさんの奥さんは、市でツリーやヒイラギ、キャンドルや飾り玉を買ってきて、家の中にクリスマスのしつらえ中。ジョーンズ夫妻には、子どもがありませんでしたが、奥さんは、今年はなぜか無性に、クリスマスの準備をしたくなったのです。
おもちゃ屋では、おもちゃがつぎつぎに売れていき、閉店の時間に。
店員のピーターが、後片付けと戸締りをして出ていきました。
クリスマス人形のホリーは・・・、売れませんでした。
市が終わって、屋台が壊され、灯が消えた街の広場は、がらんと静かに・・・。
アイビーは、窓辺にクリスマスツリーのあるおばあちゃんの家を探して、あてどなく歩きます。路地の突き当りの、パン屋さんの粉置き小屋で、夜を過ごしました。
その路地のすぐ近くには、あのおもちゃ屋さん。売れ残ったおもちゃたちの嘆きが聞こえます。
日は変わって、クリスマス当日。鐘の音で目が覚めたアイビーは、ぼんやり歩いて、おもちゃ屋さんの前に行きました。そして、目にしたのです!
「あたしのクリスマスの人形だ!」
ホリーも、思いました。
「あたしのクリスマスの女の子!」
ふたりは、お互いを強く求めました。でも、ふたりの間には、ウインドウのガラスがあります。
教会から、人がどっと出て来たので、アイビーは、その場を立ち去りました。
でもそのとき、きらきらと銀色の光るものを拾います。ピーターが落としていった、店の鍵でした。
クリスマスの朝、ジョーンズさんの奥さんは、早起きして朝食の準備。
アイビーは、窓辺にツリーの飾ってあるおばあちゃんの家を探して歩き、ジョーンズさんの家の窓辺にたどり着きました。
アイビーは、中を覗き込み呟きました。
「あたしの朝ごはんだ。」
「あたしのおばあちゃん」
そしてまた、おもちゃ屋さんへ行きました。
するとそこでは、店員のピーターが泣きながら、お巡りのジョーンズさんと鍵を探していました。
アイビーが、鍵を差し出し、一件落着。
ジョーンズさんは、粉まみれのアイビーを迷子と見て、家へ連れ帰ります。
そして、ジョーンズさんの家につくやいなや、アイビーが言ったのです!
「ここが、あたしのおばあちゃんのうち。」
ジョーンズさんはびっくり!
奥さんは、大喜び!!
アイビーも、大喜び!!
クリスマスツリーの下には、ピーターがお礼にくれた、クリスマス人形のホリーがいました。
読んでみて・・・
クリスマスには、不思議なことが起こります。
クリスマス人形のホリー、みなしごのアイビー、子どものいないジョーンズの奥さん。3者の願いが1つに叶う、素敵なお話です。
クリスマス・イヴ。おもちゃ屋では、おもちゃたちが口々に言います。
「きょうこそ、だれかに買ってもらわなくちゃならないわ。」
「きょうじゅうにね。」
クリスマスの買い物は、今日で最後。今日買ってもらえないと、明日は休日。もうお店は閉まってしまいます。おもちゃたちの願いは、切実です。
ブロッサムさんのおもちゃ屋のおもちゃたちは、どれも素敵なおもちゃたち。
太鼓にラッパ、飛行機、ヨット、乳母車、赤ちゃん人形に花嫁人形、ぬいぐるみ。そして、昨日箱から出されたばかりのクリスマス人形のホリー。
みんなおもちゃ屋さんのショーウインドーで、キラキラ光っていますが、おもちゃはおもちゃ。ただの物。買ってもらって自分の家ができ、自分の男の子や女の子に遊んでもらえないと、本当のおもちゃにはなれないのです。
みんな、きれいに包まれて、クリスマスの靴下に入れられたり、ツリーに下げられるのを、うっとり夢見ています。新参者のクリスマス人形のホリーも一緒です。ずっと売れないで店にいる、主のようなフクロウのおもちゃ、アブラカダブラに脅されながら、売れることを切に願います。
一方、みなしごのアイビーの願いも切実。
セント・アグネスの子どもたちみんなが、どこかの家に預けられるのに、アイビーだけひとりぼっち・・・。優しく迎え入れてくれるおばあちゃんを夢見て、クリスマスの市をさまよいます。パン屋の小屋で暖を取り、粉まみれになって夜の街へ。
自分を受け入れてくれる家を、人を、切に願うホリーとアイビー。この絵本では、それぞれの願いが、同時進行で語られ、それぞれの願いが、ページを追うごとに、切ないほど募っていくように描かれています。
寒空の下、孤独にさまようアイビー。
まるで魔法使いのような、アブラカダブラの不気味な呪縛に、取り込まれそうになりながら、売れ残っていくホリー。
そんな2人が出会い、 惹かれ合う。
そこに、子どものいないジョーンズの奥さんの願いも重なって・・・。
クリスマスには、不思議なことが起こります。
ホリー、アイビー、奥さん。それぞれの運命が動くとき、そのつど「チクッ」と何かが差したような痛みがして、何かに呼ばれるような気がして、3者は動き出します。
何が、彼女らを動かしているのでしょう?
フクロウのアブラカダブラの不気味さとも相まって、物語に不思議なムードを与えています。
不思議な運命にいざなわれ、愛を暖め合う家を、人を求める3者は出会い、それぞれの願いはひとつになって、とうとう叶えられます。
「だれかにあそんでもらいたい」というホリーの強い願いと、「あたしのおばあちゃんち」を探しさまようアイビーの、身を切るような孤独感が、物語の進行するごとに、積み重なり、切なさに締め付けられそうになっての、願いの成就は本当に感動的!
ああよかった!!と、愛に満ちたクリスマスを、心から祝いたい気分になります。
絵本にしては、お話がかなり長く、物語の本に大きな美しい挿絵が付けられた、といった方がよいくらいの絵本なので、読み聞かせには向きませんが、高学年の子どもが、じっくりひとり読んで味わうのには、うってつけの絵本です。
バーバラ・クーニーによる絵は、明るく透明感があって、3者の切なる願いを描くのにぴったりの清潔感があります。
細部まで丁寧に描き込まれ、クリスマスの市の賑わいから、一歩路地に入れば、しんと静かで、凍てつく寒さが身に染みるような景色。夜のおもちゃ屋の、ちょっと怖いような不思議な感じ・・・。
そして、願いが叶うクリスマスの朝のすがすがしさ!
絵も十二分に、登場人物の心の動き、切なさ、悲しみ、そして喜びを語っています。
ただ、お話が長いためか、ページの配置の問題か、お話の進行と絵がずれているところがあるのが、ちょっと残念ではありますが・・・。
それでも、3つの願いが重層的に積みあがって、1つに叶うこのお話は、見ごたえ読み応えともに十分!
とても美しいクリスマスの絵本だと思いました。
心清らかに、クリスマスを待つこの時期に、ぴったりの1冊です。
今回ご紹介した絵本は『クリスマス人形のねがい』
ルーマー・ゴッデン文 バーバラ・クーニー絵 掛川恭子訳
2001.11.12 岩波書店 でした。
クリスマス人形のねがい | ||||
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