絵本とむかしばなし

小学校で絵本の読み聞かせや昔話のストーリーテリングをしています。楽しいお話、心温まるお話をいろいろご紹介していこうと思います。

『せかいいちおいしいスープ』

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フランスの昔話

 知恵の掛け合いだまし合いの愉快なお話。

せかいいちおいしいスープ

マーシャ・ブラウン/こみやゆう 岩波書店 2010年04月
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by ヨメレバ

 読み聞かせ目安  高学年  10分

あらすじ

 お腹をすかせた3人の兵隊が、ある村へやってきました。

兵隊たちは丸2日間も、何も食べていなかったので、この村で何かご馳走してもらおうと思っていました。

 

兵隊を見かけた村の男は、急ぎ帰って、兵隊が来ることを村中に知らせます。

村人たちは、大慌てで食べ物を隠しました。

 

兵隊たちは、村の家々を訪ねます。

けれどもどこもでも、ご馳走するものはない、泊らせる寝床も空いていないと、断られてしまいました。

 

3人の兵隊たちは、相談しました。

そして・・・、なんと石のスープを作ることに!!

村人たちに、お鍋を貸してくれるよう頼みました。

 

石でスープが作れるなんて!!

村人たちはびっくり!!

見なきゃ損と、村一番の大きなお鍋を用意して、バケツで何杯もの水を汲んできました。

 

大鍋には、石が3つ入れられ、火がかけられました。

それから兵隊が、

 

「どんな スープにも、しおと こしょうは かかせませんな」

 

というと、村人は塩とこしょうを持ってきました。

 

「こんなに いい 石なら、これだけでも うまい スープに なるだろうが、もし ここに にんじんが はいれば、もっと おいしく なるんだがなぁ」

 

兵隊がいうと、村の奥さんは、布団の下に隠していたにんじんを、たくさん持ってきました。それから、キャベツに牛肉、じゃがいも、大麦、牛乳。兵隊たちが、石のスープにあったらもっともっとおいしくなる材料を口にするたびに、村人たちは、せっせと運んできました。ただの石から、お金持ちや王様の食べるようなスープができると聞けば、魔法のようです!

 

ついに石のスープはできあがり、大きなテーブルが用意され、村人たちもいっしょにテーブルを囲むことに!

 

「こんな うまそうな スープを たべるなら、パンとにくと―――それに さけも いる!」

 

石のスープを囲んで、大宴会のはじまりです!!

 

みんなすっかり満足し、兵隊たちは感謝され、牧師様や村長さんの家に泊めてもらって、翌朝は、感謝感謝の内に送りだされましたとさ。

  

Z会

 

 読んでみて・・・

 フランスに伝わる昔話です。

戦争が終わって暇を出されたやっかいものの兵隊。ヨーロッパの昔話にときおり出てきますが、これもそんな兵隊たちのお話です。

 

兵隊たちは、お腹をすかせて村へやってきますが、村人たちは慌てながらも、手際よく、家のあちこちに食料を隠します。村の人たちも、貧しく、自分たちの日々の暮らしをたてるだけで精いっぱい。兵隊たちに分けてあげられる余裕なんて、本当にないのでしょう。食料を隠す村人の手際のよさからすると、このお話のような兵隊たちからの無心や、ときに狼藉なども、この時だけでなく、きっとしばしばあったことなのだろうと伺えます。兵隊のお願いを断る村人のセリフも、

 

「ことしは どれも ふさくでねぇ。のこしてあるぶんは らいねんのたねとして、とって おかなきゃならねぇんだ」

「うしや ぶたに やるぶんしか ねぇんだよ」

「たくさんの こどもたちを やしなっていかなきゃ ならないんでね」

 

と切実。実際こんなもんだったんだろうなと、昔の人々の貧しい暮らしがしのばれます。

 

でも・・・、兵隊もお腹がすいている!!

すきっ腹を満たすために、知恵を絞ります。

そこで、思いついたのが「石のスープ」!!

ただの石からスープができると知るや、村人たちもがらりと態度が変わって、俄然、兵隊たちに協力しはじめます。

 

結果、にんじん、キャベツ、じゃがいも、お肉に牛乳と、実に具だくさんのぜいたくな「石のスープ」が完成!!

「石のスープ」を囲んで、飲めや歌えの大宴会!!

 

知恵の掛け合い、だまし合いの愉快痛快なお話です。

 

とってもお得な!?「石のスープ」の作り方を教わった村人は、兵隊たちに村一番の上等な寝床を提供し、帰りには、手土産まで持たせているようで、兵隊たちの背嚢はパンパン。手に包みまで持っています。

そして、村を去り、林の1本道を、逃げるように、すたこらさっさと駆けてゆく兵隊たちの後ろ姿の愉快なこと!!

後ろ姿から、まんまとしてやったり、というにやけ顔が見えてきそうです。

 

絵は、白地に赤と茶の濃淡のみ。ちょっとリアルなタッチで描かれていて、いかにも昔の人々の暮らしを、覗いて見ているような感じがします。

 

兵隊のずるがしこそうな顔。

いかにも困ったという風情で、兵隊の申し出を断る村人たち。

「石のスープ」作りに、欲の皮を張らせた顔、顔、顔。

変に、かわいくきれいに描いていないのも、昔話らしく、人の欲と欲のだまし合いのお話に合っています。

 

知恵の張り合いだまし合い。昔の世相がしのばれるこのお話は、小さな子どもでも、それなりに楽しめるとは思いますが、やっぱり世の中が広く見渡せるようになってきた、高学年の子ども向きかなと思います。

吝嗇、けちんぼ、欲張り、面の皮、手のひらを返す振舞い、だまし合い。

人間のずるがしこい面が描かれた絵本ですが、その背景にある農村や廃兵の貧困。

さまざまな人物や、その置かれた状況を理解したうえで、このだまし合いの痛快なおもしろさを味わうのは、なかなか高度な理解力がいるのではないかと思います。

 

人間が織りなしてきたさまざまな感情のやりとり。それぞれの都合や欲。もろもろが絡み合ってできあがった昔話は、反映された世相をしのびながらも、そこで生きる人々の知恵や、生きる力を感じさせます。この絵本は、それらを愉快に、痛快に、楽しく描いていいます。実に、力のある絵本だなあと思いました。

 

 

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今回ご紹介した絵本は『せかいいちおいしいスープ』

マーシャ・ブラウン文・絵  小宮由訳

2010.4.21  岩波書店  でした。

 

 

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