くれよんと心の旅
子どもの心の奥を描いた絵本です。
くれよんのはなし | ||||
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読み聞かせ目安 低学年 3分
あらすじ
箱に入った8色のくれよん。壁には画びょうで張られた画用紙があります。
くれよんの箱がぽっと開き、
「わあーい、えをかこう! えをかこう!」
青いくれよんが、空と海を描きました。
そこに、黄色のくれよんが、太陽と島を描き、茶色のくれよんが、島の上に、ひとりの男の子と、2本の木を描きました。
緑のくれよんは、木に葉っぱを、島の上で日向ぼっこをしているカメを描きました。
でも・・・、男の子は悲しそう。
紫のくれよんは、男の子が遊べるように、棒を持たせてやります。
でも・・・、まだ男の子は悲しそう。
黒いくれよんは、男の子が家へ帰れるよう、船を描いてあげました。
白いくれよんは、棒に旗をつけ、赤いくれよんは、旗に「たすけて!」と字を書きましたが・・・、船は助けにきてくれません!!
すると・・・、カメが男の子を見上げ、にっこり笑って、背中に男の子を乗せて、船まで泳いでくれました。
「ばんざーい!」
男の子は船に乗ることができました。
カメは島に戻り、眠ります。
8色のくれよんたちも、箱に戻りふたをしめました。
読んでみて・・・
くれよんで絵を描く。
子どもたちの日常によくある、身近な動作をとおして、子どもの心の動きを描いた絵本です。
まずはじめに、箱に入った8色のくれよんが紹介され、つぎに真っ白な画用紙が、現れます。何がはじまるのかな?どんな絵が描かれるのかな?と、ワクワクと期待が高まります。
箱から飛び出したくれよんは、空、海、太陽、島・・・と次々に、伸び伸びと楽しそうに絵を描いていきます。
でも・・・、そうやって描かれていった絵の男の子が、なぜか悲しそうな顔になってしまいました・・・。
ここまで読むと、子どもたちは、「あれ・・・?どうして・・・?」と不安な気持ちになってしまいます。
くれよんたちは、男の子のために、棒を描いたり、旗を描いたり、船まで描きますが、男の子を助けることができません。
子どもたちは、ますます不安になってしまいます。
でも・・・、緑のクレヨンが描いていたカメが、男の子を救います!
男の子は無事、船に乗り、子どもたちはほっと安心します。
大きな広い海に浮かぶ島の上に、男の子はひとりぼっち。
ひとりぼっちのさみしさを、味わうこと。子どもたちの日常に、くれよんで絵を描くことと同じように、存在するできごとなのかもしれません。
小さな子どもにとっては、外の世界がすべて、この絵本の男の子のように、果てしなく広い海のようなものなのかもしれません。
広大な海のなかで、ひとりいる小さな自分。そんな頼りなさ、心細さ。子どもが心の奥にひっそり抱えているものを、描いている絵本なのだと思います。
でも、男の子は救われます。
カメの背中に乗り、大きな船で家路に着きます。
身につまされる不安のあとの、安心感。心から「よかった!」と思える結末があることで、読んでいる子どもの心は安定します。
安心できる場所に帰れること、それを確認できるということが、子どもたちの心の支えになっていくのだと思います。
島に描かれた男の子の気持ち。
男の子を、悲しい顔に描いてしまったくれよんの気持ち。
子どもたちは、どちらの気持ちに寄り添って、この絵本を読むのでしょうか。
自由闊達に楽しく描いた絵が、悲しいもののなってしまっていた・・・。
やったことが、思いがけない結果になってしまうことも、日常にはあるかもしれません。この絵本は、そんな一見失敗なできごとも、結果回復される安心感も与えてくれます。
不安と安定。悲しみと喜び。
心を揺さぶられたあと、ほっとできる瞬間を持てることが喜びとなる。
とてもシンプルでさりげない、小さな絵本ですが、子どもの心の奥に響くものを持った、すぐれた絵本だと思います。
こういった絵本を、読み重ねる経験を積むことで、子どもたちの心もさりげなく自然に、安定したものに育っていってくれたらいいなと思いました。
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いつもありがとうございます。
今回ご紹介した絵本は『くれよんのはなし』
ドン・フリーマン作 西園寺祥子訳
1976.10.10 ほるぷ出版 でした。
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