エジプトの昔話
イソップにも類話のあるお話。
読み聞かせ目安 中・高学年 10分
あらすじ
昔、強いライオンが住んでいました。
ライオンは狩りが好きで、他の獣たちから恐れられていました。
ある日のこと。ライオンはヒョウに出会います。
見ると、ヒョウの毛はちぎれ、皮はボロボロ。
人間にやられてしまったというのです。
ライオンは怒って、人間を探しにでかけました。
しばらく行くと、今度は馬とロバが、馬車に繋がれ、口には轡をはめられていました。
これも人間の仕業です。
ライオンは、ひどく腹を立てました。
その後もライオンは、人間に角を切られ、鼻に穴を開けられ、綱で縛られた牛や、爪や歯を抜かれてしまったクマに出会います。
ついには自分と同じライオンが、人間にだまされて、砂漠の木に挟みこまされ、目に砂を投げつけられているのにも出会いました。
ライオンは、人間を探して、みんなの仕返しをしようと思いました。
するとそのとき、1匹のネズミが、ライオンの足元へやってきました。
ライオンがネズミを踏みつぶそうとすると、ネズミは命乞いをし、助けてくれたらいつか必ず恩返しをすると約束をします。
ライオンは、ネズミを離しました。
その後のことです。
ライオンは、狩りをしていた人間に捕まってしまい、網にかけられてしまいました!
そこへあのネズミがやってきて・・・、ひもを噛み切り、ライオンを助けてあげました。
読んでみて・・・
古代エジプトの昔話です。
捕らえられたネズミが、逃がしてもらったお礼に、ライオンを助けるというお話は、イソップやラ・フォンテーヌにも類話があり、御存じの方も多いかと思います。
でも、このお話は古代エジプトのお話。パピルスの巻物に書かれたのが、紀元200年くらいらしいのですが、お話自体の成立はそれよりもっと古く、紀元前800年ごろなのだそうで、そうするとイソップなどよりもずっとずっと古くから、このお話は語られていたということになります。
そしてイソップと比べて特徴的なのは、ライオンとネズミの逸話の前に、何度も何度も、動物が人間に苦しめられ、人間がいかにずるくてひどい生き物であるかが、重ねて語られているところでしょう。
人間って古代からずっと、自然に対して横暴だったんですね・・・。
そしてそれを自覚していながら、何百年、何千年たっても変わらない。
人間であるのが恥ずかしくなってしまいます。
この絵本は前回ご紹介した『運命の王子』と同じ、リーセ・マニケによるものです。
制作の手法も同じで、パピルスの巻物に書いてあるお話を、翻訳してなったものなのだそうです。
パピルスには、象形文字の草書体「デモティック」という書体で書かれていたらしく、この絵本にも、裏表それぞれの表紙見返しに「デモティック」体が書かれて、雰囲気をよく伝えています。
絵も『運命の王子』と同じく、古代エジプトの出土品などから、お話に合う絵を選んで、付けられたのだそうです。
ただ、『運命の王子』と比べて見てみると、ちょっとこちらの『ライオンとネズミ』の方が、なんとなく見劣りがしてしまうように感じます。
たくさん動物がでてきますが、絵に統一性があまり感じられず、背景の草木も、取って付けたようなお粗末さが感じられ、『運命の王子』がすばらしかっただけに、ちょっと残念です。
それでも、ライオンが人間に捕らえられる切迫した場面は、はっとするような強い美しさがあります。
見開きいっぱいに、砂漠の上に細く輝く三日月を抱いた、大きな漆黒の夜空が広がり、そこで網をかける人間と、捕らえられる雄々しいライオンの姿には、目を見張るものがあり、エジプトの造形も十分に堪能できます。
次のページの、ネズミによって網から解放されたときの、ライオンの安心しきった表情も豊かです。
こちらもまた見開きいっぱいに、ネズミに助けられたライオンの大きな姿。ほっとしたライオンの穏やかな顔。自慢げな小さなネズミの対比が鮮やかで、とても印象的な場面になっていると思います。
全体を通せば、『運命の王子』よりはちょっと見劣りがしていしまいますが、それでもやはり、古代エジプトの息吹が感じられる、とても稀有な絵本です。
なかなかエジプトのお話に触れる機会は少ないと思うので、ぜひ『運命の王子』とあわせて、楽しく美しく知的な刺激を、子どもたちに感じてもらえたら嬉しいなと思いました。
今回ご紹介した絵本は『ライオンとねずみ』
リーセ・マニケ文・絵 大塚勇三訳
ライオンとねずみ | ||||
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