暖かさにつつまれて
くまとともに心をおおきく育てていく少年の物語。
読み聞かせ目安 高学年 10分
あらすじ
谷あいの村に住むジョニー・オーチャードくんには、不満がひとつありました。
それは、村のどの家の納屋にもくまの毛皮が干してあるのに、ジョニーくんの家にはないこと。
ジョニーくんは自分でくまをしとめるんだと、鉄砲を抱えて出かけました。
ところがジョニーくんが持って帰ってきたのは、くまはくまでもとても可愛らしいこぐまでした。
その日からこぐまは、ジョニーくんの家でジョニーくんの家族に囲まれて暮らすことになります。
しかし、困ったことにくまの食欲は旺盛で、牛乳やパンケーキはもちろん、とてもおおきく育ったくまは、鶏のえさや農場の作物、貯蔵庫の食物など、村中の食物を荒らすようになってしまったのです。
しかたなく、お父さんはジョニーくんにくまを森に返すように言います。
けれどもくまは、どんなに遠い森の中や、湖の向こうに連れて行っても、必ず帰ってくるのです。
残された手段はただひとつ。ジョニーくんは「じぶんでやる」と言って、鉄砲を持ってくまを森に連れて行くのでした。
森の中でジョニーくんがなかなか鉄砲にたまを詰められないでいると、突然くまが走り出します。
くまとジョニーくんが行き着いたところは檻の中。
檻は動物園に連れて行くくまをしとめるためのもので、ジョニーくんのくまは、そのまま動物園に送られることになりました。
そしてジョニーくんはその後、いつでも動物園でくまに会えるようになりました。
読んでみて・・・
ジョニーくんという少年が、暖かい家族に見守られながらくまと生活していく中で、心を育てていった様子を見てとれる絵本です。
野生の、それも猛獣といえる動物と一緒に暮らすのはとても難しいこと。
小さいうちはよいけれど、おおきくなりすぎたくまは、家で飼うには手に負えません。お父さんに諭されたジョニーくんは、自分でくまを森に返しに行きます。自分が連れてきてしまい、村中に迷惑をかけてしまったくまを、きちんと自分で責任を持って返しに行くのです。
西に東に何キロも歩き、自力でボートまで漕いでくまを森へと返します。
それでも森から戻ってきてしまうくまを、最後の手段として撃つ覚悟をするジョニーくん。可愛がってきたくまをそんな目に合わせるのは、小さな少年にとってどれだけ辛いことでしょう。でも、ジョニーくんは自分で責任を取る覚悟を決めるのです。
最初は、ただくまの毛皮欲しさに、何の屈託もなく鉄砲を抱え森に出かけたジョニーくんでしたが、今度は小さな胸が張り裂けんばかりの苦しさを持って、鉄砲を抱え森に行きます。
絵でもそれはよく表現されていて、物語最初の鉄砲を抱えたジョニーくんは、子どもらしい笑顔をこちらに向けていますが、くまとお別れしなければならなくなったジョニーくんの背中からは震えが伝わってきそうです。
物語の始めと終わりでは、ジョニーくんの心が、くまの姿がこぐまから大変おおきなくまに育ったように、小さな屈託のないぼうやの心から大変おおきく育ったことがとてもよくわかります。
このジョニーくんの心の成長は、周りの大人たちの暖かい眼差しに包まれてのものでもあります。ジョニーくんがこぐまを連れてきたとき、ジョニーくんの家族はあきれながらも暖かい眼差しで迎え(おじいさんはひょうきんに)、一緒に暮らしてくれました。そして、くまを森に返さなければならなくなったとき、くまを撃たたねばならなくなったとき、ともにジョニーくんの小さな肩には、お父さんの力強く大きな手がしっかりとそえられているのです。大人たちの暖かくしっかりした支えがあって、ジョニーくんは大きく成長していることがわかります。
この絵本は、絵本としてはページ数が多く、なんと87ページもあるのですが、ゆったりと余白が多く取られており、テクストは偶数ページに1行から多くて9行なので、小学校の朝の読み聞かせ時間(私が読み聞かせをしている小学校は10分)でも十分に読むことができます。
教室で読んでいると、子どもたちは始めはジョニーくんと同じように屈託なく物語を楽しみます。特にくまが何度も森から帰ってくるところは、「え~!!また~」「また戻ってきたの~」と声が漏れます。
何度もひょっこり戻ってくるくまの表情、何ともいえない「ひょっこりはん」具合(古い?ww)が絶妙で笑いを誘います。
しかし、ジョニーくんがくまを撃つ覚悟をしたのちは、子どもたちも固唾をのんで事態を見守っていきます。
そして最後、ジョニーくんがくまを撃つことなく、ハッピーエンドでお話が終わるとほっとした様子をみせます。ジョニーくんとともに、心を動かす子どもたちの様子をみることができます。
この本の絵は、セピア色の濃淡のみで描かれており、派手さは全くありませんが、落ち着きがある中に暖かみがあり、物語の内容にぴったりあっています。
アメリカ開拓時代の雰囲気もよく伝えているように思います。
読み聞かせをするときも、この雰囲気をこわさないよう、声色など使わず淡々と落ち着いて、でもそっけない棒読みにはならないよう、ジョニーくんを取り巻く優しい大人たちのように、暖かい声で滋味深く読んであげたいなと思います。
今回ご紹介した絵本は『おおきくなりすぎたくま』
リンド・ワード 文・絵 渡辺 茂男 訳
1985.1.15 ほるぷ出版 でした。
おおきくなりすぎたくま | ||||
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