生きる力
優しく暖かく子どもたちを励ましてくれる絵本です。
読み聞かせ目安 中学年 10分
あらすじ
こねずみのねずおはひとりぼっち。
お腹をすかせてやせ細って暮らしていました。
そんなねずおのもとに、ある日かわいい雌ねずみのねずこが通りかかり、「ちゃんとした ねずみなら、~」とねずおに周りをよく見るようにとアドバイス。ねずおが何かを見つけるのを、穴の中で待っていると告げていきます。
ねずおは、はじめすねていましたが、
「ちゃんと ねずみらしく やってみろよ!」
と自分を振りたて、食べ物を探しに出かけていきました。
ねずおが歩いていくと、さくらんぼを食べている鳥や、たくさんの子どもがいる豚のお母さん、子牛を連れた雌牛、子馬を連れた雌馬、ひよこをたくさん連れた雌鶏、ひなを連れたあひる、お百姓さんちの赤ちゃんなどに出会いました。
「ちゅう! なんて いっぱい いるんだろ!」
そしてある日をきっかけに、ねずおはお百姓さんから、毎日チーズをもらえるようになります。
チーズを食べて力をつけたねずおは、ねずこの穴へ。
いろんなものを見て、チーズも得られるようになったねずおは、ねずこと結婚し、たくさんの子どもをもうけました。
「ちゅう! なんて いっぱい いるんだろ!」
読んでみて・・・
素朴に優しく暖かく、「生きる」ということを肯定してみせてくれる絵本です。
ひとりぼっちでお腹をすかせ、すねてつまらなさそうに暮らしをしていたねずお。
そんなねずおの所へ、とってもかわいらしいねずこがやってきて、何やら人生を諭すようなことを告げていきます。
それからねずおは奮起して、世の中を見て回り、食べ物を獲得する術を身に付け、めでたくねずこと結婚。子どもをたくさんもうけました。
めでたしめでたしなこのお話は、「生きる」ということが何であるかを、多くをいわず語らずのうちに、子どもたちに伝え、「生きる」ということを肯定して見せてくれているのだと思います。
何もなく、何もできずにくすぶっていたねずおが、外の広い世界を見にいって、いろんな生き物の生き方を見る。
それぞれがぞれぞれに暮らしながら、子を産み育てている。
とても単純だけれど、家族を作って、次代に命をつないでいくという、「生きる」ということの抜き差しならない本質を、幼い子どもたちにわかりやすく見せてくれます。
生き物とはこうやって命をつないでいくんだよ。これが「生きる」ということなんだよと。
白をベースに、明るいエメラルドグリーンの映えた優しい表紙。
見開きもエメラルドグリーンで、明るく優しく、子どもたちを誘い込むような絵本のはじまりです。
絵本全体も、余白がゆったりと取られていて、伸び伸びとした安心感があります。
はじまりの、ひとりぼっちでやせ細っているねずおの姿は、本当にひょろひょろで、しみったれていて情けなく、ちょっと笑えてしまえます。
「ねずお」という名前も、単純すぎてユーモラスです。
でも、このしみったれたねずおくんも、思い切って外へでてみると、一変!
緑の木々の間で、真っ赤な実をついばむ小鳥たち。花咲く野原。
景色は何と明るく色鮮やかで美しく、何かを見つけに人生の旅にでることが、肯定されていることが、語らずとも見てとれるようです。
ねずおが出会う、牛や豚、馬、鶏、お百姓さんに赤ちゃん。みんな表情豊かで、性格まで見えてくるように、生き生きと描かれていて、それぞれの生命が、命のありようが肯定されていることが伝わってきます。
「生きる」ということを励ます力が、伝わってくるような絵本です。
最後の、いっぱい子どもが生まれたねずおとねずこの会話もユーモラス。
「ちゅう!なんて いっぱい いるんだろ!」
「これは みんな きみの せいだよ」
「これは みんな あなたの せいよ」
「これは みんな ふたりのせい・・・・・・」
そして2匹見つめ合うw。
本を閉じた裏表紙にも、見つめ合う2匹がいて、何とも暖かくユーモラスに、生命を肯定している感じがします。
とても素朴で単純だけれども、「生きる」ということを肯定し、励ます力のある、明るく美しい絵本です。
人生がまだ始まったばかりの子どもたちに、明るく道を照らしてくれるような、いい絵本だなと思いました。
今回ご紹介した絵本は『ひとりぼっちのこねずみ』
エゴン・マチ―セン作・絵 大塚勇三訳
1986.10.20 福音館書店 でした。
ひとりぼっちのこねずみ |
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